第15部
第15部はこの話で終わりです。
第15部 ―空を癒すディザード―
久しぶりに眼に差し込んだ光は、痛いほど眩しかった。思わず、手が眼の上に来て、光を遮ろうとする。光に目が慣れてきて、辺りを見回してみる。目の前には、綺麗な湖が広がっている。真っ青だ。そして、それを取り囲む、生い茂った草木。洞窟の出口の横では、ルビスとディルが、座っていた。
「やっと来たー」
ディルが洞窟から出てきたテューサとシャネラに声をかけた。2人も、ディルたちを真似て、座り込んだ。
「で、さっきの蔓は何だったんだ?」
シャネラが座るのと同時にディルに聞いた。
「ルビスにも言ったけどね。あたしがここに来るとき毎回、あの蔓に襲われるの。別に今回みたいに切ればいいだけだから、そんなに大事に思っていないけどー。多分、アムタワ国への侵入妨害の罠でしょ。ふふっ」
さらりとディルは答えた。しかし、シャネラには新たに疑問が浮かぶ。
「アムタワ国って何だよ?」
「ディザードがいる国!」
「ディザードはどこにいるんだよ?」
第三の質問に対し、ディルが空を指さした。三人は、ディルの指に沿って、示された場所を目で追う。
そこには、空に浮かぶ何かがあった。よーく見てみる。すると、家のような、城のような建物らしきものが見えた。
「あ、あれ・・・」
「あれが、アムタワ国。ディザードが住んでマス」
ぽかん、と呆気に取られただただ虚空を見つめるテューサたち。なぜ浮かんでいるのだろう。どうやったら浮かぶのだろう。色々な疑問が浮かんできた。しかし、口にすることはなかった。
しばらく沈黙が続き、テューサが口を開いた。
「どうやってあそこに行くの?」
ディルはそれを聞かれて溜め息をついた。
「知らなーい。でも、大丈夫! あっちには、あたし達の姿が見えてるから。すぐにディザードも降りてくるよ!」
「もう降りてきてる」
テューサたちにとって聞き覚えのない声が、湖の左横に生えている木々の間から聞こえた。
反射的に、その方向へ顔が向く。木々の間から、一人の少年がこちらに向かって歩いてき
ているのが分かった。木々を抜け、少年の顔に陽が射し、顔が見える。シャネラと同じ黒
髪に、瞳は空色だった。
少年の声を聞いて、ディルががばっと立ち上がった。名を呼んで、駆け出す。
「ミクヤ!」
駆け寄る勢いで、ミクヤと呼ばれた少年に抱きつく。少年は抱きつかれたことと、それを見られていることにそれほど羞恥心を感じてはいなさそうだった。それどころか、むしろ無表情と言った方がいいかもしれない。一応、抱きついている少女の頭を撫でてやってはいた。そのあとすぐにその空色の瞳を、テューサたちに向けてきた。
「あ、これがディザードだよ、みんな。ミクヤ・グレイルーっていうの。確か」
体から離れ、ディルが少年を紹介した。テューサたち三人はその場に立ち上がり、ひとり一人自己紹介をしていった。
「僕はルビス。ラルウィだよ。よろしくね」
ルビスが最後に笑顔を付け足したが、相手から笑顔は返ってこなかった。
「わ、私はテューサ。ウィテュードです・・・」
「ウィーシャのシャネラ」
三人が言い終わったのを見計らい、ミクヤは「よろしく」の代わりに頭をぺこりと下げた。
何か言いたそうに、ディルは三人を見てにこやかに笑っていた。それを見て取り、ルビスがどうしたのか、聞いてやった。
「えへへ・・・。あのね、この前お城でジェムのこと聞いたでしょ?」
「うん。婚約者だよね」
ルビスが相槌を打つ。ディルが訂正しながら続けた。
「元、ね。何でジェムとの話を蹴ったか、分かる?」
ルビスは大体分かっていたが、あえて分からない振りをした。
「さあ? 分からないな」
「発表しちゃいます! ミクヤはあたしの恋人なのです!」
ミクヤの右腕を挙げて、ミクヤを強調させた。ミクヤは何も言わない。テューサがわっと
歓声を上げた。
「本当!? きゃー! すごーい! だから、居場所を知っていたのね!」
・・・どうやら気づいていなかったらしい。シャネラも大体想像できていたのか、テューサの
言った言葉に、溜め息をついた。テューサは柄にもなく、まだ騒ぎ続ける。
「ディル! こんなかっこいい人見つけれて良かったわね!」
「ありがとう、テューサ!」
少女らはきゃあきゃあと騒ぎ合った。ミクヤはすすっとそこから逃げ出し、シャネラたち
の方へ来る。
「・・・お前・・・脅されたとか違うよな・・・?」
「大丈夫だ」
ミクヤはこくりと頷き、ディルを見つめていた・・・。
第16部をお楽しみに。