第16部(2)
第16部 ―ネイス国へ・・・―(2)
――何か・・・落ちてくる・・・?
少し遅れて、脳からその判断が送られて来たとき、誰もが口を開けて、呆けて見ていた。しかし、シャネラが声を出す。
「・・・かたまれ・・・っ!」
シャネラは、自分の発する声と同時に、左腕でテューサの体をルビスの方へぐいと押して、木刀を持った右腕をディルの腰の辺りに巻き、ルビスの方へ連れた。瞬間の出来事で、力加減が分からず、自分も彼らに覆い被さるようにして倒れこむ。シャネラがこれをやり遂げた直後、大きな音が辺りに響いた。
どすーん・・・・・・。
砂埃が立ち、4人は一斉に咳き込む。瞳に砂が入らないよう、目蓋をぎゅっと閉じる。しばらくして次に開いた瞬間、またもや目を丸くした。
「な・・・何、これ・・・」
テューサが体勢を整えながら、目の前にある物を凝視した。目の前にある物・・・それは、大きな大きな竹籠と、大きな大きな布地だった。
「こ、こんな物があたしたちの上に落ちてきたら・・・怪我どころじゃ済まなかったわね・・・。有難う。シャネラ・・・」
ディルも、体勢を整えながらシャネラに礼を言った。冷や汗を掻いている様で、ごくりと唾を飲み込んでいた。シャネラも起き上がりながら「ああ・・・」と頷いた。ルビスもテューサも忘れずに礼を言う。確かに、こんな物が自分たちの体の上に落ちてきたらひとたま
りもない。間一髪で、シャネラのおかげで助かった。
ずっと落ちてきた篭と布を見ていると、ミクヤが鞄を肩から下げて、森から姿を現した。
何も言わず、両手をポケットに突っ込んで、ただただ呆けて見ている少年少女らのもとへ足を運んでいた。
「ミクヤ・・・」
足音に気がついたディルは、駆け寄りもせずにミクヤの名を呼んだ。すると、しゃがみ込んで呆けている4人に対し、片膝をついて彼らと視線の高さを合わせた。
「・・・無事だったようだな」
「え?」
4人が口を揃えて言った。すると、ミクヤは彼らから視線を外して、落ちてきた物の方へ向けた。少しの間それらを見つめた。
「気球を造ろう」
ぽつりと吐いた言葉が、飲み込みきれずにいた。しばらく沈黙が続き、一番最初に口を開いたのはシャネラだった。
「じゃあ・・・これ落としたの・・・お前か・・・?」
「ああ」
落下物を見つめ続けながらミクヤは頷いた。シャネラは顔を憤怒の表情に変えて、ミクヤの胸倉を掴み、叫んだ。
「落とすなら行く前に言えよ! こっちはもう少しで怪我するところだったんだぞ! いや、怪我だけじゃ済まなかったかもしれないんだ!! ・・・おい!聞いてんのか!?」
叫ぶシャネラの声を、無視するかのようにミクヤは何も言わなかった。胸倉を掴んでいるシャネラの手を叩いて、体を自由にさせた。すぐに、足を落下物の籠の方へ向けて、歩いていく。完全に無視されて、シャネラは気が立っていた。
「シャ、シャネラ・・・。私はまだミクヤのことよく分からないけど、あまり喋らない人なのよ、きっと・・・。ネイス国へ渡る方法を持ってきてくれたんだし、怒らないで・・・」
シャネラの木刀を持った右手は力が入り、今にも木刀でミクヤに振りかかろうとしそうだった。ディルは申し訳なさそうな顔をして、ミクヤに駆け寄る。ちょうど視線のぶつかったテューサは、こくりと頷いて「行ってあげて」と目でディルに訴えた。それが分かったのか一心にディルはミクヤへ駆け寄る。テューサはシャネラに寄り添った。ルビスは落ちている布の方へ歩いていった。
「シャネラ・・・」
恐々とテューサが名を呼んだ。名を呼ばれ、シャネラがぎろりとテューサを睨んだ。びくっと、体をふいに硬直させてしまう。怒り交じりに皮肉った笑みを浮かべる。
「何だよ。怒鳴った俺が、悪いって言うのか?皆してアイツの肩を持つなよな」
「ち、違う・・・。ミクヤが言ってくれてればシャネラは怒らずに済んだわ。怒鳴ったシャネラも少しは悪いけど、ミクヤも悪いわ。お互い様よ」
シャネラの力を入れている右手をそっと自分の手で包みながら、テューサは微笑んだ。その笑顔に、シャネラは胸を突かれた感じがして、ふっと右手の力を緩めた。それが伝わってきたのか、なおも微笑み続けた。
「ね。皆仲良くしましょ。楽しい旅の方が、絶対良いわよ。シャネラ、笑って」
今まで真一文字だったシャネラの口が緩み、小さな笑い声が漏れた。
「ほら、気球造りを手伝いましょ。ルビスが1人でやってて、大変そうだわ」
包んでいた手を、拳から手首へ移動させ、ぎゅっと掴んだ。そして引っ張るように歩き出す。テューサは笑った。
「・・・これで貸し借りなし、ね」
シャネラの方を振り返りながら、にっこり笑って言った。シャネラも、「ああ」と言って微笑み返した。
ディルも、ミクヤの説得に一生懸命になっていた。ミクヤは空から落とした籠を、人が乗れるように仕立て、衝撃でへこんだ部分を直していた。
「ミクヤー・・・。少しは喋ってよぉ。あたしと2人の時は喋らなくても良いからさ・・・。シャネラなんか気が短いから、無視してると勘違いしちゃうわー」
「構わない」
手を動かしながら、ミクヤはぽつりと呟く。ふう、と溜め息をつき、ディルは口を開いた。
「ミクヤ。空からこんな大きな物を落としたこと、どう思っているの?」
ディルの問いかけに、答えは数十秒返ってこなかった。諦めかけたとき、ミクヤは口を開く。
「仕方ない。こんなもの、持って降りれないんだから」
「でも、行く前に言っておいてくれたっていいでしょー?本当に、シャネラが助けてくれなかったら、これに押し潰されてたかもしれないのよ?」
ミクヤも、溜め息をついた。ディルの方を見ずに、作業に没頭している様子で最後に一言言った。
「悪かった」
「・・・」
ディルは何も言わなかった。呆れた表情で、少年を見つめていた。
1000Hit!!
有難うございます〜(泣)
これからも頑張らせてくださいね!
あ、1000Hit記念ということで、番外編を書かせて頂きました!!
本編とは別で投稿してありますので、少し探すことになっちゃうかも・・・。
是非?読んでみて下さい。
ディルとテューサの、一昔前のお話です。