「CODE:紅蓮」04
階段の先に待ち受けていたのは至って普通の扉だ。これ見よがしに『STAFF ONLY』の文字盤が取り付けられており、一般の使用者がもし間違って入ってきても――そうそう居ないとは思うが、入るとなると完全な故意だ――引き返せるようになっている。開けると薄暗く、細長い廊下に扉と窓がいくつか。まさに見た目は事務用に作られた階である。
その内の一つ、他のものと何ら変わらない扉に聖羅が手を掛けた。軽く金属が擦れる音を立てながら開かれた部屋の中はというと。
「眩しいですね……」
明かりは少ない、のかもしれないのだが部屋全体が白い壁で覆われており、少ない光量でも割り増しの状態になっているのだ。しかしこのような珍しい部屋でも護の反応は薄かった。何故なら一度、似たような部屋に来た事があるからだ。
「そうなの。それだけが厄介でね。……どうしよ入りたくないんだけど……」
未だに入らず、扉を半開きにして立ち止まる聖羅。どうやら中に誰かが居るようで、物音が聞こえてくるのだ。小さいながらも、“爆発音”のような何かが。やはりまともな場所ではないのか、と護も肩を落とす。
「うーんと……先に言っておくと、ここは所謂訓練施設なの。下は普通に肉体面として、ジムとして使われてて、この部屋は能力者専用のトレーニングルーム。実はカメラが天井に付いてて隣の部屋に……あぁそっちで良かったわ」
「なるほど……だから凄い音してるんですね……」
「あいつは特別うるさいのよね……能力が補助レベルなんだから大人しく道場行ってれば良いのに……」
「会長の知り合いですか?」
「まあ知り合いと言えばそうなんだけど、あんまり関わりたくないというかね?」
扉の隙間から護も覗いて見る。そこに居たのは黒い特殊なスーツを着込んだ青年だった。昨今では少ないであろう丸刈り頭に精悍な顔立ち。一言で表すならスポーツや武道をやっていそうな人。その実、彼の動きは素晴らしかった。一つ一つの動きが洗練されており、鋭くも美しい。その動きは、あくまでも知識でしかないが空手のようである。そしてこれも爆発音の原因だった。まるで床を踏み抜いてしまうのではないかと思えてしまう強さを以って足を叩きつけているのだ。しかし、足が動いていない時にも鳴っているのは一体何なのか。
「あれはね、風系統の能力者なのよ。ほとんど自分の体の周囲でしか使えないんだって。だからああして音を出してるの」
目に見えないが、恐らくそういう事なのだ、と無理矢理頭に叩き込む。こうでもしてやらないと非科学的な事象を飲み込めないのだ。
そうこうしていると、部屋の中央で演武を披露していた青年がこちらに気付いたようだった。体を止め、笑顔で大きく手を振っている。
「気付かれた……」
対して聖羅はとても面倒臭そうであった。




