契約
「あー、オレ真っ当に働く」
踵を返した瞬間、ユストは床に倒れる。
「………」
「返事がない、だたの屍のようだ」
「死んでねぇよ。腹減って限界、ユスト・エルアザルの伝説はここで終わるのか」
その様子を見て、呆れた青年はた溜息をついた。
「ここで倒れられては、商売の邪魔です。仕方ありません、出前をとりましょう」
天井高くまで積まれた、空のどんぶり。
「よくもまあ、カツ丼ばっかり……」
「ごちそうさまでした」
両手を合わせて、カツ丼105杯を完食。
「いやー、助かった。あんた陰険そうなのに、いいやつだな」
ユストが青年の背を叩くと
「お会計の方は、こちらになります」
伝票を差し出された。
「え、値段おかしくね?」
ユストが目を点にすると
「一杯、1100リーデです」
「ぜ、善意の優しさじゃねぇのか?」
「そんなもの、この世には存在しません」
ユストは床に頭を押し付けると
「すぐには払えそうにねぇ……」
「ご安心ください。あちらのデスクに、契約書を用意しています」
「わあ、良心的だなー。オレ、サインしちゃおうかな」
デスク前の椅子に座り
「やるわけねーだろ!! このブラック企業が」
ユストは机の上の契約書を丸めて投げとばす。
「なんてことするんですか。作るの大変なんですよ」
「こんなのただの紙……うっ」
眼帯をしている左目に、チクリと針を刺されたような痛み。
(お前の左目は、病気を治すために竜神様に交換してもらったんだ)
大切にしなさい、なぜかユストは祖父の言葉を思い出した。
(気のせいか……?)
「まいどー、メルクリウスさん。納品に来たよ」
可憐な女性の声。
「アリスさん、ご苦労様です」
腰まである鳶色の長い髪、穏やかな同色の瞳。
豊満な胸と腰のラインが強調される、灰色の作業服は妙に色っぽい。
(うっ、すげぇ美人……)
顔を逸らしたユストに気付き
「魔術師の新米さん? 可愛いね、この店品揃えいいでしょ。店長は腹黒だけど」
「あ、あう……お、お美しいです」
「あはは、ありがとう」
アリスに見惚れるユストを見て
「腹黒は、余計です。アリスさん、ちょっと」
メルクリウスは、小声でアリスに耳打ち。
「しょうがないな。メルさんは、お得意様だし」
「お願いします」
アリスは床に落ちた契約書を拾い上げ
「ユスト君、契約してくれるとお姉さん嬉しいな」
「は、はい、喜んで!!」
ユスト・エルアザル、美女に釣られて契約書にサインする。




