「CODE:紅蓮」03
外はすっかり日も暮れ、少ないながらも星が見て取れる。風もようやく冷たさが和らいできており、過ごしやすい気温となっているだろう。
二人が向かっていたのはまだ各々の自宅ではなかったようだ。数分後に到着したのは未だに広い敷地内、その一角に常設されている施設である。
「今日から彼の使用許可が下りたので一応説明というか紹介というか……それで来たんですけど」
他の施設と変わらず入り口には受付用の電話機。一般受付、法人受付とそれぞれ番号が設けられておりここに掛ける事で担当の人間と話せるのだろう。しかし聖羅が使っていたのはこのどちらでもなかった。慣れた手付きで別の番号を入力していたのである。
「ああ、そうですか……じゃあ軽く見て終わります。はい」
受話器を置くと渋い顔をしながら振り返る聖羅。一体ここはどのような施設なのだろうか。
「聞きたい事は色々ありそうだけど、歩きながらで良い?こっちは一般の人たちも使うから」
「はい、いいですけど」
「それじゃ行きましょ」
青色の衝立の奥、ガラス製の引き戸の向こう側へ。目の前に広がったのは意外にも見た事のある風景だった。
「なんだかトレーニングジム、みたいですね」
護の言葉通りである。大部屋に設置されている様々なトレーニング用の器具。ふと辺りを一周見渡してみると老若男女世代のバラバラな人間が居るようだった。それこそ筋骨隆々のいかにも鍛えるのが好きそうな男性や、部活で支給されたと思しきシャツを着てランニングマシーンを使う集団。
「そ。こっちは一般向けね。機器はどれも最新だし予約さえすれば時間制で無料で使えるんだけど……知らなかった?」
「有名なんですか……?」
「それなりにね」
「そうだったんですか……」
基本的に体を動かすのは得意でない護からしてみれば未知の施設だ。友人に勧めてみようとも思ったのだが、もし知らないのが自分だけだったら恥ずかしいので、胸に秘めておくだけにしよう。
聖羅はそんなトレーニングに没頭している彼らの脇を邪魔にならないように通り抜け、更に奥へと進んでいく。すると目の前に現れたのは関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉だ。勿論気にせず開けると、やはりと言うべきか細い階段である。
「上ると別世界なんですね」
「ふふっ慣れてきた?」
「いえ、まったく……」
日常と非日常が紙一重に絡んでいるのがこのアナザースター社。一歩踏み込むだけで違う世界が広がっているのだ。ただ少々違ったのは今回は下りではなく、上りであるという点。この先には一体何が待ち受けているのだろうか。護は下を向きながら――当然聖羅がスカートだからというのも考慮してだ。白い足は惜しげもなく見えてしまうのだが、気にしないように――考える。兎も角まともでない事だけは確かだ。