歴史上に残る開戦の幕開け――そのころエイラは
まだ海戦が始まらないだと……
むかし、むかし、レンテンマルク王国が世界を征服して、その王が世界を統治していた頃のことでした。
レンテンマルクのある村に、ギル・ダガーという男がいました。彼は、それはたいそう身長が大きく、その背は人々が建てた建物をも越え、天にも届かんばかりだったそうです。
彼は、山や木々のような自然、空を高く飛ぶ鳥をこよなく愛す心優しい男でした。いつも鳥と戯れ、みなの迷惑にならないよう過ごしていました。しかし、周りの人間は皆何もしていない彼を怖がり、忌み嫌いました。皆、彼のことを怪物呼ばわりし、ときには、出て行け!とかいなくなれ、とかそういう心無い言葉をぶつけました。
ギルは泣き虫でした。だから雨の日も晴れの日も泣いていました。膝を抱え、泣いていました。それでも人々は、それを見てさらに、彼を追い出そうと躍起になりました。彼らがギルに何をしたかは分かりませんが、それはとてもひどいことであったそうです。
そしてある日のこと、ギルが泣いていると、ギルの足の親指程度の少女が、彼の元に近づいてきて言いました。
「おにいちゃん!なかないで、わたしがいっしょにあそんであげるから!」
彼は、その少女の誘いを嬉しいと思いつつも、自分以外の皆が怖くて、その少女におどおどとした口調で聞きました。
「君は、ぼくをいじめないのかい?ぼくを、おいだすとはいわないのかい?」
それを聞いてその少女は一瞬だけきょとんとした顔をしましたが、すぐに満面の笑顔で笑って、
「どうして、わたしがおにいちゃんをいじめなきゃいけないの?そんなりゆうどこにもないよ!」
「でも、ぼくはこんなに体が大きくて、人間みたいじゃないよ」
「かんけいないよ!そんなことよりいっしょにあそこえすなあそびしよ!おにいちゃん」
そうして、その少女はギルの大きな足をその小さな手で掴み、立たせようとしましたが、もちろんびくともしません。そこで彼は、彼女を自分の肩に乗せてあげました。
彼はもう泣いてなんかいませんでした。笑って、彼女にどこに行きたい、と彼は少女に尋ねました。その少女も笑い返して、遠くまで、と言うと、彼は走り始めました。
それから、というもの二人はとても仲の良い友達となり、彼はどれだけひどいことをされても泣かなくなりました。それを見て焦った周りの人々は、どうするか、考えていました。
ある時のことです。天の神様は久しぶりに地上を見ようと思って、下界なさったところ、人間がギルを虐めているところを見てしまいました。しかもギルは笑っています。
慈悲深い神様はその光景を見て、ギルが周りの人間に虐めを受けすぎて感情さえも麻痺してしまったと勘違いをし、とてもお怒りになった神様は、ギルだけが生き残れるように、ギルの胸ぐらいの高さの津波を起こし、レンテンマルク王国を襲わせました。
もちろん皆大慌てです。神様に祈るものもいましたが神様は全くもって聞く耳を持とうとせず、全ての人間が死を覚悟しました。
しかし、一人だけ立ち上がるものがいました。ギルです。ギルは、一緒に遊んでいたその少女に生きていて欲しかったのです。そこで、彼は津波が本土を襲う前日、少女との遊ぶ時間が終わり、彼は別れ際に家に帰ろうとする少女に尋ねました。
「もし、僕が明日死んじゃうとしたらどうする?」
彼がそう言ったことに対し、その少女は悲しそうな顔をして
「……おにいちゃん、あしたのつなみでしんじゃうの? やだやだ! おにいちゃんがしぬんだったらわたしもしぬ!」
「もしも、の話だから」
「もしもォ?……ぐすっ、ならいいけど・おにいちゃんとわたしはずっとともだちだから、また明日もあそぼーね!」
彼女はそれだけを言うと真っ赤に染まった空を家のあるほうへと駆けて行きました。
彼は何もいえませんでした。
その夜、その地域の辺りは津波で死を覚悟するものたちの悲しみの声が響いたそうです。
しかし、翌日のこと、津波は本土を襲う前に何かによって、遮られ、その何かを飲み込んで、本土を襲うことはなかったそうです。
その何かがなんなのかは誰にも分かりませんが伝説によれば、それは、汚い格好をした大男が海に体を沈めながら津波を押し返していたと言うのです。
そして、その日を境に、ギルはレンテンマルクから姿を消したので、人々は津波が本土を襲わなかったことを喜ぶとともに、これをギルの功績だとたたえ、彼を好きだった山の神にしたそうです。
港を出港して一時間がたち、十一時となった。ココの港から、天授連邦までの距離は直線距離で約四百キロ程であるから、単純計算すれば、お互いが洋上で鉢合わせするのは今より四時間だから、大体午前二時くらいだろうか。
海は降りしきる雨のため水かさが増したことに加え、風が強く吹いているため海は時化ている。そのため、船体が強くゆれ、いくら洋上に出て、船酔いしないように何日も訓練した僕と言えどもかなりきつかった。すえに何名かの水兵も船の上から海の吐いていた。
今、司令官室には僕を含め、副官が二人立っており、僕の前には通信指揮所と操作所、の機能が組み合わされた広い一室があってそこで何名もの水兵が他艦との連絡を随時行ったり、敵艦もしくは水雷艇が近くにいないか、レーダーで探ったりしていた。
僕が窓ガラス越しに雨を見ていると、副官が僕に尋ねてきた。
「ヤクモ艦長。一つ尋ねてもよろしいでしょうか?」
その艦長と言う呼び名も最初のほうこそ一人で、それっぽい、と盛り上がっていたものの、今はそんなことをやる雰囲気じゃない。
「うん。何でも質問いいですよ」
「ありがとうございます。先程艦長は、私たちにこの戦いは勝とうと思うな、長く戦い、一艦でも敵艦を撃沈させることを考えろ、とおっしゃいました。そして沈没しそうになったら所持している爆弾で敵艦に体当たりし、共に沈めとの旨のことも」
「うん、そう言ったけど、それがどうしたの?」
「この海戦、我々には全く勝機はないのですか?我々は、兵士としての職務を全うし、自分の命を捨ててまで、敵を殺さなくてはいけないのでしょうか?」
先ほどの僕の訓示の時には誰一人として文句を言わなかったけれども、やはりちゃんと人間らしく、感情的になっている奴もいることがわかって、僕は嬉しくなった。
しかし、もう一人の副官はその発言を聞いてあまりにも軍人として恥ずかしいではないか、と激昂し、彼のことを睨んだ。しかし、僕に尋ねてきたその男はそんなことで怯むわけもなく、
「私はまだ二十三です。海軍省の士官学校を次席で卒業しました。そして今で家に妻もおり、息子も一歳のの男の子がいます。本当は今日は家族、祖父母揃って皆で食事をするはずだったのに、それを返上して、私はこの艦に乗り込んでいます。だから死ぬわけにはいかないんです。何があってもってぐはっ」
ついに堪忍袋の緒が切れたといわんばかりに、もう一人の副官がおもいっきり彼の顔を殴りつけた。彼は揺れる船体の傾きに抗うことが出来ず、重力の法則にしたがっておもいっきり背中を壁に打ち付けた。
「ふざけるな。レンテンマルク軍人たるもの、私を犠牲にし、国に仕えるべきである! それをあろうことか、お前は副官の身でありながら、家族、子供のことばかり考えおって、ふざけるのも大概にしろ!」
背中をしたたかに打ちつけた彼はむくっと起き上がった。彼は口元を切っていた。口元の血をぬぐって彼は反論し返した。
「ふざけてるのはあなたでしょうが! もちろん国に仕えるのは軍人として当然のことですが、それ以前に私だって人間です! 人間ならば、愛するもの、妻、家族、息子、皆を大事に思う気持ちはたとえ、自分の軍人としての本懐を失っても揺らぐことはできません!」
「黙れ! 腰抜け! 貴様みたいな恥さらしなど誇り高きレンテンマルク海軍をやめてしまえ! 部下の士気が下がるだけだ!」
「二人とも、落ちついて下さい! これは艦長命令です!」
僕の一声で、それまえ喧々諤々と争っていた副官同士が黙った。
「君たち、今の状況をわかっているんですか? 相手は大国の天授連邦最強の艦隊、人災艦隊十四隻のフルメンバー、対して、僕たちはラインセルさんの即席巡洋艦部隊たったの四隻。これで、仲間割れするなんて君たちは部下の水兵を死なせるのが趣味なんですか?」
「ですが艦長!」
「水兵は皆、血眼になって頑張っていると言うのに、それを指揮している朴達がこんな醜態晒していたら示しがつかないということですよ」
「艦長……」
「とにかく僕たちが一丸となって水兵の皆の先頭に立って指揮するのだから、二人とも、敵に備えて各自戦闘準備してください。いいですか?」
「「艦長、申しわけございません」」
二人はぴしっと敬礼をしてから、司令室を出て行った。相変わらず海は荒れていて、船は揺れる。僕は手元に置かれた羅針盤を撫で擦った。その冷たさがやけに心地よかった。
エイラは焦りを隠せなかった。ラインセルの賭け宣言後、彼女は、彼が提案した賭けについて言及しようとしたが、すぐにそれは無駄であることに気付き、議事堂を出た。彼女に意思はなかった。なぜなら、彼女が何と言おうが、事は進行しているし、時間はとまることはないから。
彼女は歯噛みしながら、屋敷に戻り、すぐに信頼できる部下であるジョナスをはじめとした、八雲の初めての戦争で、彼女と共に戦場に駆り出た高官を呼びだし、緊急会議を開いた。彼らは、戦争の休暇として、今日は議会には出ず、休みを貰っていた。
全員が彼女の逼迫した声音に事態の重みを感じ、会議は自然と真剣な空気になっていた。
「まず今日は大事な休日の中仕事で呼びだしたことを謝るわ、ごめんなさい」
「……エイラ様、用件はどのようなことなのでしょうか?」
「今日、総統選挙の結果が公表されたわ。それは、引き分けだった。そして問題はここから。農業省の売国奴の一人が、私たちの選挙に賭けを持ちこむことを提案した」
「……それは、どのような?」
「……ヤクモが、たった四隻の軍艦で敵天授連邦艦隊人災艦隊十四隻に挑み、彼らを引き返させることできるか、本当に下衆だわ。吐き気さえするわ」
高官が口々に騒いだ。皆、八雲とあまり会話をかわすことはなかったが、天授連邦との戦争を鮮やかな手腕で勝利に導いた彼に仲間として陶酔し、彼の加入を心強く感じていたのだ。
その中で、唯一腕を組み黙り込んでいた人間が一人いた。
「ジョナス、あんた黙っているけど、何か意見はないの?」
ジョナスに最も信頼を置いているエイラは、軍議などでは、有事の際は、彼の意見に一任していた。他の高官も彼女と同じくだった。
皆の視線が一点に注目する中、彼は閉じていた目を開き、こう言った。
「エイラ様、私にも意見はございますが、おそらくそれはあなたや他の奴らとは違うものです。そしてあなたは、おそらく私の意見を聞いたとき、お怒りになるだろう」
「何?もったいぶらないで言いなさい。今こういうときにあんたの意見が必要なの。これは命令よ」
彼女がそう言うと、彼は軍服の内側から葉巻をとりだし、それに火をつけた。
「命令ならば仕方ありません。私の意見としては、別にあいつがいなくてもこの軍はやっていけるし、戦っていける。だから、別にあいつの命なんか、海の藻屑となったって構いやしないということです」
「あんた……それ、本気?」
彼は口から煙をふかしていった。
「本気も何も、これは私の一意見に過ぎませんよ。最終決定権はエイラ様にありますから、私のことなど、どうか気にせず。と言ってもまぁ、所詮は、ラインセルから賭けを持ち出されている時点で意思決定もくそもありませんがね」
「ジョナス殿! エイラ殿は本気で八雲殿の命について案じておられるのですぞ。それをあなたは!」
「お前らな、ヤクモ、ヤクモ、ヤクモ、って、あいつがいなきゃ、俺たちは何も出来ないのか! そんなに俺たちは弱くて、あいつなしじゃ戦に勝てない、雑魚だったか? ふざけんなよ。そんなんで死んだ仲間に顔向けできると思ってんのか!」
皆が押し黙った。それだけジョナスの剣幕には、すごいものがあった。そのすごいものが何なのかはわからないが、少なくともいつもの冷静な彼ではなかった。
「あ……か……さい」
「何ですか?エイラ様。はっきりと言って下さい。全く聞き取れません」
「あんた、もう帰りなさい! そう言ったのよ!」
「え……エイラ、様、それはどういう」
「あら、これでもまだ聞き取れなかった? なら、次は皆に聞こえるような声できっちり言ってやるわ。あんたみたいな仲間を大事に出来ない奴は私の部下として胸を張る資格はないわ。もし私の部下として胸を張りたいのなら、一度自分の家に帰ってよく考えてから、私に導き出した答えを言いなさい。それまではあんたからは軍人の資格も剥奪し、軍服も没収するから」
それは実質的な謹慎処分であった。ジョナスは何を馬鹿な、と声を荒げたかったが、周りの高官は誰一人として彼を擁護しようとは思わなかったので、彼もそれを感じ取り、悔しそうに唇を噛んでからエイラを見た。
「何?何か文句でもあるの?ジョナス。あるなら言ってみなさい」
「……」
「無いのなら、とっとと出て行って! ここはあんたみたいな軍人じゃない平民が来ていい場所じゃないの。ほら、テレジアさん、衛兵を」
「いや、エイラ様。いいです。自分の足で、出て行きますから。ただその前に一つだけ言わせてください」
もうエイラは彼の顔を見ることはなかった。彼は、葉巻を口にくわえながら、立ち上がり、テレジアの立っている部屋の入り口まで向かい、振り向きざまに言った。
「まさか、あなたが私を切るなんて、よっぽどあの男のことが大事なようえすが、僕にはさっぱり理解できません。家に帰って、どれだけ考えたって、私とあいつが仲良くするのは無理ですから」
そして彼は部屋を出て行った。彼がいなくなってから、部屋の中には沈黙が先行し、皆が悪い雰囲気に包まれた。
「……エイラ様、よろしかったのですか?ジョナス様を謹慎処分になされて」
一人おどおどしながら目を閉じ、何も物申さないエイラにそう聞いた高官がいた。
「……」
しかし彼女は答えない。だから尋ねた高官も周りの高官もそのつっけんどんな雰囲気にあてられて余計縮こまってしまう。
「……あの、エイラ様、お菓子食べませんか?私ついにカップケーキ焼けた……」
と、意外にもそんな思い雰囲気に割って入ったのは何も知らない可哀想なノエルだった。
エイラを除くほかの高官の視線が皆彼女に集中する。皆腕を組み、額に皺を寄せている。ところで陸軍省の高官は皆顔がヤクザみたいな人間が多いのである。そんな彼らが一斉にか弱い少女であるノエルを凝視したら……
「そ、そ、そういうつもりじゃなかったんですー! ごめんなさい。 出直してきますー!」
彼女はそう言ってそそくさと出て行った。それを見て嘆息したのは高官だけでなかった。
「……はぁ。なんかウチのメイドが入ってきて興醒めしちゃったようだし、最後に決議だけとって今日の集会を終えるわ」
「決議、ですか?」
「そう、決議。あいつが、帰って来た時、あいつの賭けに乗れば私は総統になるわよね?」
皆、口には出さないが頷いた。
「その時にあいつを、政治職の重要なポストに置き、かつ参謀長として軍事面でもかなり高ポストに就いてもらう、それについてもみなの意見の是非を」
「……エイラ様、その決議でしたらここにいる皆が、決っています。是非など問うまでもありません」
その一人の老人上官が代表して言うと周りも皆頷いた。それを見てエイラも
「じゃあ、これでおしまい! 皆、ごめんね、貴重な休暇の時間を使わせて。解散! それぞれ家にでも帰って家族と年を越してね」
皆それぞれが立ち上がり、そそくさと部屋から出て行った。軍人としての血生臭い日々を無事生き抜き、こうして規律から開放され、羽を伸ばせる日ということでその喜びもひとしおのようだった。
そうして皆がいなくなってから、エイラはぽつりとつぶやいた。
「これで、皆からの了承も得られた。あとは最後このラインセルとの賭けを、五分五分から、こっちが勝つように一手を打っておかなきゃね」
彼女も立ち上がった。
俺は、荒れる海原の元、ただレーダーのピコンピコンという音しかしない静かな艦上で元の世界のことを考えていた。
(まさか、一ヶ月も前までは教室の端っこで本を読んでいるだけだった。それがこうして、軍人になって陸戦を指揮するばかりか、艦隊戦まで指揮するとはね)
意外と不安とか恐怖は無い。最初にレンテンマルクに降り立ったときのあの恐怖は今から考えれば、別に私に対する恐怖などではこれっぽっちもなく、ただ知らない世界に来たと言う環境の変化に対する人間の本能的なものに違いない。
どうも僕は普通の人間とは頭の構造が違うらしい。これから自分が国のためと言う体の理由で敵と定められた人間と殺しあうことに対し、何の感慨も抱いていないのだから。
僕は司令室を出て降りしきる雨に身を晒した。雨は元の世界とは変わらず、僕の身にひどく叩きつける。
僕は速射砲に手を触れる。これがもう少しで人間を殺すために躍動するのか。その砲身は黒い海原に突き出し、何だか昔の僕みたいと笑ってみたりもした。
そのときだった。操作所の通信兵が僕の元に駆けつけて言った。
「ヤクモ艦長! 前方約三百メートル先に敵人災艦隊と思しき船の一群がレーダーで捕らえられました」
そんな馬鹿な。まだ出港して一時間強しか立っていないはず。計算上ではまだお互いが遭遇するはずは無い。
「それは本当ですか?漁船とかそういうことは無く?」
「はい。この雨の関係で、漁港は全て軍艦以外は、封鎖されています。それにこの天候でここまで漁をしに来るものなど入るはずがいません。加えて」
「わかりました! わかりました! とにかく、他の艦にもこのことを連絡し、至急全水兵を戦闘動員させてください!」
「了解しました」
彼は元の操作所に戻り、艦内にアナウンスをした。そしてスムーズに水兵は敵艦と遭遇する前に総員配置につくことが出来た。本当に訓練しておいて良かったと思う。
僕も兵隊たちが甲板の上をあたふたすることなく定位置に動くのを見ながら司令室に戻るといつの間にか先ほど喧嘩していたばかりの二人の副官も戻っていた。
「艦長、我々は何をすればよいでしょうか? 艦長が先ほど訓辞の際おっしゃった作戦はいまいち理解が出来なくて、もう一度説明していただけると」
「そんなに難しいことじゃないですよ!ただ我々の艦は数的に圧倒的不利、しかし設備はこちらの方が近代的で優れている。この点を利用して、従来の戦艦の戦い方である横に並んで戦う横隊に対し、一点集中型で中心艦である雷鳴を撃沈させる縦列で挑むわけです。そうすれば、相手は広い正面への攻撃力を最大化出来る分、一つ一つの壁は薄いですから、そこを突くわけです」
別に僕はすごいことを言ったつもりじゃない。何せこの作戦、日清戦争で帝国海軍が清相手に利用したものを真似しただけだし。ただ二人の副官はすごく感心しているようで、
「なるほど。すごいですな。艦長は。それもあなたのいた国の作戦ですか?」
「えぇ、まぁ」
「艦長本当にすごいことなんですよ。あなたのような高い作戦応力を保持した軍人がレンテンマルクに現れると言うのは。レンテンマルクの血塗られた戦争の歴史も勝利と言う形で終止符を打てそうだなぁ。よし、そうとなれば私は、速射砲の指揮をしてきます!」
そうして二人とも外に出て行った。僕も気を引き締めて艦橋へと躍り出た。双眼鏡で遠くを望むと、確かに豆粒のような大きさだが、空よりも黒い噴煙が立ち上る船が横並びでこちらに向かってきている。
確かに敵艦であることは間違いなさそうだ。となると、敵は調書の文書すらも改竄し、何時間も前に出港し、奇襲攻撃をかけてこようとしていたと言うことだ。
僕は彼らのことを知らないけれども、激しく嫌な奴らだ、と嫌悪し、レンテンマルクなんか行かせるもんか、ここで全艦沈めてやると意気込んだ。
そして時間は止まることなくやってくる。
「艦長、敵艦隊の右翼のレーダー圏内にもう少しで入ります!いかがいたしましょうか?」
「僕達の速射砲は相手に当たる位置かい?」
「いえ、あと三十メートルほどです」
「そうしたら他の艦にも伝えてくれ。絶対に僕が言うまで隊列を乱すなよ、と」
「了解しました。あと速射砲発射圏内まで二十五メートル……二十メートル……十五メートル」
僕の心臓も高鳴る。あとわずかで海戦が行われる。もとの世界ではゲーム以外では起こりえなかった海戦が。
そして。
「二メートル、一メートル」
僕は高らかに叫んだ。
「速射砲発射!」
第一砲はこちらからお返しとばかりに轟音と共に発射した。それが開戦の合図であった。
次はマジで戦争なんで許してください