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第6部(3)

第6部―仲直りまでの道のり―(3)


地図で見た、近くの川へテューサはカーディガンの包帯を洗いに行った。

 川の水が冷たくて手が(かじか)む。冷たさを我慢して、血で汚れた布を洗った。赤い水が染み出す。しかし、布から出る赤い水とは別で、上流から汚水が流れてきているようで、川の水は綺麗とは言えなかった。それでも、テューサは布を洗った。大体綺麗に落ちたら、ぎゅっと絞る。繰り返した。

 

シャネラは目を覚ました。腕の包帯が変わっていることに最初に気づいた。(あいつか・・・。)昨晩、そこで寝たはずの、自分の凭れかかっている木の幹の裏を、痛む体を引きずって覗いてみた。・・・いない。どこへ行ったのだろうと、きょろきょろと辺りを見回した。

・・・いない。

 シャネラは体に激痛が走ったので、テューサを探すことを諦めた。(そのうち戻ってくるだろう。)先程の凭れていた木の幹へ戻る。

「シャーマ・・・。約束は守れよ・・・。」

シャネラは石を握って呟き、テューサに謝ることを決めた。


 テューサは全部の布きれを洗い終わり、もとの場所への帰途についた。冷えた指先が温まらない。拳を握り締めても、息を吹きかけても、石を包んでも・・・。その上、冷水で洗った冷たい布を持っているせいで、体全体まで寒くなってくる。体を温めようと、テューサは走った。

 もとの場所に戻ってきた。足音に気づいて、シャネラが後ろを振り向いた。

「あ・・・。お、起きてたんだ・・・。」

ぎこちない言葉をかけるテューサ。少し戸惑いの様子が(うかが)えるシャネラ。

「あ、あの・・・ご、ごめんなさい・・・。」

噛みながらも、最後まで口に出して詫びた。テューサはシャネラが振り向いたときから、その場に突っ立ったままだった。それに気づいて、シャネラの方へ歩み、正面に座った。

「いや、俺のほうこそ、悪かった。心配、してくれたのにな。」

「う、ううん。私のせいで、こんなにも怪我させちゃってごめんね・・・。」

テューサは俯いて次第に声が小さくなっていった。

 シャネラはテューサの、垂れている頭の上にぽん、と手を置き、

「・・・包帯、巻いてくれよ。」

と言って、Tシャツを脱いだ。テューサは俯いたまま手の甲で目を擦り、その後顔を上げた。そして、丁寧に巻いていく。

「・・・ねえ。今、呪文唱える体力ある・・・?」

テューサは先程布を洗った川のことを説明した。シャネラは黙ってそれを聞いていた。

 「ああ。いいぜ。行こうか。」

テューサの話を聞き終わり、包帯も巻き終わって服を着たシャネラは木刀を支えにして立った。テューサは急いで自分の皮袋とシャネラの鞄を持った。そして、川へ案内した。


 「へえ。確かに汚いな。」

淀んだ川を見ながらシャネラは呟いた。そして、石をズボンのポケットから取り出し、右手で握った。

「・・・俺はウィーシャだから、川まで癒せるか分からないぞ。」

独り言のようにテューサに言いながら、瞳を閉じた。

(シャーマ・・・。)

シャネラは石に呼びかけた。シャーマの声が聞こえてくる・・・。

『頑張れ・・・。<オールズ・シャナー>・・・!』

呪文と共に、声援まで聞こえた。石が輝きだした。

「<オールズ・シャナー>・・・!」

シャネラの声に答えるかのように石は青く光り、川をその青で満たしていった。

 シャネラは目を開け、石を握っていた手を下ろした。

「・・・ふう。」

「ありがとう。」

にっこり笑ってシャネラに笑顔を見せるテューサ。「ああ。」とだけシャネラは言って、街へと続く道を一足先に歩いていった。




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