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事の終わり 戦争終結

なんとか書きあがりました

これで海戦は決着。次で、一章は完結です

ここまで読んでいただき、ありがとうございました

「とにかく弾薬庫から、使える武器、弾薬を、ありったけ持ってきてください! 急いでください! 敵はすぐそこまで近づいてきています!」

 僕は艦橋の上から甲板を見下ろし、声を枯らさんまでに叫び続けた。

 実際左舷側から中央にひときわ大きい艦を据えた三つの艦がこちらに向かって全速前進していた。

 双眼鏡越しにだが、その三つはどれも、大きく損傷していた。それは、迎え撃つこちらと同等、もしくはそれ以上のものだった。

(……って、うん?何だ、あれ?)

 僕が、近づいてくる敵艦、その中でも特に損傷の少ない雷鳴を観察していると、他の二つとは違って、速射砲や単装砲といった通常兵器以外に、中央にひときわ大きくて砲身の長い主砲が設置されていることに気付いた。

(おいおい……、あれ口径は、どれくらいだよ)

 それは、あの僕達の軍艦よりもやや小さいくらいのサイズの装甲艦にとっては大きすぎるくらい。とても不恰好でかなり幅も取っていたが、その分威力はとてつもなさそうで今のこの手負いの僕達を壊滅させるのには十分だった。

 一時期もとの世界にいた頃、軍艦に、嵌って、一目見て、その口径から弾薬まで言い当てられる程だった僕が、ざっと見積もるなら、30センチあるかないかくらいだろう。

「……あー、やっぱりあの砲塔が来ましたか……」

 僕が驚いて声のしたほうを見ると、それは僕の隣で、双眼鏡を、覗く副官だった。

「あの砲塔って、……君、知っているの?」

 彼は双眼鏡から、目を外して神妙な声で言う。

「長官は、先の大戦のことを知っていますか……?」

 先の大戦とはエイラのお父さんを総大将にして天授連邦と戦った十年前の大きな戦争の事だ。

 僕は彼にうなずいて見せると、

「私の父はそれに海軍士官として参加していたそうなんです。それで昔から、その時のことを良く聞かされていたんですが、その中で、一つ気になることがありまして、」

「気になること?」

「えぇ」

 火薬の臭いが、染み込んだ風が吹き抜ける。夜明けはもう近い。かなたの水平線は水を多く含ませた薄い橙の絵の具がごとく、黒の空のカーテンの隙間からわずかに光を垂らしこめている。

「……雷鳴、に限らず人災艦隊は先の大戦からの使い古しというのは知っていますよね?」

 僕は頷いてみせる。

「父が言うにはあの砲塔も先の大戦から使われていたそうです。口径は30センチ、連装砲としては恐らくこの世界では、大きさ威力共に最大級。先の大戦では、レンテンマルク海軍保有軍艦のうち半分近くを、一隻で沈めたそうです」

 恐ろしいことこの上ない。たった一隻で海軍の半数? 火力強過ぎだろ。

 そんなものに立ち向かわなきゃいけないのか、と思ったりもしたが、それはすぐに副官の言葉で、塵と化した。

「すいません。長官。このような士気を下げる言葉を、申し上げてしまって。ただその代わりとは何ですが、耳寄りな情報もあります」

「耳寄りな情報と言いますと……?」

「実はですね、……先の大戦では、敵人災艦隊は、あのような軍艦を横一直線に並べた戦い方はしてないんですよ」

「……それはどういう?」

「これは私の推測なんですが恐らく先の大戦時はお互いの戦力がわかっていなかったんだと思います。だから両軍は総力を尽くさなければならない。そんな中で人災艦隊がとった陣形は、至って単純。大きな砲塔を持つ雷鳴の周りに五,六隻ほど防護巡洋艦を張り付かせ、前線で、装甲艦などに戦わせつつ、あくまで援護射撃のスタンスで戦う。それで連戦連勝だったそうです」

「それが、今、こうして後梯単翼陣でかかってきたと言うのは……」

「おそらく、こちらを舐めてかかってきているのでしょう。我々は手負い。あちらは傷は、少ない。そうじゃなければ、今ここに、我々が五体満足でいることの辻褄が合いませんよ」

 そうか、確かにそうだ。彼らは戦争が始まってから、一発も大砲を撃ってはこなかった。でも、だとしたら

「……恐らくあちらは本気でかかってくるでしょう。それも我々を全席撃沈させるぐらいの勢いで」

 雷鳴の搭乗員ないしは艦長もまさか僕ら弱小巡洋艦部隊にその何倍もの数を誇る往年の英雄とも言うべき艦隊が、ほぼ全滅に近い状態にさせられようとは思っても見なかっただろう。

 象が道端の蟻を、どうということもなく踏み潰すがごとく、僕たちを沈めようとでも思っていたんだろうが、蓋を開けてみれば、自分と護衛艦を含めた3隻以外は撃沈か逃亡か座礁。

 本国にでも知れ渡ったら、艦長は処刑、人災艦隊、および海軍自体が国民の笑われ者にだってなりかねない。それならば、せめて僕たちを全滅させ、レンテンマルウを焦土にせん、と躍起になってくるに違いない。

 眼下の兵員は、見る限りおおよそ弾薬や、銃を弾薬庫から全て持ち出し、戦闘配置に、着いていた。恐らく雷鳴をはじめとしたラスボス(・・・・)と交戦が始まるまでの距離になるには恐らくもう時間が無い。

 夜明けと言うこともあってか、先ほどまで、なびいていた国旗は、凪で、全く動かなかった。それを見やりながら冬特有の乾いた空気は日本と変わらないな、と思いつつ、ただ顔をのぞかせ始めた朱色に先程の鎮魂歌を重ね合わせるのであった。

 

 雷鳴の艦長は、鈍重に動く船のスピードにイライラし、操縦士に申し合わせたところ、これが限界だといわれ、その口調が、と言う理由で彼の顔を一発殴りつけてから、司令室へと戻った。

 彼はとにかく焦っていた。このままのうのうと、本国に帰っては、私の命が危ないどころか、海軍が、天授連邦の恥さらし、になってしまう。だから、ただその保身のための一身で最後まで戦うことに身を投じることにした。

 彼は十年前の戦いで一人の小型艦の艦長として参加し、撃沈数で本国トップを飾ったことで有名な老官だった。

 そんな彼がこの戦いに関しては最初から疑問を感じていた。

 何日か前に、上層部から、レンテンマルクへの宣戦布告と共に今日攻撃を仕掛けるよう命令が下ったとき、海軍長官は、彼に言った。

『敵との話し合いの折り合いはつけてある。何、大丈夫だ。敵の全ての情報を我々は握っているからな。まぁ、レンテンマルクへの旅行とでも思って楽に潰して来い』

 敵国の仕官と話し合いはつけてある? 心配するな?

 それはまずもって戦いではないし、もし敵を潰す戦いなのだとしても、敵に何かの策略があるとしか思えない。

 十年前あの激しい戦いを切り抜けた戦士の感が彼にそう告げていた。全く学のない彼は、敵との掛け値なしの人間同士の殺し合い、と言う奴を体験しているからこそ、上層部の考え方の甘さに、憤りを感じ、かつ、敵への不気味さも感じた。

 しかし、軍人の社会は上官絶対主義。それらの思惑の全てを彼は捨て、ただ命令に従った。

 そして今日、幾時間もの戦いを経て、最後に残ったのは敵艦一隻の撃沈とそれに伴う自軍十一隻の損失という結果。

 最初の、用意周到な奇襲を右翼で受けたという報告を受けた瞬間、彼は、旨く自分たちが敵の術中に嵌ったことを感じ、体勢を立て直そうとしたが、一度たりとも敵側から、先制の奇襲攻撃を受けたことのなかった船員たちは、かなりパニックになり、その間にどんどんとなすすべも無く、撃沈させられていき、体勢を立て直しても、持ち前の衝角戦で白兵戦の闘い方しか知らない、彼の部下たちは、愚鈍に味方の仇と言って突っ込んでいき、犬死していった。

 彼は、ただ後方でその様子を見ながら何も出来ない、策も思いつかない、自分を悔しく思い、そしてまた自分たちが激しく時代の潮流から取り残されていることを感じた。

 今頃、上層部は戦勝記念だ、と祝宴を挙げて、酒盛りでもしているんだろうが、それはただ十年前の幻想に取り憑かれているだけだ。

 彼は歯噛みしつつ、司令室から出て、最後の頼みとなった、雷鳴が誇る口径30センチの艦載砲に目をやった。

 朱の光が映えた、黒のフォルムがなんとも切なく、自分たちの未来を暗示しているようだったが、それでも彼は、それに近寄り、表面をなで擦ると、小声で、最後まで頼むぞ、とだけ言って、甲板に全水兵の集合をかけた。



『艦長! それでは最後までどうかお互い頑張りましょう!』 『艦長、どうか皆で、本国へ帰りましょう!』

『えぇ、そうですね。お二方も頑張ってください!』

 と、僕はそう言ってからヘッドホンを外し、操縦士に渡した。

 少し前、敵艦との通信が繋がり、僕は敵人災艦隊の艦長、と話し合いをした。

 彼は僕にまず、自分たちはこの戦いを最後まで戦い抜くことを宣言した後、正々堂々と一対一で戦わないか、と提案してきた。

 僕は、驚いて、声を上げそうになったがすぐにこらえ、どうせ、混戦になっても同数でお互い少ないから一対一になりそうだし、何より、面白い、と思って、それに了承した。

 僕は、総員を集めてまだ壊れていない左舷側に速射砲を扱わない平の水兵を集め、弾薬庫から持ってきたありったけの武器で応戦するように命じた。そして操縦士には敵艦とすれ違って触れるんじゃないかと言うぐらいの距離で敵の左翼側に回り込むよう言った。

 水兵に持たせた武器は、狙撃銃から、機関銃、歩兵式小銃など様々だったが、雷鳴の船体の高さはこのギルダガー号よりやや低いくらいなので接近したときに甲板上の水兵を銃殺、30センチ砲を無効化し、速射砲で撃沈させるためだった。

 そして、副官の話に寄れば、30センチ砲は、一発撃つごとに少しばかりの小休止が必要らしい。それがなぜかについてはよくわからないが、どちらにしてもそれが僕たちの狙い目であることは変わらない。雷鳴は、30センチ砲の重量が重過ぎて他の速射砲やら魚雷発射管やらが搭載できなかったのだという。

 つまりこちらに勝機は十分ある。後は一発目の攻撃を受けてこの船が沈没しないことを祈るだけだ。先ほどの魚雷の攻撃は船の内部が隔壁構造をしていたことと、そんなに弾薬の入っていない所だったからよかったものの、次あれ以上のものが当たってたとしたら……。

 と、すぐに僕は頭を振ってそんな不安を追いやる。ただ僕が考えるべきは、生きて、レンテンマルクの土を踏むこと、それだけだ。

 それに先ほどあの家族思いの若い副官に、一対一でやりあう、という話をしたら彼は少しばかりぶつぶつ、つぶやきながら思案顔になって、そのまま消えてしまった。彼にも何か作戦があるんだろう。

 まぁ、どちらにしてもこの戦いのポイントはあのどでかい大砲だ。あれの対処で全てが決まる。

 既に後ろを航行していたほかの二艦は敵艦と共に左右に分かれて展開していた。

 既に敵艦との距離は500メートルも無い。しかしお互い攻撃はしない。ただ西部劇のガンマンのごとく緊張した空気が続く中でお互いがただ近づき、撃沈せしめん、と暴力的な思考を内に秘めている。

 僕たちは皆固唾を飲む。口内は粘つき、、水を欲している。腹もすいている。気だるい。もしかしたら今見たら自分の顔は死人のようであるかもしれない。

 そんなことを考えながら時間は過ぎていき、そしてついに狼煙が上がった。

 それは、僕たちがついに雷鳴の左舷をほぼ零距離で差し掛かったときだった。号令をかけたのは僕ではなく副官だった。僕は丸腰だし、武器の扱いもよく分からないため既に廃屋と化した司令室に身を隠して、その様子を見ていた。

 副官の勇ましいかけ声とともに、横並びになった水兵は銃を肩口まで上げ、鋭い火薬の音とともに撃つ。もちろん甲板にいた敵兵は、弾が当たり、ばたばたと倒れていく。しかしそれはあくまで彼らの伝家の宝刀である30センチ砲を守るための犠牲であり、それを備え付けた大きな鉄の回転台はゆっくりと着実に回転する。

 微々たる回転角が僕の中の恐怖を駆り立てる。 焦らし、というやつだ。怯えているのは僕だけじゃない。味方の水兵もそうだ。

「くそおっ!きりがねぇぇ! このままじゃあのでかい大砲が……」

「ぐあっ、ああっ、ああっ。右手が、いかれた。いかれちまった。誰か、誰か!」

 阿鼻叫喚な地獄絵図がそこには広がっていた。血を血で洗っている。

「もうだめだっ! 俺は、速射砲であの大砲を狙い打ってやる!」

「だめだ、やめろ!」

「うおららららららっ!」

 そして、たまに、その内なる恐怖に耐えられなくなり、銃を撃ちかましながら前方の速射砲に弾を込めようと向かっていて、逆に蜂の巣にされる奴もいた。

 これは、船を近づけて船員同士での戦いをすると分かったときから、ある程度予想はついていたことだったが、やはりこうして実際に戦ってみると、違う。

 このお互い向き合っての撃ち合いだって、傍目から見ても不毛で無用な犠牲でさすがに気分が悪くなってくるのだから、当の本人たちはまるで神に、生贄を選定されているような気分であろう。

 と言っている間に敵の砲塔は確実にゆっくりとこちらを向いていた。速射砲を使わなければ防ぎようも無いがが、さっきも言ったとおり、それは相手も特に留意しているようで、速射砲に少しでも手を出そう者ならばそこに集中して、敵も発砲してくるので風穴が体中に開くだけだった。

 加えてこちらのほうが兵力は多いはずなのに戦線膠着している理由として敵が艦船備え付けの口径心持小さめの機銃が二門、人が座りながら、正確に放ってくるからで、連発式で攻撃範囲も広いためとても厄介だった。

 血の臭いは、少しは掃除したにも関わらず、サメでも近寄ってきそうなほど濃かった。

 たまに僕の眉間の少し横を掠める銃弾にひやひやしたりして何度も頭を引っ込めるものの、俺から指揮官としてやっていく身なのだからこんなんではいけない、というちっぽけな勇気が、すぐにまた目を向けさせる。

 他の艦と連絡をとりたかったが、先ほどの小型通信機は、飛び交う銃弾に撃ちぬかれ、壊れてしまった。

 うめき声を上げてその場に力なく崩れ落ちるもの。 テレビやドラマの演技とは違う、膝から感覚がなくなる感じなんだろうか。

「うあぁぁぁ。おい死ぬな、死ぬんじゃねぇ。っぐあはっ」

 仲間の死を受けてを見て、泣き叫びながら撃たれるもの。

「ちくしょおおおォ!! 死ね! くおらああぁぁっ!」

 それらを見て激昂し、撃つ手を強めるもの。

 タラララ、タラララ、タラランと銃撃戦の応酬は続く。

 もう誰も死体になんぞ目もくれない。考えるべきは自分の命だけ。そのためには敵を殺す。

 皆が死に物狂いで戦っている中でついに砲塔は完全に向きをこちらに変えた。

 僕の目で見ることが出来た。銃弾が飛びかう中、一人のボロボロの水兵が30cm砲の点火口についた引き綱を引こうとしているのを。

 あれが引っ張られれば中で火薬が発火し、装薬を爆発させ、砲弾が発射されるのだろう。電気式じゃないなんてなんとも旧式だが(この世界にはそもそも電気と言う概念が存在するのかも疑問)。そしてその手綱が強く引っ張られたときだった。

 僕はもう終わりだと思った。すぐに激しい衝撃が来るだろうと思い、目を閉じて、近くの取っ掛かりに手を掴んだ。それがもたらす、であろうとてつもない爆風と艦体の激しい揺れから耐えるためだ。

 しかし、いつまでたっても、それは来なかった。代わりに、血と剣で荒れる戦場の中で、響いた一つのパァンという音、そして直後に敵艦で爆発が。

 僕は驚いて音のした艦橋のほうを見た。それは狙撃銃を右手に掲げて、場違いにも程があるほど清清しい笑顔で笑う、あの家族思いの副官だった。

 僕は思わず手の平をパァンと叩いた。

 まさか大砲の発射の瞬間、まだ弾が筒の内部を抜けてない状態、言うなれば大量にエネルギーを持っている状態で、そこに逆行して、狙撃中の弾を当てるなんて。

 分からない人のために分かりやすく言うと、近世の戦争で用いられる艦船の搭載砲の砲弾は内部に莫大な量の火薬を入れ、相手にぶつけたときに爆破と言うのが基本原理だ。

 つまりにこれをふまえて今回のことを物理的に言うならば、火薬をつんだ重さうんちゃらトンのトラクターに、だれかが撃った銃弾が当たりました。はいどうなる?ってことだ。 

 とまぁ、全然物理的じゃないが、そこは想像力を駆使して頑張って欲しい所だ。

 弾の衝撃を受けた砲弾は、砲塔の内部で急激に勢いを失う。それだけではなく、弾は放出されるものの、飛距離を稼ぐことが出来ず、そのまま放物線を描いて、雷鳴の甲板上へと落下し、大爆発を起こした。

 それまで果敢に銃で応戦していた兵士の大半は衝撃や爆風で海へと落とされ、燃え盛る火は誰にも沈火されないままその勢力を拡大した。

 下のほうで兵士がもがいているが、誰もそれを助けることは無い。 ただ悠然と速射砲に手をかけ、弾の装填の準備をするだけ。

 艦橋甲板に火が燃え移っていく中で、艦内から、出てきた水兵は皆投降するまもなく、全員射殺された。

 僕は命令していない。にもかかわらずただ彼らは何かに浮かされたように破壊を繰返した。それは、負の感情だろう。

 それでもその光景は、あまりにも無残だった。決して勝利者が得られる正義という名の快楽ではなく、殺戮者による正義と言う名の快楽にしか見えなかった。

 それは僕に、かつてのサダムフセインのクルド人大虐殺、もしくはアメリカ軍のソンミ村虐殺を思い出させ、その時の場に僕はいなかったものの、今がまさにそれなのだろうと思った。そして僕はその場にいても経ってもいられなくなり、彼らが人間でない別の何かになってしまう前に、彼らの背後に立って声を張り上げた。

「皆! もうやめてください! 敵はもう無抵抗なんですよ?それを、銃で一通り水兵を殺すに留まらず、速射砲を弾が尽きるまで撃つなんて」

 子供が蟻を力任せに踏み潰すに等しい行為だ。

 老人の副官は、僕の声に気付き、しわがれた声で、撃ち方、やめい、と号令をかけると攻撃は止まった。全ての武器から煙が上がっていた。

「艦長、何用ですか?」

 目は死んだ魚のようである。声に覇気はない。

「何用も何も、もう僕は攻撃をやめてください、と言ったんです。この戦争は僕達の勝利だ。どうしてそれ以上、この世から消すことを望むんです?」

 僕は尋ねた。彼は首をひねり沈没していく、雷鳴を見ながら、

「どうしても、何も、ただ10年前敵にやられたことをそのままで返してやっているだけですよ。私の家族はあのくそったれの、天授連邦の人間どもに虐殺されたんでね」

 それ以上彼は何も言わなかった。後で聞いた話によれば、10年前、彼と、彼の妻はたまたま、農業省にある彼の娘がすんでいる彼の娘の婿の家に向かっている途中で、天授連邦の兵士たちに無抵抗のままに殺害されたらしい。

 それで、復讐しようと志願してきたらしい。

 だけどその事実を知らない僕は、彼の話を聞いてやることも出来ず、ただボロボロの階段を伝って、船の中へと行ってしまうその副官を見送ることしか出来なかった。

 そして、少し後に他の艦も勝利したということで合流した。

 これにて海戦は終了した。そしてそれと同時にあの若い家族思いの副官は艦橋の上から、喜びに満ちた声で叫んだ。

「皆! 遠くから味方の船が来るぞ! ひィ、ふぅ、みィ。だいたい十隻ほどだ!」

 それを聞いた水兵は、皆大喜びした。すでに空は完全に明るくなり、朝になっていた。

 もちろん僕も喜んだ。僕たちは、なんとか夜通しの海戦を勝利で飾れたんだ。半分以上の水兵が海へと還ったこの海戦で、だ。

 それはとても長く辛い戦いだった。僕は疲れからへたれこんでそのまま壁に寄りかかり、目を閉じた。意識は、男たちの歓声を、ものともすることなく、ぷつんと途切れた。

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