第10部(2)
久しぶりに、ゆっくりとしたお話です。
第10部 ―最後の微小孤島―(2)
張り詰めた空気の中、一行は最後の孤島に着いた。あれから、幾日をも費やした。どのくらいの数の島を泳ぎ渡ったことだろう。もう、サリナ国・シャシル国・ネイス国のある島は見えやしない。見えるのは、自分たちが泳いできた、昨晩の宿にした島と、今足をつけている島。そして、先に見える今までの孤島より遥かに面積の広い島だ。あとは、全部青の世界。海だ。
テューサの足は、まだ治ってはいなかった。傷跡は消えたが、痺れが残っていた。傷が消えたことによって、包帯は取れたが、痺れが残っていると、言わなくても分かるルビスは、ずっとテューサを目に掛けていた。
まる1日を、最後の孤島で過ごした。シャネラは昼寝、ルビスは読書。何もすることのないテューサは島を歩いてみることにした。
ゆっくりとその場から立ち上がり、ふらりと歩き始めるテューサに、ルビスは少し目を向けたが、何も言わなかった。すぐに読書に戻った。テューサはこちらを見ていないルビスにひっそりと微笑んだ。
リハビリにもなるこの探険は、あまり変わらない青の風景を楽しむことも出来た。
青い中から時々魚が顔を出す。体も出して水面で飛び跳ねる。太陽が水面に反射して眩しい。海岸に下りて、水を両手ですくってみる。真っ青に見える海水は、手の中では無色で透明だった。その透き通った水はきらきらと輝き、綺麗だった。風が吹くと、潮風が香る。また、島に生える少数の木々は木の葉を揺らして音を奏でる。
テューサは、変わりばえのしない景色を、変に興味を抱いてずっと見ていた。その場に座り込み、何秒も、何分も、何時間も・・・。時間が過ぎるのを忘れて、ただただ見入っていた。
夕方、赤く染まる空。それを真似たかのように、海も表情を変える。青は赤を混ぜた、紫のような色になっていた。またそれも、今までの何時間かは見られなかった風景で、ゆ
っくり堪能していた。自分でも可笑しいと思ってしまうほど、見入っていた。昨日までも見ていたはずなのに。
テューサはこうしてぼーっと景色を眺めていると、いろんなことを考えてしまった。これからの行き先、仲間、チキやウナの待つサリナ国・・・。(チキやウナは海を見たことがあるのかしら。見せてあげたいな・・・。こんなにも綺麗なんだもの。ウナ、泣いていないかしら。チキは、喧嘩をふっかけていないかしら・・・)考えることは心配事ばかりでも、心はしゃんとしていた。
ぼーっとして、心を休めたかったのかもしれない。思いをまとめたかったのかもしれない。空が薄闇に包まれていく頃、テューサはぱたんと横に倒れてみた。体の下に敷かれている砂が冷たかったが、大して気にも止めなかった。そして、そのまま夢の中へと誘われていった。
シャネラとルビスは、夕刻まで自分らのもとへ帰ってこないテューサが心配になっていた。直に辺りは、近くの物まで見えなくなるほど、暗くなる。2人は、テューサを捜すことにした。
捜し始めてから数分。小さな島だけあって、すぐにテューサは見つかった。横に転がっているので、見つけたとき、シャネラとルビスは驚いてすぐに駆け寄った。しかし、近づいてみると、心地良さそうな寝息が聞こえる。2人は顔を見合わせて、一緒に安堵の溜め息をついた。そして、シャネラはテューサを、海岸から少し離れた場所まで担いでいった。揺らしても、少し手荒に扱っても、テューサは起きなかった。
ルビスはそこで火を熾し、食料を出して炙り始めた。シャネラはテューサに、自分のジャケットを被せて、ルビスにならい、食事の準備をした。
そして、最後の微小な孤島で、床に就いた。
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第10部は短く、今話で終了です。
第11部をお楽しみに。