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絶対にあんたを悩殺してやるんだからね!!

すいません。次でちゃんとリッツのほうに訪れますのでどうかご了承を

そして、翌週の休日。 

 僕達は、お昼ぐらいから海軍省領地南端の港、パストュールにいた。

 海軍省領地に来たのは、総統を決めるために、遊説をする際、訪れた時以来、二回目だった。

 しかも、今回は、長期滞在(といっても二泊)のため馬を引き連れることは出来ないので、海軍省領地内のみを通る、運輸馬車というものに乗って、港までやってきた。

 エイラは、昨日、用事があるので、先にそちらを済ませてから、合流するので、ということで、行き先と、どの馬車に乗ればいいのか、とあとお金だけを、渡されたのであった。

 これは言うなれば、日本のバスのシステムと同じで、レンテンマルク首都のトリニステライヒを起点とし、海軍省首都、ライプニッツを、終点として、各地に交通網が張り巡らされているのだ。

 そして、運輸馬車に乗り、僕は一人で、パストュールに向かっている途中、僕は、色々なものを見た。

 それは、もちろん新鮮な緑の草原や、整備された道、どこまでも青い海と、自然的な意味ももちろんあるが、それ以前に、街並みや、沿岸防備といった、人工的な面で、他の省と一線を画するものが見られた。

 パストュールまでの道のりは、海岸沿いの街を二つ、三つと越えていくものだった。全体的にかかった時間は、それこそ二,三時間程度のものだったが。

 選挙戦の時には、かなり時間もなかったことに加え、海岸沿いは、あまり、人口が多くないため、遊説をしなかったので、僕としてはここらへんに訪れるのは初なのだ。

 僕たちが走っている、道の横に、石と、土嚢をうず高く、積み上げ、堤防と、仕切りの役割をさせ、その奥では、砂浜の海岸に、一定間隔で沿岸砲が、設置され、いくらかの水兵が、せわしなく動き続けていた。

 それらは、太陽の光を浴びて、キラキラと光る、平和的な砂とは、全くアンバランスだった。その黒光りする砲塔にしろ、小銃を所持して、櫓台から、敵を見張る水兵にしろ、それらすべてが凶暴そのものだった。

 街はどれも発達していた。背の高い建物が立ち並び、他の省と比べて、幾分か知性的な、背広に、革の鞄といったものを、持って歩く人々がよく見られた。兵士は全く見られない。

 そして、どれ一つとして、自然が見られなかった。人間味、合理性しか見られない街。

 僕は、運行馬車の運転手にそれぞれの街で、立ち止まって、何か、見ていくかと尋ねられたが、それらすべてを、断って、先を急いでもらった。

 高貴さ、窮屈さ、冷たさ。よく日本の街と似ている。この街もいずれ戦禍にさらされるのか、ということを考えると、どうにも変な感じになったのだ。

 そうして街を抜け、辿り着いた、パストュールは、ごく一般の港町だったので、僕は安心した。

 エイラに指定された場所につくと、僕は、運転手に、お金を払って、返させた。旅行鞄を、自分の足元に置き、顔を上げる。船乗り場に、一隻の小型巡洋艦が、寄せられている。

 速射砲が、ある。機銃や、回転砲塔、魚雷発射管と、一通り、戦争に投入できるくらいに軍備は整っていた。

 船体の表面を眺め回していると、船着き場と、船との間に頑丈そうな橋が架けられていることに気づき、さっさと荷物を中に入れてしまおうと思った瞬間だった。

「おい、ヤクモ、何だ、お前、その恰好は?」

 その野太い声には、聞き覚えがある。僕は、すぐに、後ろをさっと、振り向いた。

「……誰だっけ?」

「ジョナスだよ!」

 おぉ、そうだ。ジョナスだ。思い出した。ここ何か月か会ってなかったので、僕の鳥頭から完全に、彼のことが抜け落ちていた。

「ジョナス、君、最近、会ってなかったけど、どうしていたの?」

「うるせぇ!」

 僕がまっとうな質問をしたのに対し、彼は声を荒げてさらに続けた。

「俺は、お前みたいに、参謀長なんていう出世中の出世ができず、それどころか、ラピスラズリ島の開発長官というみょうちくりんな役職についていたんだよ!」

「ラピスラズリ島ってどこ?」

「レンテンマルク島の南東に位置する、それなりに大きな島だ。元々、民族が住んでいて、森林のうっそうとしたかなり未開の地なんだが、今回、ここを開発して、戦争の際の拠点の一つとして大いに活用するために、軍事基地を建設してこい、とエイラ様に言われたんだよ」

 なるほど、日本史風に言えば、太宰府長官みたいなものか……。確かに、中央から、遠ざかったという意味では、左遷に近いのかもしれないが……。

「どうして、君が、そんな低い役職に就いたの? 君以外でも、それぐらいの、仕事はできるだろうに」

 彼は、ぼくのその質問に、なんだか、まずいことをした子供のような顔をして、

「……、まぁ、それは、こちらにもな……深い事情というものが、な……」

 実は、それが、海戦の時に、ジョナスが、僕のことを、放っておくように、と進言して、それがエイラの怒りに触れたために起きたことだと知るのは今より少し後のことである。

 それから、僕たちは、何もしゃべらなくなった。潮風が、吹き抜けていく。五月の日差し。マリンブルーの海に、果実のような瑞々しい太陽の光が、優しく僕の肌を、照りつけた。

 


 エイラとセラがやってきたのは、すぐだった。二人は、卸たてと思われる綺麗な漆黒の軍服を着ていた。 二人とも、いつもと違って化粧を施していて、かなり綺麗だった。

 僕は、不覚にもドキッとさせられてしまった。その恰好自体は海とは、あまりマッチしていないものの、雰囲気が、軍人の頭領とは、思えないほど優雅そのものであったからだ。

 と、エイラは、僕を見た瞬間、目をくわっと見開いて、ずかずかと近寄ってきた。

 どうしたんだろうか? 彼女は、こころなしか、怒ったような表情を見せている。僕が何かしたんだろうか?

 そうして彼女は、僕に尋ねる時間も与えずに、僕の目の前に立って、言った。

「あんたねぇ……その恰好は、何よ!!!!!!!」

 ……恰好?

 そういえば、さっきジョナスも、僕の恰好について尋ねていたな。そんなに変かな。僕の恰好は。

「あー! サンボー、よく似合ってるねー!」

 セラが、エイラの後を、追いかけて、そう言った。セラの笑顔は、こう言うのも、気恥ずかしいことだが、その……可愛いと思う。

「あのねぇ、セラ? 似合う、似合わないじゃなくて、こいつの恰好は、これから私たちが行こうとしている場所には、まったくもって似合わないの!」

「エイラちゃん、言っていること矛盾していない?」

「違うわよ! そういうことじゃなくて、私が言いたいのは、えぇとその……こいつの恰好は、公式の場には……」

「エイラ様、それは、似つかわしくないというやつでは?」

 ここで助け舟を出したのは、ジョナスだった。彼は、さっきまでの僕に対する強気の姿勢とは裏腹に謙虚にそう言った。

「そう、似つかわしくないよ! あんた、何でそんな派手な格好をしているのよ?」

 そういわれて、僕は自分の恰好を見る。

 全部、トリニステライヒの中央通の商店街で買い揃えたものだ。

 上半身は、カットソータイプの、蒼に染め上げた、華やかなアロハシャツに身を包み、下は、紫のレギンス。

 どちらもかなり通気性がよくて、値段もお手頃だったので、軍服と学ラン以外に、着る私服として、気に入っている。

 そして、頭には、これがなぜ売っていたのかよくわからないが、民族風のお店で買った、メキシカンハット(その名の通り、よくメキシコの人がかぶっているつばの大きい帽子)。

 エイラは、僕のメキシカンハットから伸びる顔周りを通る紐を思いっきり引っ張って、手を、放した。

 パチン、と顎と、紐が当たる音がした。とても痛い。

「何するんだよ? 紐が伸びるだろ?」

「やかましいわよ! あっち着いてから、機を見て、それ着替えちゃいなさいよね?」

「いやいや……、でも、僕は、あっちの国に、行ってから、少しは遊びたいなぁ。せっかく違う環境に行くんだから」

「そうだそうだ! エイラちゃん。私も遊びたいぞー!」

 セラは、手を掲げて、僕に賛同を示した。これで、賛成は、二人。あとはジョナスだが――

「……エイラ様。ぶっちゃけますと、私も、遊びたいです。建設の立ち合いから、指示、武器の調達まで、頭を使う作業が多すぎて、戦うほうが、専門の私としては、疲れました。さすがに息抜きが必要かと」

 よし! これで、三人だ。エイラは苦渋の顔を見せているけど、あとはこの人数で押し通すしかない。 大は小よりも強いという、別名多数決で一気に決める。

「エイラ、ちゃんと、仕事はするから、それが終わったら、海で、皆で遊ぼうよ、ちょっと季節外れだけど、楽しいよ」

「……」

 彼女は答えない。まだ押しが足りないか……。それならば、もう恥じらいは捨てよう。男としての僕を見せてやる。


「僕としては、水着の君が見たいんだけどなぁ……。ねぇ、ジョナス」

 

 すいません。少しチキりました。僕は、そういうキャラじゃないんです。許してください。

 と、エイラは、顔を見る見るうちに真っ赤に染めて、

「こんの変態がー!!!!!」

 そう言って拳をふるった。殴られたのは、僕ではなく、僕の隣にいたジョナスだった。

「おぶあーーーーーーーーっ!!!!」

 彼は、そのまま軌道を描いて海に落ちた。その一撃は、あまりにも理不尽だった。笑っているのは、セラだけだった。

 エイラは、呼吸を整えてから、荷物を持って、ほら行くわよ、と言い残してから歩き出そうとしたので、僕は、ついに、最後の言ってはならない、一言を解禁した。

「……ねぇ、待ってよ。エイラ」

「あん?何よ? まだ何かあるの?」

「あぁ、君は先ほどから、そんなにも、海へ行くことを嫌がっているようだけどね?」

「いや、別にそういうわけじゃ」

 彼女は何か言ったようだったが、それを僕は華麗にスルーして続けた。

「君は、もしかして、自分の水着姿を披露するのが、嫌なんじゃないのかい?」

「どういうことよ?」

「どういうことも何も、言ったままさ。君は、自分の体に自信がないから、水着という、最も、この世界で自分の体を表現することができる世界に、足を踏み入れたくないだけじゃないのかって言っているのさ」

 あぁ、やばいやばい。これはまずいぞ。どんどん、エイラさんの怒りボルテージが上がっていらっしゃるのが目に見えてわかる。

 彼女は、極めて冷静に僕に聞いた。

「あんた、手と足どっちが好き?」

「……足かな?」

「そりゃ!!!」

 彼女は、叫ぶや否や、そのすらっとした足で、僕の体を力強く蹴り飛ばした。その感触はしなやかで女の子らしい柔らかさを兼ね備えているのに、衝撃はすごかった。

 僕は抗うことができず、そのまま吹き飛ばされた。しかも最悪なことに途中で、海から這い上がってきたジョナスとぶつかり、二人ともども、落ちてしまったことだ。

 マジで痛い。僕は、一度冷たい海の中に沈み、そして、上がってきた。呼吸を整えてから岸辺までバタ足で近づき、埠頭に這い上がる。

「もうわかったわよ。あんたたちの熱意は分かったから、仕事を終えたら、近くの海辺で遊ぶ。それでいいわね?」

 彼女はこうしてついに折れた。

「わーいわーい。やったー! サンボ―!」

 セラは、大喜びするあまり、体を起こしたばかりの、僕の体に抱き着いてきた。やっぱり彼女はスキンシップが激しい。

 水でぬれたアロハシャツは僕の体に張り付いている。だから彼女の体の感触も伝わりやすい。

 あぁ、巨乳って、なんともいいようのない心地よさがあるな。僕はそう思った。

 今度彼女に言おうかな。

 自分の体をもっと大事にしたほうがいいって。僕だって男なのだし、もしかしたら彼女のことを襲う日が来ないこともないかもしれないからさ。

「ほら、セラ。そんな奴から、離れなさい! こいつ、鼻が伸びてるわ」

 慌てて、僕は、自分の鼻を抑えた。しかし、伸びているはずもなく、彼女を見ると、にやにやと笑っていた。

「んじゃ、もう時間ももったいないし、いくわよ」

「うんっ!そうだね。エイラちゃん。ほら、ヤクモ君いこ!」

「ちょっとちょっと引っ張らないでって」

 僕は、そういっても聞かない、セラをあきらめて、荷物を持った後、一緒にエイラの後を追いかけた。

 そのとき、風に乗って聞こえた、

 見ていなさいよ。私の水着姿で悩殺してやるんだから

 


 は、誰が言ったんだろうか、今でもわからないところである。


 

 





 




 

 ちなみに、出航してすぐ、ジョナスのことを忘れていることに気づき、一度港に戻ると、彼は、波止場で一人ずぶ濡れのまま、体育座をしていて、僕は、彼を慰めるのに必死だった。

 旅は、前途多難そうだ、と思った。

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