0.面接
「えっと……きしゅう、えんま君、だね?」
「はい」
「変わった名前だね~……」
そういって俺の履歴書をぺらぺらと見る男。俺はその男の胸についている名札を見て思う。店長、小幡玉夫……おまたたまお、貴様が言うな、と。
紀州円満。それが、俺の名だ。大学生。俺は今、アルバイトの面接の最中だ。目の前のいかにもテキトーそうな男がこの店の店長とは……
「それで、どうしてこの店でバイトしたいって思ったんだい?」
「えっと……家の近くで」
「あー長くなりそうだからもういいや。どれくらい働ける?」
「週に3,4日、学校終わってからなら」
「ほい。わっかりました~。面接は以上」
「えっ?終わりですか?」
「採用、ってことだよ。ほいこれ制服」
そういうと店長は引き出しからしわくちゃの制服をとりだし、俺に手渡した。
「いつから入れる?」
「えと、明日の夕方からとか、明後日の夜とか」
「んじゃ明日の17時からね。よろしく」
「あ、はい」
俺はその場の空気に流されるかのように事務室を出た。
事が始まるとき、それは何かしらの予感、予兆が存在するという。またそれは音もなく忍び寄ることも多い。ライトノベルの主人公はこういうのを装備して初めて主人公となりうる。しかし俺にはそんな第六感というものは持っていない。故に主人公には成り得ない。
そんな風に考えていた時期が、俺にもありました……