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第13部

第13部  ―王女の帰還と旅立ち―


 ディルを連れた一行は、ライソカス城に着いた。途中から、道端で会う人々に分からないよう、ディルは顔を隠すように布を被っていた。

 城までたどり着くと、ディルは布を取った。紅く、束ねた長い髪が現れる。城の兵士たちはディルを見て驚いた後、すぐさま頭を下げ、扉を開いた。ディルは兵士たちに「ありがとー」と言って、堂々と中へ入っていった。遅れをとらないよう、テューサたちもあとから続いて入った。

 城の中の者はどよめいていた。そして、その騒動に気づき、大臣が姿を現した。一瞬、目を丸くした。

「おぉ・・・! ディル様。お帰りなさいませ・・・! 皆心配しておりました」

「お父様に会える?」

大臣の言葉をかき消すかのように、ディルは一言、口早に言った。大臣は少し悲しげな顔をした。

「はい・・・。王もディル様を心配しておりました。お会いになる前に、お召し物を着替えてはいかがでしょうか・・・」

確かに、ディルの今着ている服は、土まみれで、水簿らしい物だった。しかし、ディルはそれを冷たく断った。

「必要ないわー。今からまた、テューサたちと旅に出るんだもん。土なんて、掃えば落ちるわよ。それよりもお父様に会わせて」

大臣はしぶしぶ、ディルとテューサたち計4人を、王の寝室へ案内した。謁見の間でないことから、未だ王が寝たきりの状態になっていることが感じられた。


 寝室の警備兵が頭を下げた。頭を上げ、ディルを見たとき、一瞬目を大きくさせて見るかのように、ディルをじっと凝視した。驚いたような顔つきで、慌しくドアを開けた。大臣が一番に入り、次にディル。最後にテューサたちが入った。

「失礼致します。・・・国王様。ディル様がお戻りになられました」

「なに?」

ライソカス国王は寝台から体を起こし、今入ってきた者たちの方へ目を向けた。目の下にはくまが出来ており、食事を十分に摂っていないのか痩せ衰えていた。国王は娘の無事な姿を見てほっとしたようだが、その前に驚いた表情を見せていた。

「おぉ。我が娘よ・・・。よくぞ無事に戻ってきた。心配しておったのだぞ。ジェムも・・・」

「お父様。ジェムの話はいいです。それよりも、お話があります」

ディルは相手が国王であるのにも関わらず、その国王の言葉をさえぎった。体を起こした状態で、ディルの後ろに並ぶテューサたちをじっと見つめた。

「ふむ・・・。そちらの方々は、『平和』の石を持つ者かな? とすると、旅に出ると?」

「えぇ。世界を救う旅に出るわ」

こんな話なのに、なぜ自分たちをここまで連れてきたのだろう、とテューサたちは思っていた。城の外ででも待っているのに。仕方なく、後ろで立って聞いていた。

「全てが終わったら・・・ここに戻って戻ってくるのだな?」

「・・・分からないわ。でも、ジェムとの話はなかったことにしてほしいの」

テューサたちに、ジェムという人物は分からなかった。それでも、王と王女の会話は続く。

「なんと! ジェムはお前の婚約者だぞ!」

「あたし、ジェムのこと嫌いじゃない。でも、あたしには別に、愛している人がいるの」

ここまできて、テューサたちはジェムという人物がようやく分かった。王は驚いた様子で、大きな声をあげていた。娘は、落ち着いた態度で口を開いている。

「それじゃ、行ってくるわねー」

きびすを返し、テューサたちと面向かう。ディルは、テューサの目を見ながら、にっこり微笑んで、「行きましょっ」と3人に聞こえる程度の小声で言った。

「ディル!」

扉に手をかざし、開けようとしている娘を、王は声で止めた。ディルは振り返らない。王も、娘がどのような行動に出るか分かっているのか、そのまま続けた。

「・・・気をつけて行ってきなさい」

「はーい」

ディルは扉を開け、颯爽と出て行ってしまった。テューサたちも部屋から出ようとする。

「『平和』の石を持つディルの仲間たちよ・・・。娘を、頼む・・・」

国王はテューサたちに一言声をかけてから、また寝台に横になった。

「・・・もう私たちは友達であり、仲間ですから」

テューサとルビスはぺこりとお辞儀をして、3人で部屋を出て行った。


 城を出てから、商店街で食料の調達を終えたテューサたち。

「・・・で、どこへ行きたいんだっけ?」

「えっとね。ヘルグっていう人と、ハンナっていう人が営んでいる宿屋。お世話になったお礼を言ってから、旅に出ようと思って」

テューサとディルは、笑顔で会話していた。後ろで、微笑みながらそれを見ているシャネラとルビス。

「・・・あっ、あそこよ。ハンナさーん!」

表で、掃除をしていたハンナを見つけ、テューサが手を振りながら、大声で呼んだ。

「あ、お帰り。・・・あら。後ろの方は・・・」

「ディル・フィネットと申しますッ。・・・ご存知かしら?」

「お、王女様!?」

ハンナはびっくりしてその場にひれ伏した。テューサたちも驚き、肩をあげる。

「・・・おい。何だよ、うるさいな・・・」

中から出てきたヘルグも、ひれ伏している自分の妹に声を掛けながら、目線はディルへ行き、言葉と共に動きが止まった。そして、妹の隣へひれ伏す。

「二人とも顔をあげてっ。今日は、テューサたちがあなたたちに会いに来たのっ」

「は、はい・・・」

ハンナとヘルグは顔をあげ、立ち上がった。しかし、俯いたままで、テューサたちの顔を見ることはなかった。おずおずとしている。

「あ、あの・・・。お世話になりました。また、旅に出るんで・・・」

「そ、そう。気をつけてね」

「・・・元気でな」

声が上擦りながらも、ハンナとヘルグは一言ずつテューサたちに言った。

「さー、行きましょー!」

ディルの一言で、旅が再開された。テューサは振り返り、ハンナたちに手を振り、街を出て行った。ハンナも、手を振り返してくれた・・・。




第13部はこの1話のみです。14部をお楽しみに(^_-)

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