壱、出会う。
拙い作品を投稿します。初投稿で、殺し屋中学生の話です。といってもほぼ、高校生ですが。ギャグシリアスの予定ですが、最初はギャグはないです。少しでも誰かの娯楽になればいいな。そう思って書きました。よろしくおねがいします。
今なら断言できる。この世に神様なんてものは存在しない。
至って平凡な中学生、百蔵壱はいつも温厚だがこの時は気がたっていた。それもそのはずだ。今、彼は彼の今までの人生の中で一番の佳境に位置していた。
さかのぼること数日前。
「壱、双葉、すまん。父さんお前らに謝らなくちゃいけない。」
突然、父親が学校に来た。壱は中学3年生、妹の双葉は1年生だ。二人とも授業中に先生に呼び出され職員室前に来ていた。そこにはふたりの父親、百蔵純一が立っていたのだ。純一は情けない声で続ける。
「あのな…もうこの学校には通えなくなる。」
頭がフリーズした。思考が止まった脳に双葉の声が聞こえた。
「え…?どういうこと…?引っ越し??」
苦笑いを浮かべる双葉に、純一は深刻な顔で「違う」と言った。
「よく聞いてくれ。実は父さんの会社がつぶれた。株式会社百蔵は倒産だ。それにたくさんの借金が残ってしまった。家も財産も何から何まで差し押さえだ。だから、もうこの私立の学校へは通えなくなった。」
肩を震わせながらいった純一に、双葉が大きな声を出す。
「なにいってるの!?学校の心配してる場合じゃないでしょ!どうするの!?住む家は?食べ物は?? 私たちはこれからどうすればいいの!!??」
取り乱した双葉を壱が制した。壱は父を見据える。
「父さん。大丈夫だよ僕らは。とりあえず今は落ち着こう。」
「壱…。」
純一は情けなく涙を流す。
「父さん、僕らは一旦伯父さんの所で預かってもらう。それでいいかな?もう親戚はそれくらいしかいないし。」
「伯父さんって…。母さんのお兄ちゃんか?」
純一が聞き返す。
「うん。そう。あの人とはあんまり会ったことないけど。生活費は僕がバイトして入れる。いいだろ?」
「お兄ちゃん?まだ中学生なのに…バイト?」
「あと5日で卒業だ。」
壱は頼りなく笑顔を取り繕った。
「すまん…すまん…壱、今はお前に頼るしかない…。」
「お兄ちゃん…」
壱は双葉の頭をなでながら言った。
「だから父さんは父さんでがんばってよ。また会社立て直すとか、破産申請すれば少しはマシだろ?」
純一の背筋が伸びた。
「いちいちくよくよしてちゃいかんな!壱、双葉を頼むぞ!」
「おう!まかせてよ父さん!がんばろうな双葉!」
「うん…!」
2日後、伯父宅へ来た壱と双葉。古そうな大きな屋敷だった。日本の伝統建築とか言って、教科書に載ってそうな家だ。まさか首都近くにこんな広い民家があるとは思わなかった。そこから着物を着た中年女性が出てきた。
「あら、百蔵さんの壱さんと双葉さんですか?」
「あ、はい。この度はお世話になります。」
壱と双葉が深く礼をする。女性はその姿に感動したようだった。
「まぁ、よくできた中学生ですこと!どうぞ、おあがりになって。」
広い玄関を通ると、木の廊下が果てしなく続いていた。やはりこの家は広い。そう確信した。
「あの、山吹廉人さんはどこへ…」
山吹廉人とは壱と双葉の伯父の名だ。
「ああ、旦那様はただいまお仕事中です。」
「あ、そうなんですか。あのー、あなたは?」
壱がおずおずと聞く。
「私はこの屋敷の家政婦、キリノです。よろしくお願いします。」
キリノさんはにっこり微笑んだ。痩せているのでほうれい線が目立つ。
双葉が口を開いた。
「あの、伯母さまは…山吹凜香さんはいらっしゃいますか?」
「ええ、いらっしゃいます。奥様ならただいまお庭ですよ。」
三人で庭へ向かった。広い廊下を通ってやってきた庭は赤やピンクのバラであふれていた。
「奥様ー。百蔵さんの壱さんと双葉さんがおいでになりましたよー。」
バラの向こうから姿を現したのは車椅子にのった美しい女性だった。のばした黒髪は長く、20代後半くらいのわかい女性だ。
「まぁ…久美さんの…」
久美というのは壱と双葉の母親の名前だ。
二人が幼いころに病ですでに亡くなっている。
「二人ともよく来たねー。キリノさん、二人にあたたかいココアでもお願いします。」
キリノさんは返事をして奥へ消えていった。
「この度は大変お世話になります…」
壱と双葉が礼をする。
「やだ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。もう一緒に住む家族なんだから。」
凜香がそう言うと、いきなり双葉が泣きだした。
「お…おい、双葉どうした?どっか痛いの?」
双葉は首を振る。ずっと固く握りめられていた双葉の拳がやっとほどかれたのを見て、壱は納得した。
ああ、ずっと我慢してきたのか、と。
双葉の泣き顔は物心ついた時から見ていない。母親が死んだときも、父親の会社が倒産し生活が一変したときも、彼女は泣かなかった。
壱は何も言わず双葉を抱きしめ頭をなでた。
そんな二人を見て凜香が言った。
「二人とも、とってもいいお兄さんと妹を持ったね。」
なんだかすこし照れくさかった。
「……すこし、壱くんに話があるの。双葉ちゃんにはあとで壱くんの口から話を聞くといいよ。」
そしてココアを持ってきたキリノさんと双葉は別の部屋へ行った。
「私、コーヒーよりもココアが好きなんだよね。ブラックって飲めなくってさ。」
「僕もです。苦いのより甘いのが好きです。」
凜香が笑う。「そんな君があの人の所でちゃんとやっていけるのかな?」
不穏な空気が漂った。「どういうことですか?」
「あの人…廉人さんは君を自分の事務所で雇おうと考えてる。」
「キリノさん、お兄ちゃんへの大切な話ってなんでしょうか…。」
「わかりませんねぇ。いつも奥様の行動は自由奔放ですから。」
ガラガラッ
玄関の開く音がした。
「旦那さまですね。お迎えに行きましょう。」
「僕を…事務所?伯父さんの?」
そこで生活費を入れさせるつもりか。丁度いい。
「うん。ちなみにその仕事ってのは………」
「殺し屋だ。」
後ろから突然声がした。振り向くとスーツ黒髪の男が立っていた。
「ただいま、凜香さん。」
「おかえりなさい、あなた❤」
男は壱を睨みつけて言う。
「…お前は久美によく似てるな。逆に妹は父親似だ。」
壱が後ずさりする。
「はは…よく言われるんです…。」
もしかしてこの男…今殺し屋とか言ったか…?
男の後ろにはキリノさんと双葉がいた。双葉は不安そうにこちらを見つめている。
「お前に決定権はないぞ。妹を大学まで卒業させてやりたいのならお前が俺の事務所で働け。じゃなきゃこの家には置かんぞ。」
双葉はますます不安げな表情になる。壱は怖くて動けなかった。
この男の威圧感が半端ではない。
「この山吹事務所でな…。期待してるよ、新人殺し屋。」
男は壱の肩に手を置いた。
今なら断言できる。この世に神様なんてものは存在しない。
ついこの間まで平穏だったこの僕の人生が、音をたてて崩壊していた。
はたしてどうなるのか!?つづく
お楽しみいただけましたか?これからも細々とやっていくつもりです。よろしければ応援おねがいします!!