第14部(3)
それぞれの、夢の中へ・・・
第14部 ―暗闇の冒険―(3)
俺は夢の中で木刀を振っていた。なぜか、木刀までもが夢の中にあった。ぶん、ぶんと木刀の風を切る音がする。
『シャネラ・・・何やってるの・・・?』
俺の行動に、いちいちシャーマが興味を抱く。別に構わないけど。話をするために、俺は少し手を休めた。その場に座り込む。
「ふう・・・。剣術の練習だよ。やべえな。最近全然闘ってないから、腕が鈍ったかも・・・」
手の甲で額の汗を拭った。くすくすと、シャーマの笑い声が聞こえる。
「何だよ?」
『平和が一番なのに・・・。闘うだなんて・・・。仮にも君は僕の使い手だよ・・・?』
笑い声は止まなかった。俺は溜め息をついた後、立ち上がってまた、木刀を振り始めた。
「この前みたいに、盗賊が襲ってくるかもしれねえだろ。今の四人の中で、俺ぐらいじゃねえか。まともに喧嘩出来るのは」
『ラーミアの使い手の娘も、結構強いらしいよ・・・』
「女なんかあてにできるかよ」
俺は舌打ちした。もうこのことについて話したいとは思わず、話題を変えることにした。
「何か、情報はねえの?」
今まで続いていた笑い声がぴたりと止み、静かなシャーマの声が響いた。
『五人揃ったら・・・』
「五人揃ったら?」
シャーマの後に続けて、俺が繰り返し言う。ちょっとの間、空白を空けて、シャーマは口を開いた。
『・・・ネイス国の砂漠へ向かって・・・』
「ネイス国の・・・砂漠? 何があるんだよ?」
俺は木刀を振る手を止め、顔を上げた。シャーマは何も答えなかった。俺は、はっとあることに気づいてしまった。
「ちょっと待て! ネイス国ってことは・・・! 俺らにもう一度あの孤島を渡れって言うのか!?」
・・・・・・・・・。
ディルの夢の中・・・。
あたしは、ここでラーミアと語り合っていた。テーマは、恋愛について・・・。
『もうすぐね・・・』
「うん! ミクヤに会えるー! 楽しみっ」
地べたに座り込み、姿の見えないラーミアと語り合う。これは、あたしの日課のようなものになっていた。ミクヤっていうのは、あたしの恋人! だから、お父様が勝手に決めたジェムとのお付き合いは断ったの。
「ミクヤの方が、ジェムよりも断然かっこいいもん!」
『これこれ・・・。比較してはいけません・・・』
「だってー・・・」
だって、と言ったものの、続ける言葉がなかった。少し俯いてしまったあたしに、ラーミアが優しく聞いてくれた。
『テュクの使い手やシャーマの使い手とは、どうですか・・・?』
ぱっとあたしは顔を上げた。自分でも、このとき顔が綻んでいたと思う。
「テューサたちのこと? あたし、仲間が・・・友達が出来て、本当に嬉しいの!」
今まで、王宮を逃げ出して一人で生きてきた。王宮にいた十五年間も、友達と言えるような存在は、誰一人としていやしない。周りはあたしに頭を下げながら、へこへこして敬語を使う大人たちばかり。お父様が勝手に決めた許婚のジェムは、あたしのタイプじゃなかったし・・・っと、これは失言ね。そんな王宮が嫌になって出てきたのはいいけど・・・。結局、外の世界でもラーミアしか話す相手はいなくて、それも話す場所は夢の中。日中は本当に一人ぼっちで、寂しかった。でも、お城に帰る気はなかった。ミクヤともあまり会えないし。
『よかったですね・・・』
「うん。シャネラが洞窟であたしを捕まえたときは、何がなんだか分からなかったから、お城に連れ戻されるのかなって、少し怖くなった。『平和』の石を持つ人たちが、ライソカスまで来てくれたなんて、思わなかったもんね」
ニコニコしながらあたしは喋った。ラーミアはそんなあたしの言葉を遮らず、ずっと聞いていてくれた。
ルビスは夢の中で、そこにあった自分の医学の本を読みふけっていた。
僕が本を読んでいると、ランクルが不思議そうに尋ねてくる。
『本読んでると・・・眠くならない・・・?』
こういう質問は、何度かあった。テューサにも、された気がする。僕はこのような質問に、同じような答えを度々返していた。
「そうでもないよ。僕、本を読むのは好きだし。ランクルは嫌いなの?」
問いを返してあげる。これによって、ランクルは退屈しない。ランクルは少し考えた。
『私は・・・好きではないわ・・・。でも、嫌いでもない・・・』
「そう。この本があったおかげで、テューサは死なずに済んだんだ。良かったよね」
本から顔を上げて、にっこり笑って見せた。ランクルは、多分僕の表情を見ていたと思う。なにせ、ランクル自体が、僕には見えないんだから。
『そうね・・・ルビス・・・今度、武術の本でも読んでみたら・・・?』
ランクルが、意外な話題を出してきた。僕は瞬間驚いた。ランクルの口からそんな言葉が出てくるなんて。でも、僕はすぐに笑って返答した。
「そうだね・・・襲われたとき、シャネラとディルにばかり任せておいちゃいけないもんね。でも、武術は読むより体で覚えた方が頭の中に入るって聞くんだよなぁ」
僕は、本をパタンと閉じた。表紙が見える。<世界の医学>っていうタイトルだ。分厚いだけあり、結構大それた名だ。
『シャネラに習ったらどう・・・? これから逢うディザードでもいいかも・・・』
「そうだね・・・。シャネラは『面倒くさい』って言って断られそうだな。ディザードも武術出来るんだ?」
僕はその場に立ち上がった。本を脇に抱えて。
『分からないけど・・・。なんとなく、今私が感じるオーラが強そうだから・・・』
「何だよ、それ。じゃあ、僕は戻るね。また今晩お話しよう」
くすっと笑って、僕は現実へ戻った。
私は夢の中ではしゃいでいたわ。ディルが見つかったのだもの! 更に言うなら、これから最後のディザードに逢うのよ! 楽しみだわ! ・・・こんなことをテュクに報告していた。テュクは、時々相槌を打ってくれた。あとは、静かに私の話を聞いていてくれた。
「でもこれからディザードに逢うのはいいけれど・・・私的に、ディルの恋人にも逢ってみたいなぁ」
こんな私のボヤキに、テュクはくすくすと笑った。
「どうしたの? ・・・まさかテュク、あなたディルの恋人を知ってるの?」
『いえ・・・見たことはありませんよ・・・。ヒントとして言うなら・・・素敵なチカラをお持ちのようね・・・』
上品なテュクの微笑みに、私は疑問にしながらもテュクは続けた。素敵な・・・って何だろう。気になる!
『とにかく、テューサ・・・。ディザードを仲間にしたら、ネイス国へ行くのです・・・』
テュクの出した、ディルの恋人のヒントを元に考え込んでいた私を、テュクが話題を変えてそっちに集中させた。私もそれに見事に乗ったのだが。
「ネイス国!? また海を渡らなくちゃいけないの? 大変! でも何でネイス国に?」
『ネイス国に着いた夜の夢の中で、また何らかの情報をお話しましょう・・・。それまでは、気を急かないように・・・』
テュクがそれだけ言うと、私の視界は白んでいった。ぼやけていく。あぁ現実へ戻るのか、と私は考えながら、分かったとテュクに言った。
いつのまにやら900Hit!!
有難うございます・・・!!
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