「炎の記憶」31
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――今日も今日とて学校である。例え異能の力をその身に宿していたとしても学生である以上、このしがらみから逃れる事は不可能なのだ。
護もいつものように登校していた。ただ、何故だろうか。ほんの少しだけ元気がある、とでも言えば良いのか、普段よりか少しだけ表情が明るいような、そんな気がする。
「まーくん、何かあったの? 顔色が良い気がするんだけど。テンションは相変わらず低いけど」
昨日は結局話せずに別れてしまった奏が、今日はいつものように気さくに話しかけてくる。護の元気がある事に対して心配しているようだ。不思議なものではあるのだが。
「んー……特には何も」
「歯切れが良い……! 本当にどうしたの?何か変な薬でも飲んだ?」
薬、という単語に護は思い当たる節があるらしい。それもそのはず、昨日帰り際に『研究所』職員に手渡された錠剤があるのだ。検査薬、との事――何の検査なのかは聞いていないが――。
「ぼーっとして……熱でもある?」
「熱は……あるようなないようなって感じかな」
体内に渦巻く何かがあるのは確かだ。それを言葉として顕わすのなら、“熱”が一番正しいのかもしれない。
「うーん……やっぱりおかしくない? 保健室行ったら?」
「別に具合が悪いって訳じゃないし、大丈夫だよ。授業もあるし」
「もー真面目だなー! 変だけど大丈夫ならいっか!」
背中を叩かれる。普段よりも力が弱い気がしたが、もしかすると少しおかしく見える護に対しての気遣いなのだろうか。それとも、自身の感覚が鈍っているのか。
「あっつ! やっぱり熱あるんじゃないのー?」
「心配してくれなくても大丈夫だよ。健康そのものだし。むしろいつもより調子良いくらいだもん」
「ふーん……」
いぶかしむような視線を送られるが、本当の事は話せない。それについては本当に心が痛むが、きつい口止めをされているので致し方ないのだ。
「ねえ、まーくん」
「な、何?」
まじまじと瞳を見詰められる。そこにあるのは嘘を見抜こうというような――
「おーい席に着けよー」
チャイムを登場のテーマソングとして教室に入ってくる教師。もう授業の時間なのである。
「ううん。なんでもないよ」
短い髪を揺らし自席へ。何故か、護は今の感覚をどこかで味わっていたような気がした。どこだったか。
「今日も嵩田か……まったく……」
小さく溜息を吐く教師。しかしそんな誰も聞き取れないような呟きですら護には聞こえていた。どうやら体の感覚も鋭敏になっているらしい。一体どうなっているのか。
「それじゃ、授業始めるぞ」
これから護は向き合っていかなければならない。勿論、自身の過去もそうであるが、体の中に生まれたこの力とも。それだけではなく、様々な勢力とも、もしかしたら戦わなければならなくなるかもしれない。
「……」
ペンを走らせる。それよりも何よりもまずは、授業だ。
Promise
第3話『炎の記憶』終




