one scene ~chinese cafe~ vol.1
外に見える並木は未だ紅くはないが、強く吹く風に巻かれ落ちていく葉が目立ち始めていた。
注文したアイスコーヒーの氷を眺めて、少し後悔しながら今度からはホットにしようなどと思い、ストローに口をあてた。
「お待たせしました」
他人行儀に声をかけ、向かいの席に座った彼女の口元は明らかに微笑んでいた。
「ああ・・・どうも」
少し乱暴に返答した僕。
それは別に有意義な一人の時間を邪魔されたからでも、待たされた事を怒っているからでもない。
久しぶりに会った彼女が、以前と少しも変わらない笑顔を僕に向けた事に対して、僕も変わらず普段通りの粗暴な男なふりをし、この再会に気恥ずかしさを感じている気持を隠すためだった。
「相変わらず涼しそうだね」と
寒がりの彼女はマフラーをはずしながら、僕のアイスコーヒーを見て笑う。
僕はウェイトレスを呼び、とりあえず彼女に飲み物を頼ませる。
当然ホットだが、この店は小さいポットで持って出てくるので、チャイナ服のウェイトレスが片言で
「コップは二つでいいですか?」
僕の方を見た彼女。
「二つでお願いします」と 僕が答える。
何もかもが変わらない。
二人で数えきれないほど来たこの店。
卑猥なオブジェや大きめにかかった音楽の流れる薄暗い店内。
あの頃と同じ風景が二人を自然に和ませる。
ただ一つ違っていたのは、あの頃いつも彼女が右手にしていた、僕のプレゼントした指輪はもうそこにはなく、見知らぬ指輪が彼女の左手に飾られていた事だけだった。
to be continued