第16部(5)
第16部 ―ネイス国へ・・・―(5)
シャネラは目を覚ました。大きな欠伸を1つ、最初にかまして、目を擦った。
「ふわぁー・・・。よく寝た・・・。けどまだ眠い・・・」
一言、二言ぼそりと呟きながら、辺りを見渡した。自分は何かに凭れて、座ったまま眠っ
ていたらしい。正面にはディルとミクヤが肩を並べて座り込んでいる。ミクヤは俯いてい
た。テューサとルビスは立っていた。
「おはよー、シャネラ」
ディルがシャネラに微笑んだ。シャネラがきょろきょろと辺りを見回していると、くすっ
と意味ありげにもう一度笑った。テューサとルビスも振り返って、シャネラを見て笑って
いた。ルビスの手元では、光が放たれている。
「長いこと寝てたわねー・・・。ふふっ。あなたが眠っている間に、たぁいへんなことになっちゃってるわよー。ふふふっ」
不思議な笑みを浮かべるディルが怪しく感じ、シャネラは勢いよく立ち上がった。そした
ら、周りの景色が見えた。
――一面真っ青。海の色ではなく、スカイブルー。空だ。
シャネラが頭で理解しきるには、少々時間がかかった。沈黙が流れる。その間、絶えず
テューサとルビスとディルは微笑んでいた。
「き、気球か・・・!」
シャネラが理解できたとき、5人が今いる場所が分かった。そう、気球。シャネラが眠っ
ている間に完成し、ライソカス国を発っていたのだ。・・・かなりのスピードで動いている。
「この気球ね、ミクヤとルビスの能力で動いているのよ!」
テューサが満面の笑顔で言った。
「能力・・・?」
「ミクヤの念力と、ルビスの自然を癒す能力よ」
「・・・念力ぃ!?」
一気に眠気が消えた気がした。驚きのスケールが大きいあまりに、ついつい声のトーンも
大きくなってしまう。テューサとディルがぱっと反射的に両手で耳を塞いだ。
「アムタワ国の民は、念力が使えるのよー。すごいでしょー?アムタワ国が空に浮かんでいるのはぁ、昔の人々がアムタワ国の核に自分たちの能力を溜めておいたからなんだってー。現在能力を注ぐのは、王家の者の仕事だそうよぉ」
ディルが自慢げに人指し指を立てて話す。シャネラは彼女を見下ろして、一生懸命聞き入
っていた。テューサとルビスも、静かにそれを聞く。
「それでー、ミクヤはその念力を使ってー、この気球を浮かせているのー」
「それを飛ばす手伝いをしてるのが僕だよ」
「ここの核石に能力を送っているんだって」
テューサが示したものは、籠の底に埋められたひとつの小石だった。そこらへんに落ちて
いそうな、見た感じ何の変哲もない石。
「ほら、シャネラ見て。もうすぐネイス国よ。見えてきたわ」
テューサが籠の際に立つ。ぐらりと気球が傾く。
「ちょっとー。もう少しゆっくり動いてよねー・・・」
「ご、ごめん・・・」
「ミクヤ。聞こえる?もうネイス国の上空だ。降ろそう」
「ああ」
俯いていたミクヤが顔を上げた。ルビスは『ランクル』に力を送るのを止めた。石は輝き
をなくす。すると、気球は浮いているが、前に進むことはなくなった。次にミクヤが、ふ
ー・・・っと長い吐息を漏らした。吐かれた息と一緒に、徐々に気球も降下していった。
どさり。
気球が重たそうな音を立てて地面に着陸した。
「お疲れ様。ミクヤ、ルビス」
ディルが、ミクヤが立ち上がるのを手伝いながら礼を言った。シャネラは一足先に籠から出て、テューサを降ろすのを手伝っていた。
「ここは・・・」
「砂漠の一歩手前だね」
テューサが呟いた一言の後に、ルビスが付け足した。そう、彼ら5人は、平原と砂漠の狭間に立っていたのだ。一歩前に踏み出せば砂漠。後ろへ後退すれば、緑の生い茂る平地。ディルとミクヤも籠から降り、全員がネイス国領に足をつけた。
「さて・・・。僕らは砂漠へ行かなきゃいけないんだよね?」
ルビスが、誰、と指名せずに呟くように尋ねた。
「うん。何があるんだろう・・・?」
「考えたって仕方ねえ。行くぞ」
ルビスの疑問に答えたのはテューサだったが、そのテューサも、新しい疑問を見つけていた。すぐにシャネラがそれを掻き消す。だが、シャネラの意見も掻き消されてしまった。
「待って!!」
「何だよ」
急に大声を出したディルは、焦った様子でミクヤを片肩で支えていた。
「ミクヤ、能力を使って疲れてるの。どうせ、夢であの人たちに情報を貰わなくちゃいけないんでしょ?今日はここで休憩しようよ」
ディルがいう『あの人たち』というのは、ラーミアやテュクといった、『平和』の石のこと
だ。
「・・・仕方ねえな」
「もうちょっと街に近かったら、僕の家で休めたんだけどね。歩くのもミクヤが可哀想だし、ここで休もうか」
シャネラが溜め息を吐いたので、ルビスが苦笑した。そう聞くと、ディルはにこっと笑い、
ミクヤと一緒に気球の方へ歩いていった。そして、気球に凭れて座り込む。
「ルビス・・・。私、それでも街へ行きたいんだけど・・・」
「どうしたの?」
せっかく話がまとまったのに、と遠慮がちにテューサが上目遣いでルビスに頼んだ。ルビ
スは愛想よく笑う。シャネラは怪訝そうに2人を見ている。
「火熾し木と・・・食料がないと思うの」
確かに、ライソカス国の洞窟で火熾し木を使い果たしてしまっていた。そして、テューサ
に指摘されて、その場にいるテューサ以外の4人が、思わず自分の鞄の中を調べた。・・・本
当だった。これから砂漠を歩こうというのに、水筒の中の水は雀の涙ほどしかない。それ
ぞれの食料も、砂漠を歩くのには確実に量が足りなかった。
「げ。本当だぜ・・・。・・・おし、買いもんに行くぞ」
大食いのシャネラは、鞄の中を見て青ざめていた。ルビスも頷いて、テューサから地図を
受け取った。
「今は・・・。空から見る限りでは、あのたくさんの孤島の上空を真っ直ぐ来たから・・・。海を越えた後に山があって・・・。山を越えてすぐに降りたから、このへんかな・・・。じゃあ、ギロの街が近いかな」
地図の上を、ルビスが指でなぞっていく。ライソカス国は載っていないが、孤島の一部が
記されていることから推測していった。現在地を確認すると、地図をくるくると丸めて紐
で止め、テューサに返した。
「えっと・・・。街に行く人は・・・?」
ルビスがきょろきょろと仲間を見回した。ディルがそわそわと落ち着いていない。ルビス
は目が止まり、ふっと微笑んだ。
「じゃあ、テューサとシャネラと僕で行ってくるよ。ディル、ミクヤを頼むよ。疲労回復の薬なんて、悪いけど僕は作れないからね」
座っているディルの視線の高さに腰を屈めて合わせた。ディルが申し訳なさそうな表情を
して「ごめん」と謝る。
「決まりだな。行くぞ」
「ディル。1日じゃ帰ってこれないかもしれないから、私の分の残りの食料あげるね。じゃあ、行ってきます」
テューサは皮袋から、水筒と巾着のような袋を出してディルに渡した。
「ありがとう。いってらっしゃーい」
ディルとミクヤを気球の降り立った場所へ残し、3人はギルの街へと発った・・・。
第16部終了です。
第17部からもよろしくお願いします。
さ。目指せ、1200Hit!!