第9部(3)
ルビス、頑張って・・・!
テューサを救えるのは、貴方しか・・・!!
第9部―いざ、孤島へ・・・―(3)
青ざめて、苦しそうなテューサにルビスは顔を覗き込みながら、声をかけた。目をぎゅっと瞑っていて自分の顔など見えるはずもないと知っていながら。
「テューサ。大丈夫だよ。僕、毒消しの薬の作り方知ってるから。今、作ってあげるね。頑張って。」
「う・・・ん・・・。・・・っぅ・・・。」
そして、鞄の中に手を突っ込みながら、シャネラに言う。
「シャネラ。悪いけど、僕が薬を作るまでずっとそのままでいてね。動くと、毒の回りが速くなるし、上半身を起こしておくことで毒が心臓に達するのを遅くするから。」
「毒が・・・心臓に達したらどうなるんだ?」
シャネラが、ルビスは薬作りに忙しいと分かっていながら質問をぶつけてしまった。鞄か
ら沢山の薬瓶や植物を出しながら振り向かずにルビスは答える。
「・・・死んじゃうね。」
「そうか。」
死ぬ、という言葉を聞いたシャネラは、テューサの体を強く抱きしめた。テューサの体は、
とても冷たかった。海に入ったせいもあるが。ぐったりとして、自分の力で座っていられ
ずに、自分の腕に凭れかかるテューサを見て、シャネラは申し訳なく思った。
「ごめんな。・・・無理して泳がせたからだな・・・。」
シャネラはテューサに謝った。そして、自分のズボンのポケットから<シャーマ>を取り
出した。自分の胸の前で、強く握り締める。
「畜生っ・・・。<オールズ・シャナー>ぁっ!!」
シャネラの叫んだ呪文と共に、光った石の色が、海を取り巻いていく。一見、海の様子は
変わらないが、シャネラには水中がどうなっているか、想像は出来た。
「それが、君の呪文?」
これまた、てきぱきと手を動かすルビスが、辺りが輝いたことを感じ、シャネラの方を向
かずに問い掛けた。
「ああ。」
短く答えるシャネラ。シャネラもルビスの方は向かなかった。ずっと、海を見ていた。
「そっか。僕も、この島で危険なことが起こらないように、唱えておこうかなあ。」
そう言って、一旦忙しく動いていた手を休め、その手で緑色の石<ランクル>を取り出して包んだ。そして、歌うように口ずさんだ。
「<チャールク・ネス・アーソイリー>・・・。」
ぱっと辺りが緑色で染まり、すぐに元通りに戻った。清々しい澄んだ風が、口ずさんだ呪文のリズムに合わせるかのように吹いた。水を含み、重くなったテューサの長い髪をも揺らす。そんな髪や服が乾いていくような、暖かな風だった。
「お前・・・。」
「自然を癒したんだよ。ラルウィだもの。」
ルビスはにっこりと微笑んで、シャネラの聞きたいことを答えてしまった。そしてすぐに作業へと戻る。ルビスが呪文をシャネラの目の前で唱えたのは初めてだった。それ故、『平和』の石を持つ同類なのに、何が起こったか聞きたくなってしまった。
薬を作っているしばらくの間、沈黙が流れた。聞こえるのは、テューサの苦しそうな吐息だけ。シャネラの腕の中で、テューサは更に青ざめて冷たくなっていた。
「う・・・っは・・・ぁ・・・っ・・・。」
「・・・おい、まだ薬は出来ねえのかよ。」
痺れを切らしたシャネラが、背を向けて薬を作っているルビスを問いただした。
「待って。あと少し・・・。」
その言葉を信じ、シャネラは急く心を抑えて、もうしばらく待つことにした。
それから待った時間はとても短かった。また沈黙が流れたかと思ったら、すぐにルビスが「出来た!」と叫んだ。
そして、出来た薬をテューサの口に運ぶ。
「テューサ。薬だよ。口を開けて。飲んで。」
短い言葉で、テューサに声をかけた。
「う・・・ん・・・。」
僅かに開いたテューサの口からルビスが、深い緑色に濁った液体状の薬を半分流し込んだ。そして、残りの半分を、足首の噛まれた痕にかける。そして、以前までシャネラが使っていた包帯をそこに消毒液を浸けて巻いた。
「これでよしっと・・・。」
一言言って、ふうと安堵の溜め息をついた。しかし、シャネラはテューサがまだ心配で、未だ強く抱きしめていた。
ルビスは、使った薬品や植物を片付け終えると、次は火熾し木で体を温める為の暖を作った。