「CODE:紅蓮」06
別室に連れられ放置された護。そこには壁一面を覆う大きなモニターと一つの装置。リモコンだろうか。それだけだった。既に元気は護を置いて移動しており、ここには誰もいない。仕方なしにモニターに近付き、設置されているリモコンと思しき物を手に取る。ボタンは五つ。
「リモコン、なんだろうね……」
電源、再生停止に早送りに巻き戻し、といったところか。視点切り替えなども搭載されているのだろう。それ程機械に強くもない護でも理解出来るような単純な配置。恐らく赤いボタンが電源なのだろうと推測し、押す。すると案の定モニターが起動。立ち上がりもかなりスムーズで早速映像が表示された。
真っ白な室内。そこは先程まで居た場所である。映し出されているのは元気一人だけだった。地べたに座り、大きく開脚。難なく百八十度の開脚であった。やはり戦闘を行うにはそれなりの身体能力も必要となってくるようなのだが、護には到底厳しい話だ。体は硬くはないが、このような事までは出来ないのだとか。
念入りな柔軟を見ていると、画面奥の扉が開く。
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「よお遅かったなー」
柔軟を止め、反動を付けながら無駄に大きな動作で立ち上がる元気。その先に居るのは聖羅だ。元気と同様の黒いスーツを身に着け、長い髪は後頭部で一本に纏められている。普段とはまた違った印象だ。
「女の子は準備に時間が掛かるの。わかる?」
執拗に手首を辺りを直しながら言う。どうやら丈が少しだけ、ほんの少しだけ長いらしく何回か折り込んでいるようだ。ただ短過ぎると肌を露出してしまい、危険である。
「わからなくもないけどな。着心地は良くないしな。がさがさしてる」
「いやそれはちょっとわからないわ……」
「え?しないの?裏地めっちゃ毛羽立ってるんだけど?」
「着過ぎなんじゃないの、それ」
「まあ確かに着る頻度は他の人に比べたら多いわなぁ……まあ慣れたし。着てれば気にならないし。そんじゃ、とりあえず始めようぜ。明日も学校だろ?響かないようにやってやる」
「別に、大丈夫よ。私が負ける、なんてないから」
適当な世間話を切り上げた二人。流れるのは静寂。息を呑むような張り詰めた空気。
構えを取るのは元気だけ。脚を開き、腰を落とし、拳を突き出す。それだけの挙動だというのにその一つ一つが気迫に満ち溢れている。
対して聖羅は何もせずただ整然と立つ。しかしどこにも隙が無く如何なる攻撃にも対処出来るように全神経を相手へと注ぐ。
まるで実戦でも行われるかのような殺気じみた空気。お互いに、勝負事には手を抜かないという性格が噛み合ってしまった結果だろう。視線の交錯。既に始まっているのだ。能力者同士の戦いが。




