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二枚の楪

作者:狂風師

担当月:1月

ジャンル:サイコホラー(?)

作品キーワード:初日の出 楪 花言葉 二重人格

「ほら見て、初日の出」


 『うー…まだねむぃ…』


「そうだね、帰って寝よっか」


「誰と話してるの?」


「ないしょ」




 バスと電車を使い、友達と一緒に日の出を見られる山までやって来た。

 ただの日の出じゃなくて、一年で一回しか見られない特別な日の出。

 暗いうちから山道を歩いてくるのは大変だったけど、その分良い物が見られた。


 気がする。



 吐く息は白く、足元にはこれから溶けていくだろう雪が、うっすらと積もっていた。

 初日の出を見に来た人は意外に多く、その人たちに踏まれていた部分は土で茶色く汚れていた。

 木でできた柵の近くには、これまた木でできたベンチが置いてあったが、綺麗な雪化粧を崩していない。


 すっかり日の光も浴びきり、もう何人もの人が帰りだしていた。

 目的は日の出だけなので、それが済んでしまえばこんな場所に用はない。

 普段は誰も来ない寂れた場所だから。

 そんな事を知っているのは、きっと柚子ちゃんがよくここに来るからだと思う。


「それじゃあ私達も行こうか」


「いこっか」


 『着いたら…起こしてね』


「もう、柚子ちゃん寝てばっかり」


 『だって今日は私の番じゃないもん』


「もしかして拗ねてる?」


 『……』


「ねぇ…誰かいるの? ほんとに誰と話してるの?」


「なんでもないよ。さ、行こ?」



 登ってきた山道を、今度は逆に下っていく。

 溶け始めた雪のせいで足元がぬかるみへと変わっていて、歩く度に靴が汚れるし、そもそも歩きにくい。

 日の出を見てた時は良い気分だったのに、これのせいで打ち消されているような感じがする。

 あーあ、道中は柚子ちゃんに任せればよかったなぁ。


「ねぇ柚子ちゃん、初詣も行く?」


「んー…どうしよっかなぁ」


 『行ってもいいんじゃない?』


「じゃあ行こっかな」


「きっとすごい人だと思うから、しっかり覚悟しておかないと大変だよ」


「やっぱり明日にしよ? 人が多い所嫌いだし、ね?」


 『柚子ちゃんが行きたくないなら、私もそれでいいよ』


「ダメダメ。今日行かないと初詣じゃないよ」


「だったら聞かなくてもいいんじゃないの? もぅ」



 下山し終わると、ちょうどバスが行ってしまったところだった。

 過疎地域だから次のバスが来るまで、しばらく時間を潰さないといけなくなった。

 近くにショッピングモールのようなものはないし、駄菓子屋のような店屋さえない。

 初日の出の為とはいえ、少し辺ぴなところまで来すぎてしまったかもしれないと後悔しつつあった。


「暇だね」


 『あんまり喋ってると変に見られるよ?』


「大丈夫だよ。今は時刻表見てるから、小さい声ならばれないよ」


 『ふぅん、だといいけどね』


「どういうこと?」


「次のバスまで、まだすごく時間あるよ。どうする? この周り散歩でもする?」


「散歩? 何にもなさそうだよ?」


「座って待ってるよりはいいでしょ?」


「うーん…」


 『好きにしたらいいよ』


「じゃあ散歩しよっか」



 バス停を離れて数分。

 歩いても歩いても、見えてくるのは田んぼや畑ばかり。

 用水路に流れる水の音が聞こえてくる程度で、ほんとに静か。

 この近くに住んでいる人も、今の時間はほとんど外で活動していないみたい。


「静かだね」


 『ね。気持ちいい』


「たまにはこういう所もいいでしょ。戻ったら都会の喧騒だよ」


「帰りたくないなぁ。ね? 柚子ちゃんもそう思うよね」


 『そうだね。ずっとここにいたいなぁ』


「…またそうやって話してる。学校でもそうやって話してるし、誰と話してるの? 怖いよ」


「誰って、柚子ちゃんとだよ」


「柚子ちゃんは自分の事でしょ。自分と話してるの? はっきり言って気持ち悪いよ」


「……。ねぇこの人、柚子ちゃんのこと悪く言ってるね」


 『柚子ちゃん可哀想。きっとこの人は柚子ちゃんのこと何も分かってないんだよ』


「そっかぁ、分かってないんだ。友達だと思ってたのに。ざんねん」


 『こんなの友達じゃないよね』


「と、友達じゃないって、いつも一緒にいてあげてるのに!」


 『仕方なく友達でいてあげてるみたいな言い方だね』


「そうだよね。ひどいよね」


「だってそうやって一人でブツブツ喋ってるから、みんな友達になってくれないじゃない!」


 『もう何言っても無駄みたい。ねぇ、交代しよ?』


「うん、いいよ。バイバイ」


「なんで私に手を振ってるの? そういうのが……っ!」



 何か言う度に、いちいち口やかましく反抗してきて。

 だから、両肩を思い切り押してやった。

 バランスを保てなくなって尻餅をついたところで、体勢を立て直される前に馬乗りになった。

 粘土みたいに指が相手の首の肉に食い込んでいく。



 『ねぇねぇ、ほんとに死んじゃうよ。死んじゃうよ?』


「柚子ちゃん、それ心配してるの? 声が楽しそうだよ?」


 『心配してるよー。すぐに死なないか、心配』


「柚子ちゃんは非道だなぁ」


「…っ…っっ…! ……!」


「あはは、声なんて出るわけないよ」


 『やってるのは柚子ちゃんなんだから、柚子ちゃんの方が非道だよ』


「ほら見て、目が血走ってる。怖いね」


 『こんな目で私達のこと見てたんだね』


「口からよだれ垂らしてる。汚いね」


 『こんな口で柚子ちゃんと話してたんだね』



 腕だけじゃなくて、全身に力が入る。

 周りの音が聞こえなくなるくらい、興奮に包まれているのが分かる。

 柚子ちゃんの可愛い笑い声が脳を支配して、より一層楽しさを感じさせる。

 押していた指が、さらに深く食い込んでいく。

 どこからか軋むような音も聞こえる。






 『あはは、死んじゃったね』


「どうする? 交代する?」


 『うーん、眠いからいいや。柚子ちゃん頑張って。終わったら起こしてね』


「もう、柚子ちゃん寝てばっかり」


 『だってやったのは柚子ちゃんでしょ? 私じゃないもん』


「拗ねてるの?」


 『…柚子ちゃんのバカ』



 私の友達を近くの茂みまで引きずって隠し終わった後、バスがやって来た。

 座席の一番後ろに座って窓の外を眺めているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。

 殺したのは私で、柚子ちゃんは何もやってない。



 バスが終点までやって来た時、運転手さんが起こしてくれた。

 その時にはもう、どっちが私でどっちが柚子ちゃんなのか、分からなくなっていた。

 けれどそんな事はどうでもいい。



「柚子ちゃん、初詣行きたい?」


 『でも柚子ちゃん人が多い所嫌いでしょ?』


「じゃあ帰って寝よっか。なんだか疲れてるし」

楪の花言葉「世代交代」

これを基に妄想していったら、二重人格にたどり着きました。

毎日何回か入れ替わって、どっちが本当の自分か分からない。

そんな感じ。


ではお次は、2月担当の尖角の作品をお楽しみください。

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