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O・S・K story ~ oneesan to syounen to kurage? ~ お姉さんと少年とクラゲ? 1話 パート7

 「〜〜♪」

 ムラタ=タロウはメルーの部屋に居た。

 客室の時計の時刻は午後7時24分を指していた。


 ムラタは、キッチン近くの机の上へと食事を配膳していた。

 白いテーブルマットが掛けられ、そして複数ある食器の上には各々の料理が添えられていく。

 ホワイトシチュー、丸く白いパン、サラダの盛り合わせ、オムレツ等。

 それは、2人前用意されていた。そして全部、主菜・サラダ・パンに合わせたタイプの皿で盛られている。

 魔王城の雰囲気に沿ったままな食事が食卓の上へと並んでいく。 

 キッチンの右隣には、かなり大きめの銀色の箱型で、引き戸棚などや蓋の変形ギミックの凄そうな配膳車が停車していて、そこから食器や食材含めて全部出てきたものだった。

 メルーはそれを、

 「・・・」

 無言で、机の近くに立って眺めていた。

 そのテキパキとした仕事に、そしてこの状況に対しても表情含め呆気気味になっている。



 事は数十分前に遡る。

 数分前にドアの呼び出し音が鳴ったと思ったら、ムラタ=タロウがドアスコープに写る形で居た。

 そして、メルーがドアを開けると、部屋分け廊下の方に居たのは、ムラタ=タロウと、シャルディアの姿。

 そしてメルーの部屋の間近に立っていたムラタ=タロウの横には、ホテルでホテルマンがルームサービスで食事を配達する時などに使う、銀色の大型配膳車があった。

 

 『晩御飯、お届けに来たっす〜』


 メルーは、ドアを開けて対応しておきながらだが、そのふいな展開に驚いた。

 その配膳車は、土足禁止、もとい玄関の段差に対応できるように、台車の上に配膳車が乗っている形だった。だが台車は配膳車との専用セットのタイプのもので、四方に厳重な拘束部位も備わっている。

 ムラタは玄関に密着させて、拘束を解除して玄関廊下の中に配膳車を入室させる。

 

 シャルディアが続いて声を出し、


 『―――伝え忘れていてすまない。晩餐は客室でとって欲しいんだ。しばらく滞在する間は此方で食事の手配はさせて貰う』


 と、メルーに伝えていた。


 そしてメルーは手持ちぶたさで後ろからムラタ=タロウの仕事を眺めていた。

 食事が盛られる前の食器は全て、何故かとある過程を経させていた。

 それは、この客室に置かれていた、キッチンの洗い場の左隣にある大型の業務用食器乾燥機のようなものに通す事だった。

 ガラスケースタイプではなく無骨な金属外壁のそれを曲線を描き奥に上昇りに開くケースを開けて、食器全てをそこに入れて閉じて、食器洗い機の音を出すその機械の箱の下辺りの端末画面をムラタ=タロウは見て何かを確認していた。 

 メルーは気になり、それは何なのかを尋ねてみた。すると、

 『あ、これっすか?コレは食器用の毒見役の道具っす。というよりは毒素探知と殺菌洗浄を兼ねた道具っすね。名前は『毒性洗浄機』って言うっす。魔王城っすから毒殺とかの暗殺沙汰とかの対策が成されているんすよ』

 と、答えていた。そして、

 『毎日朝に点検するんで、大丈夫のはずっすよ〜。自分も食事が出来たら毒見役をするんで、一応心配はそんなにいらないと思うっす』

 と、メルーが驚く言葉を続けていた。

 『毒見役、って・・・ムラタさん、が・・・ですか?』

 『はい、そうっす。自分、マーメイド種なんで毒に耐性は結構あるんすよ〜。この機械に何か細工をされてても、自分が先に使われた食器、そして食器に乗った食事を食べれば毒味ができる、って訳っす』

 そうムラタ=タロウは答える。

 メルーが少し驚く表情のままでもムラタは更に言葉を続ける。

 『あ、晩御飯はご同伴してもよろしいっすか?毒見役でもあるんすけど、お客人に何かあったら自分が救患対応しないといけないもんで』

 そう伝えてきたので、メルーは少し毒気が抜かされるかのような気分になっていた。


 そして今に至る。


 2人前の食事は、まだ帰ってきていないビリー店長の分ではなく、メルーと毒味役のムラタ=タロウの分だった。

 そしてムラタ=タロウが全てを配膳し終えると、ムラタは毒性洗浄機から大きめのお皿を一枚取り出した。

 そしてそれを一旦机の空いた所に置く。

 そしてムラタは、メイド服の胸内の方へと手を伸ばして、中から眼鏡ケースみたいな箱を取り出した。

 そしてそれを眼鏡ケースみたいに開くと、中からピンセットみたいなトングを取り出していた。

 人の手でギリギリ握り収まるか否か、まさに眼鏡ぐらいの大きさの、掴み先がギザギザとしたトングを、ムラタはキッチンの水道で入念に洗う。

 そして机の上に配膳された料理全てを、先に置いた大きめのお皿の上へと、欠片分ぐらい、料理の外観が損なわれない程度の分だけ切り取って乗せていく。

 そしてムラタはそれをキッチンに持っていて、毒性洗浄機で洗ったフォークを使って食べ始める。

 そして数分ぐらいの合間が経っただろうか、その頃合いになって、

 「・・・ん、問題ないっすね」

 ムラタは毒味役としての仕事を終えたらしい雰囲気を示していた。

 ムラタの使うフォークと同じ時に毒性洗浄機で洗われたフォークやスプーンなどが置かれていく。

 そして配膳が完全に終了すると、ムラタはメルーへと明るい表情を向けて、 

 「ささ、お座りになって下さいっす〜」

 と、メルーへと告げていた。

 メルーは、ハッ、と呆けていた状態から我に帰る。

 ムラタは既に大きめのお皿をキッチンの洗い場に置いて、キッチンを背景にする席の方に腰を降ろして座っている。

 メルーも、内心あたふたとしたが、ムラタと対面する席へと腰を降ろす。

 メルーは窓際が後ろになる席に座った。

 「・・・」

 メルーは、さすがにその様子を見て、我慢しきれずに疑問に思った事を尋ねた。

 「あの・・・」

 「はいっす?」

 「・・・ムラタさんは・・・清掃課の・・・方なんですよね?」

 「そうっすよ?」

 「じゃあ・・・なんで毒味役に加えてこんなお食事も作って・・・配膳係みたいな事を?」

 その質問を聞いて、ムラタは勘違いしたのか、

 「あ。大丈夫っすよ〜清掃課のお仕事は終わってるんで、もうお風呂に入って服も着替え済みなもんで、身なりは汚れてないつもりっすよ〜」

 清掃課として配膳係に適さない身の清潔か否かの疑いの類と思ったらしい発言をしていた。

 メルーは、

 「あ、いえ、そうじゃなくて・・・」

 説明不足だったと言葉を訂正する。

 「・・・清掃課のお仕事をなされているのに、それ以外の・・・課、ですか?・・・の人達がしそうな仕事を、タロウさんはしているんですか?仕事が多い様な・・・」

 メルーはもしや、魔王行政はそんなに大変な仕事なんだろうか、と思ってしまっていた。

 そして今度はムラタ=タロウも察したのか、言葉を持って説明を始めた。

 「あ、本当は自分、厳密には正式の清掃課のメンバーではないんすよ〜」

 「・・・え?」

 「自分、本当は魔王様の毒味役なんす。正式の所属は補佐課になるっす。ですけど普段は朝・昼・晩の時ぐらいしか毒味役とか専属料理人としての仕事とかぐらいしかないんすよ〜・・・他にも補佐課の人達が居るもんで」

 「・・・」

 「とはいえ、他にも色々とお仕事はあるんすけども、ここ最近は暇な時間も増えてる感じでして。・・・で、自分は清掃が趣味でしてね?」

 「清掃が・・・?」

 「はいっす。服も身体もお掃除で汚れても、その後直ぐにお風呂に入れたら最高のリフレッシュになるっすから〜♪」

 ムラタはノリノリで答えていた。

 「だから、暇な時は清掃課に所属して清掃課の清掃をしているんすよ。いわば自主的な掛け持ちっすね。魔王様も毒味役以外の清掃課としてのお小遣い・・・じゃなかった、給料をくれる、って言うんで役得な感じっす。あ、けど清掃課本職の人よりは安いっす。不定期で時給ですし」

 それを聞いて、メルーは何とも言えぬ気分になる。

 見知らぬ縁がそこにはあるのだと、何となく思った。

 そんな一幕を置く。

 一応の納得と理解を示したつもりのメルーは、

 (・・・ぁ・・・)

 1つの、気がかりの様なものを抱いた。

 そしてムラタへとメルーは尋ねる。

 「あの、ショータ・・・隣の部屋の子の晩御飯は・・・」

 「あ、隣の方のお客人の方っすか?まだ配膳はしてないっす」

 「できれば、そっちを優先して欲しいです。・・・隣は、子供で・・・」

 「うーん・・・できればご客人どちらとも一緒に晩御飯を食べるみたいにしたかったんすけど・・・」

 メルーにとって心臓に悪い事をムラタは言った。

 それはつまり、メルーとショータと、ムラタが一緒に御飯を食べるという事だ。

 今のメルーには、色々辛い。

 だが、メルーは、そのムラタの物言いがあまりに自然なので、単純に他意はないものの様に見えた。

 「魔王様がっすね?隣のショウタ君、でしたか、が今は眠ってしまっているらしい事を自分に教えになりまして」

 メルーは、その返答を聞いて、ふいに二の句が継げれなくなる。

 「ですんで、ショウタ君の晩御飯はショウタ君が起きられてから食事の用意をしよう、って感じになったっす」

 「そう、ですか・・・」

 それを聞いて、安堵すべきなのか、どうなのか、メルーにはただ微妙な気持にさせられる。

 魔王に気をつかわれたのか、それともただ事実なだけなのか、メルーには分からない。

 「まま、ご安心下さいっす。自分がちゃんとショウタ君の毒味はするっすから」

 「・・・?毒味役の方は、貴方だけなんですか?」 

 メルーは、2度も晩御飯を用意したり、食べたりするのだろうかと思って尋ねた。

 「いえ?他にも居るっすよ?何人か」

 「あ、そうなんですか・・・」

 だが、ムラタは天然なのか、自然とそう答える。

 メルーは、恐らくは用意と毒味はするだけで、食事を一緒にするという程ではないのかもしれないと、何となく思った。 

 そしてムラタはというと、あっけらかんに気さくな雰囲気で、

 「ですんで、最悪自分が死んでも、他の人達がちゃんと毒味するんで大丈夫っすよ〜」 

 メルーが少し怖がる様な事を口にしていた。

 「ささ、ご相伴で申し訳ないっすけど、一緒に晩御飯を食べましょう♪」 

 ムラタは、晩御飯を目の前にして、

 「いただきますっす」 

 と、両手を合わせて作法を示した。

 メルーも少し慌てて、 

 「い、いただきます」

 と、どこか、昨日の夜のショータの気持ちが自覚無くとも何となく体験してしまっている状態で食事を始めていた。


 「あ、お酒とかはお飲みになるっすか?」

 ふいなムラタの質問に、メルーは咳き込みかけた。






 ==============================



 




 「・・・・・・」


 ショータは、目を覚ましていた。

 ソファーの上で、自然に倒れたかのように、左肩を下に横になっていた。

 ぼんやりとする感覚。

 部屋の中は、暗かった。

  

 (ぁ・・・れ・・・) 

 ショータの身体はゆらりと、起きているのか起きてないのかの自覚も薄いままに身を起こした。

 ショータは、ぼんやりとする頭のままで、向かい合った窓の方を一瞥した。 

 閉じられたカーテンの外からは街灯の類の光は入り込まない。  

 しかし、カーテン越しなのに三日月の光の輪郭の下の一部がカーテンに写っていると思う程に、月光の夜空が綺麗に瞬いていた。

 それはほぼ闇の世界。だけど白みがあって完全な黒ではない世界。   

 それは、とても綺麗な色に見えた。

 ソファーの上で起きたショータはそれを目にして、見惚れていた。

 「・・・」

 心が、少しだけ軽くなっていた様な気がした。

 喉の奥底でうずいているような、心の整理がつかない苦しみが、それでも少しだけ、安らいでいる様な気がした。

 それはきっと、頭がぼんやりしていて、起きた気持ちのままでいなかったから。

 色々と考える事もなくて、無意識の現実逃避ができてしまっていたから。

 「・・・」

 ショータは、また横になった。

 何も、考えたくない気持ちだった。

 ただこの夜空が傍にあって眠り続けたい。

 そんな、満たしようの無い渇きに似た寂しさを誤魔化せる何かを、ショータは欲していた。

 

 ただ、手元にあった大切なコップ。

 これだけを抱き寄せて、眠っていた。 

  

 だから、ショータは心も感情も思考も無く、ただ瞼を落とした。

 心が閉じるには、時間がかからなかった。


  ―――――・・・


 幾許かの時間がまた経った頃。

 子供が再びまどろみにおちた後、部屋を照らすカーテンの外から入り込む月光に影が出来た。

 その影は、銀髪を月光に照らさせ、子供の間近に寄る。

 ソファーの上に、横になる、子供的とは言えない苦悩が顔に染み付きすぎた一人の子供の寝顔。

 それに身を屈め、右手を伸ばし、子供の頭を緩くなでる。

 さらさらとした、女の子の様な髪の毛。

 その下に見える顔は、ただ、心の中を空っぽにしたい事を望むように無色に白かった。

 「・・・」

 その影の主は、男の子を綿布を扱うかのように右手は背を、左手は足を抱きかかえた。

 子供は関節が自然と曲がる事は無く、影の主の両手に篭る魔力が、自然と男の子の姿勢を窮屈ではないものにした。

 男の子を抱きかかえた影の主は、ベッドの方へと歩いた―――――





 =====================================





 店主は部屋分け廊下前のドアの方へと戻ってきた。

 触手の数本を使って、頭の上には布団セット用の白袋に詰められた寝床を持って運んでいた。

 近隣の魔王城内の護衛課の面々からけったいなものを見るかのような目線を受けながら、特に気にする事も無く店主はドアを開けて部屋分け廊下の中へと入っていく。

 そして、部屋分け廊下に居るシャルディアと目線が合った。

 だが、シャルディアはまるで数瞬だけ石像の様な感じで、反応が無い様相になっていた。

 「・・・?おい」

 店主は声をかけた。

 すると、数秒遅れて、

 「っ、あ、ああ。ビリーか。どうしたんだい?」

 と、シャルディアが応じていた。

 その様子を見て店主が眉を潜め、真面目に怒っている表情で、

 「・・・護衛を担当しているヤツが、それでいいのかよ」

 質問していた。

 シャルディアは申し訳なさそうな顔で、

 「すまない・・・少しばかり、此方の方の身体が寝てしまっていたようだ」

 その言葉に、店主は、

 「・・・分身体を寝かせても余力が無い状態にまで自分を追い込むんじゃねぇよ。・・・今、オメェは色々と常に何かしらの西南国中に特異点能力を展開している身の上だとしてもな」

 「・・・すまない・・・」

 「・・・ここは俺が護衛すっからオメェは寝てろ」

 「っ・・・なに?」

 「飯はいらんし、ウチの従業員を護るのは俺だ。・・・そしてオメェの場合はショウタだ」

 「・・・」

 その言葉に、シャルディアは数瞬驚いた顔をしながらも、苦笑を示した。

 「すまないな・・・だが、大丈夫だ」 

 「・・・」

 店主は呆れたように無言で何も言わなかった。

 そしてふと、ショータの居る客室の方を見て、

 「・・・ショウタは、どうだ」

 「・・・寝ている」

 シャルディアは、短くそう答えた。

 店主は「そうか・・・」と返事をしてから、メルーの客室の方を一瞥した。

 「アイツはどうだ?」

 その質問に、シャルディアは、

 「・・・」

 何故か、目線を微妙に逸らした。

 「・・・おい、何だ一体・・・」

 「あ、ああ、・・・その、ね・・・」

 「・・・何かあったのか?」

 「・・・彼女は、どうやらお酒はそんなに強くない・・・みたいだね」

 と、シャルディアは口にしていた。




 ―――――数十分程、前。

  



 「では、お酒は無しにするっすね?」

 ムラタは、メルーの返答に応じて、お酒は出さないことにした。

 「お、お願いします・・・」 

 メルーは、そうムラタへと口にした。

 ムラタはまた席を立ち、配膳車の中から透明な、ペットボトルとはまた違う、洗って何度も家庭で使える様な弾力容器に入ったオレンジ色の飲み物を取り出した。

 大きさは2?ペットボトルレベルの大きさ。

 注ぎ口は蓋型で、蓋をずらせば注ぎ口から飲み物を注げるタイプのもの。

 「これは毒味済みの炭酸オレンジっすけど、どうします?お水の方がいいっすか?」

 その問いに、メルーは、

 「じゃあ、・・・頂きます・・・」

 と、お酒ではない事を確認してから、その飲み物で良い事を了承した。

 毒味済みかつ用意して早い飲み物だったのか、食卓の上に置かれた透明なグラスに注ぐと、ムラタはこの場で毒味はせずにメルーへと手渡した。

 しゅわしゅわと、泡立っていた。

 「では、仕切りなおしっすね」

 ムラタは手にオレンジ色の飲み物の入ったコップを持って、掲げて、

 「乾ぱ〜いっす」

 そう、暢気に口にしていた。

 メルーは、その暢気さにどことなく驚きながらも、

 「か、乾杯・・・」

 色々気後れありながらも、何だかんだで付き合っていた。

 ムラタはコップを机の上に一旦おいて、パンなどを先に食べ始めていた。

 そこから先の食事の姿勢は、さすがに魔王城の人材、とでも言うべきなのか、テーブルマナーのできた綺麗な食事をする。

 メルーは、そんな先程までの奔放な雰囲気はどことなくあるのに、テーブルマナーの雰囲気が勝っている様子を見て少し驚きの気持を抱きつつも、とりあえず喉が渇いたので飲み物を飲む事にした。


   ゴクッ・・・


 「・・・ん?」

 メルーは怪訝な顔をした。

 (・・・んん???) 

 そしてメルーは、喉越しを調べた。

 炭酸オレンジの味にしては、なんだか辛かった。

 それは痛みの辛さではなく喉越しの辛さ。

 そして、

 「ヒック・・・」

 と、メルーの喉から、不意すぎるしゃっくりが出た。

 メルーは、ふいなしゃっくりに顔を赤らめる。

 しかし、それ以前にメルーは自分の顔が、熱さを感じ始めていた。

 コップを置く。そしてムラタへと、

 「あ、の?・・・ムラタ、さん?」

 訪ねてみると、ムラタもメルーがふいに顔が赤くなっているのに気付いて、ふいに少し慌てて、

 「ど、どうしましたっすかっ?!」

 席を立ち、メルーの傍に近寄った。

 メルーの頭はだんだん、ぽかぽかとしてきた。

 なんだか、不思議な気分である。

 「あ、あはは・・・なんか、熱い、れすね・・・」

 メルーの呂律が回っていなかった。

 ムラタはそのメルーの様子を見て、一体どうしたのかという性急な様相になった。

 

 「――――ムラタ」

 

 すると、ドアを経由せずテレポートでシャルディアが部屋の中に現れる。

 現れたのはメルーの右傍。

 シャルディアがムラタへと確認を示す様相で尋ねていた。

 「これは一体・・・」

 「わ、わからないっす。・・・まさか、飲み物にっ・・・!?」

 ムラタは、メルーのコップに手をかけた。

 (そんなまさかっ・・・毒味した上に、用意してから一時間も経ってないっす、それに配膳車は鍵もしてっ・・・)

 ムラタは第三者が手を加えた可能性を危惧した。

 迂闊だった、とこの場で直前に毒味すべきだったとムラタは後悔する。

 ムラタは急いで、メルーのコップへと手をかけて、中身を少量を口に含み、種としての毒味役ができる範疇で調べ始める。

 毒の成分が分かれば、解毒剤を直ぐに用意できるから。

 

 だが、

  

 すると、

 「・・・ありゃ?」

 ムラタは、不思議そうな顔をした。

 「・・・毒は・・・入ってないっすね・・・」

 と、声をこぼしていた。

 シャルディアは、

 「では一体・・・」

 と、声をこぼした辺りで、ムラタの思考を``サトリ``で読んだ所で、ムラタが、

 「・・・あの、ですが魔王様」

 と、畏まって、何かに気付いた様な声をこぼしていた。

 そしてシャルディアは、それを読んでしまっていたので、理解した。

 「・・・アルコールが入っているん・・・だね?」

 「・・・みたいっすー・・・」

 と、ムラタが申し訳なさそうに肯定していた。

 「・・・多分、間違えてしまったー・・・のかなぁ、とー・・・」

 ムラタのその言葉に、シャルディアはムラタの記憶を読み取る。

 そしてムラタの記憶の情報から読み取れたのは、配膳車の中には、炭酸オレンジの入った容器と、別のオレンジ色の飲み物で、同じ容器の物が備わっているという事。

 それは炭酸オレンジではなくオレンジカクテル。

 

 『新鮮なオレンジが一杯キッチンに入ってきたんで、使ってみるっす!』

 

 そして息揚々なムラタの記憶のキッチンでの言葉。

 「・・・」

 シャルディアは、小さく安堵した。

 とはいえ、

 「・・・ムラタ、・・・間違えやすい状態にするのはよくないよ・・・」 

 シャルディアは、そう告げた。

 「す、すみませんっす・・・」

 そしてムラタも、謝った。

 

 「にゃはははぁ〜」


 そしてメルーは、笑い上戸な状態でそんな2人に視線を向けて、状況がよく分かっていないみたいな様子で目をうずまきにして笑っていた。




 ――――――そして今、部屋分け廊下。



 「・・・と、いう訳で、ね・・・」

 「・・・オメェ等は本当に何をやってんだ」

 店主が、額に怒りマークを付けて微妙に震えて呆れるように口にしていた。 

 「すまない・・・ムラタも悪意は無く、無意識でやってしまった事だ。結果的に私が対処する事もできなかった。サトリの範疇の外だ。・・・さすがに、瓜二つな容器に同じ色の用途の違う飲み物を入れて用意するのは・・・どうかと私も思う事だが・・・許してやってほしい」

 と、シャルディアは店主へと謝る。

 「メルー=アーメェイは今、ベッドの上に寝かせてある。食事が必要になったら、また別途に用意させよう」

 「・・・」

 店主は、呆れた顔のままでメルーの居る客室の方へと歩を進めた。

 そしてふと、目線を左へと向けた。

 「・・・荷物を置いてくるから、しばらく待ってろ。・・・ここはな、」

 「・・・?」

 「さっきも言ったが、アイツが居るならココは俺が立つ場所だ。ウチの従業員と・・・そして一時的に預かっただけでも坊主を護るのは、俺の仕事だ」

 「・・・」

 シャルディアは、ただ目を見開いていた。 

 その言葉は、役代わりをするという言葉だった。

 「・・・フフ・・・」

 シャルディアは、苦笑してしまった。

 ただ、わざと辛辣な言葉を連ねようと思った。

 「・・・中々に頼もしいね。・・・だが、魔王と成った者ではないキミには、土台無理だ」

 それは、シャルディアが、店主も理解しているとわかっている上で口にする言葉。

 それは、挑発の様で、試す様で、嬉しさを示す言葉でもあった。

 店主は、目を細め口を開く。

 「・・・知るか。俺は仕事の話をしてんだがな」

 「・・・半分起きて、半分寝る。・・・古い時代は、そんな事が日常茶飯事だったな・・・私や・・・そして多分、キミも」

 「・・・」

 銀髪の魔王は、何か懐かしむように口にしていた。

 「・・・たまには、いいかもしれない。古い時代のやり方を・・・緊張感を持ってくるのもね。・・・だから、キミ1人でここを護るなんて事は・・・させない。私の護るべき子達でもあるから・・・」

 「・・・好きにしろ」

 それは、2人で警備をするという宣誓。

 そして2人の古い時代の者が立つという宣言。

 店主はアホらしい、とでも言わんばかりの表情でメルーの居る客室へと入っていった。

 そして銀髪の魔王はただ、その表情にどこか心が落ち着いた色合いのものを示していた。

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