「壊れた歯車」10
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聖羅に連れられ、学校を出て数十分。目的地に到着したらしい。傍から見るとまるで普通の下校風景のようであったが、とんでもない秘密を抱えている集団なのである。
「家……?」
護の目の前に建つのは、極一般的な一軒家だ。外壁は茶系の色で纏めてあり、随分と落ち着きを感じさせる。庭のようなスペースもあるがそして表札には篠宮の二文字。
「そう。私の家なんだけど……その、少しここで待っててくれないかしら?」
何故か頬を赤らめ、年相応の女の子らしく振る舞い始めた聖羅に護は少し驚きつつも頷く。驚くのは失礼なのだが。
「……どうせまた片付けていないだけだな。女の子らしくしたいなら少しでも掃除はすることだ」
「ねぇ大和。人間ってほんの少し電流を流しただけで息の根が止まるらしいのだけれど?」
「そのぐらいは知っているぞ?……やめるんだ会長。俺は絶縁体じゃない。ほんの少しなら流れてしまうんだぞ」
聖羅が大和の額に指を向けると、反抗的な姿勢を一転させた。このやり取りの意味は良くわからなかったが。
「まあとりあえず、紅野くんたちはここで待っててくれるわね?」
有無を言わさない視線で二人を圧倒し、自分は勝手に家に入っていく。
「ふむ……きっとすぐには出て来ないだろうな。あいつの部屋は……お世辞でもキレイだとは言えないんだ。そうだな――」
目線を上に、見上げているのはとある一室だろう。きっと聖羅の部屋だろう。
「――言わば、魔窟だ」
「先輩は入ったことがあるんですね」
「遠い過去の話だよ。……とは言っても高校に入ってすぐのことだったがな……君の何十倍も強引に連行されたよ」
まるで遠い過去を思い出すようにしみじみと語る大和。言う割には特段悪い思い出ではないらしい。
「俺も一つ聞いておこうか……紅野君。君は魔法を信じるかい?」
ぽつりと大和の口から出たのはそんな言葉。しかし、護は慌てずに思った通りのことを口にする。
「信じられません、が僕の答えです……でもそれが本当に現実なら努力して受け入れられたらなって……」
しばしの沈黙。そして開口。
「ふっ……そいつがその場しのぎの解答だったとしても、上出来だと思う。それをそっくりそのまま、会長に伝えてやれ」
「大丈夫です。僕、暗記って得意なんですよ……それにしても会長は遅いですね」
「ああ。そんな簡単に魔窟の掃除が終わる訳も――いや、本当は掃除ではなく物を適当に隅に寄せるだけなんだがな」
サラリと事実を言ってのける大和に苦笑しながら、聖羅が出て来るのをひたすら待つ。
――十分が経過しただろうか。
「あの、さすがに遅いんじゃ……?」
「時間の無駄になるな。よし、紅野君。突入を開始するから遅れないように付いてきてくれ」
そう言って、大和が何ら変哲のないドアの取ってに手をかけたそれと同じタイミング。何らかの力を受けて大和の姿が目の前から掻き消えた。
「せ、せんぱい……!?」
「ごめんなさいね?ちょっと片付けるのに手間取って……って大和はどこ?」
「この、怪力女……ドアを開けるときはもっと、静かに、だな……」
叩きつけられた痛みからか、声は途切れ途切れ。それだけ強い衝撃を受けたみたいだ。
「はい、中にどうぞ」
鮮やかにスルーされてしまった。




