「CODE:紅蓮」05
動きを止めて歩み寄る青年に渋々と言った様子で扉を開けて応える聖羅。それに続いて護も室内へ。不思議な閉塞感がある。音が遮断されているせいか居心地は良くない。
「よお。久しぶりだな」
先に声を掛けたのは青年の方だった。あれだけ激しい運動をしていたというのに一切の呼吸の乱れは無く、平然としている。汗一つ見て取れなかった。そして近くで見て改めて感じたが身長が高く細身、とまでは言わないがかなり細めではあるが体格が良い。
「今日は夜までずっと予約取ってたはずなんだけど……俺の見間違いかね?」
刈り上げられた坊主頭を掻きながらそんな事を言う。
「いえ別の用事よ。彼にこの場所の使い方を教えにね」
「あー君があれか!炎系能力者の中でもトップクラスに立てそうな逸材ってヤツぁ!」
「ど、どうも……」
聖羅を避け、護の方へ。真っ黒なスーツで固められた手を差し出す。どうやら握手を求めているようだ。
当然断る理由など見当たらないのでその手を握る。まるで岩でも触っているかのようなごつごつとした感触だ。まるで人間のものとは思えない。
「君のお陰で周りの炎系の能力持ちがざわついててなぁ。現世界修復に一時間だっけ?いやほんと最近じゃここで良く試合してくれって頼まれてさ。俺としては滅茶苦茶ありがたいんだ。ただどいつも能力調整に必死で体が出来てないからつまらないんだよなあ」
握った手を上下に振られながらそんな事を言われるのだが、護としてはどうして良いのかも分からずただ頷き、相槌を打つ。
「おっとそうだ。名乗ってなかったな。俺は大勝寺 元気!見てもらっての通り、風系能力はからっきしだが体術に関しては負けないと思ってるぜ。よろしくな」
「大勝寺さん……僕は、紅野 護です。……あれ、大勝寺って……」
「そう。この人はあのお寺の人よ」
大勝寺。護たちの住む街の外れにある有名な寺である。読んで字の如く勝負事に対してのご利益があるとされているのだ。護も受験する際に訪れた事があるし、聖羅も同様だった。二人の世代では行っていない方が珍しい、と言われるような場所である。
「適当な説明どうもっと。もっとも修行なんぞ呆けて武術学んでるし僧になるのも諦めてるし、仕方ないね。ああそうだ篠宮!暇だったら組み手しようぜ!」
「……お断りよ。こうなるのがわかってたから入りたくなかったのよね」
「いつぞやの決着だ!その雷雲、俺の風で吹き飛ばしてやるぞ」
「いやいや雲は出ないけど。それに決着?何の話?」
謎のスイッチが入ってしまったらしく元気は聖羅に対して試合を申し込んでいるようだ。だが聖羅はそれをどうにかかわせないかと言葉を選んでいた。
「いつの話かは俺にもわからん。だけどはっきり覚えてるぞ。お前の放った電撃が直撃した感覚を……」
「?能力使って倒そうとした記憶はないんだけど?嘘じゃないわ」
「俺が覚えているという事はそういう事なのだ。拒否権はないぞ。スーツの用意よろしくお願いします!」
「やめてよ本当に知らないんだってば……!」
天井のどこかにあるカメラに向かって叫ぶ元気。これでもう逃げ場はなくなってしまった、と悟った聖羅はと言うと。
「わかったやればいいんでしょ……!?準備してくるから待ってなさい。ああ、あと紅野くんモニターのとこ連れてってよね」
「よし、決まりだな!じゃあこっちだ」
護は相変わらず置いてけぼり。仕方ないと言えば仕方ないが。元気に連れられて扉の外へ。
「これから君は面白い物を見れるぞ。ラッキーだったな」
「そう、ですか……」
不適な笑みを浮かべる元気に護はただ引き攣った笑みを返すしかなかった。