第5話 乙女、走る
社長に連行された黒田以下3名(ジョイスティックと付加価値の奴)を見送り次のステップ、ブラへと浩文は挑んでいた。
お陰で浮上が中止になり再び潜行したので、浩文にとってはナイスタイミングだったのかもしれないが。
「それじゃあ、ホック止めるわよー」
ブラは未経験(まぁ当たり前だが)の浩文では、付けることすらままならない。そこで、初回は清香が付け方を教える。
「……あれ。思った以上に貧乳設定なんですね。社長は巨乳にするとか言ってましたけど」
「肩幅がそれなりにあるし、首もまぁまぁ太いからそっちの方が似合うけど、大きすぎてもいいってもんじゃないわ。それくらいでちょうどいい感じよ。けど、首はストレッチなんかで少し細くした方がいいかしら……」
少し跳ねてみれば、つられて飛び跳ねた偽乳の感触がちゃんと伝わってきた。「おお」と変なところに感心していると、先ほどとはうって変わってつまらなそうな顔を清香がしていた。
「ブラではあまり興奮しないのね」
「いや……なんかさっきの馬鹿どものお陰で頭が冷やされた感じでして……それに」
フッと意地の悪そうな笑みを浮かべながら、彼は
「なんかさっきのでもう……行けるとこまで行って姿見せて人を騙せるくらいになってやろうかなーって。吹っ切れた感じで」
「あら潔いわね。そういうの、嫌いじゃないわ」
二人して口に手を当て笑いながら、内心悪どい笑みをし合う。が、どう見てもすらりとした美女同士がお互い微笑みあっているようにも見えたとのことだった(社長室にて暇つぶしに監視カメラ経由で見ていた翔子談)。
「けど、あまりぞんざいに胸を扱わない方がいいわよ。今は確かに大丈夫そうだけど……」
「え?何かあるんですか?」
「羞恥という調味料が加われば、貴女は更に"女"としてレベルアップできるってこと」
「?」
「ま、その話は置いといてと。さてと……とりあえずこれ、着てみましょっか」
首を傾げる浩文を無視するかのように清香が取り出したのは俗に言うサマーセーターというものだった。
* * * * *
ずり落ちそうなオフショルダーのサマーセーターから露出する鎖骨と肩は思わず抱きしめたくなるかのような乙女の色気が漂い、スカートから露出するすらりとしていながらも肉付きの良い太ももは光を反射し白く輝く。更に張り付いたパンティストッキングがこれ見よがしに魅了してくる。
セクシーでありながらも可愛らしく、可愛らしいながらもちきんと「大人の色気」が醸し出されているその姿は、二十代になったばかりの初々しい処女のような魅力で人を惑わす。
ヒールのサンダルをまだ歩き慣れていないようで足取りが不安定で、その胸が何度か揺れた。そうして現れたその乙女は頭のカチューシャと首につけられたネックレスを手で弄り、薬指だけを曲げて髪を耳にかける仕草をすると、その姿に合わない男声──それでも無理して女声にしようとしている──で満悦感に浸りながらこう呟いた。
「──どう?」
パッとしない感じの大学生が、本の三時間で姿だけはキュートな女の子になったのだった。
巻き上がる本日二度目の歓声とちやほやする声に、突っ込みをいれながらも優越感に満たされつつあった。
一度全体像を見て分かったが、間違いなく可愛い。三時間で人はこれだけ変われるのかと思ったものだ。
(うん…悪くない……)
普段褒められることなどない彼は、今間違いなく注目されていることに満足していた。
背徳感と羞恥を味わいながらも、それを上回る快感が、彼の体を満たしていく。
(…………ふふ)
浩文の背中が震え、大学生の男の見てくれだけでなく仕草も徐々に"女の子"になっていることに気づき、清香は静かに笑うのだった。