第5部(4)
第5部 ―ネイス国を目指して―(4)
シャネラは咳き込むテューサを呼ぶようにして叫んだが、何も状況は変わらない。今回は多勢に無勢。シャネラでも、この人数では余裕はなかった。何か手はないか、必死に考えを巡らす。
「おいおい。かかってこねえの?こっちから行こうか?仕返ししたくてうずうずしてるんだよねえ。」
盗賊の首領はまだにたついている。そして、仲間に目配せすると、こくっと仲間は頷き、短剣を取り出した。シャネラはぞくっと背筋に悪寒が走った。
一斉に盗賊の男たちがシャネラ目掛けて走りよってくる。短剣を構えて。シャネラは木刀で自分を襲ってくる短剣だけに集中し、なぎ払った。しかし、全部はかわし切れない。ずばっ、と肉の裂ける音がした。赤い液体がシャネラの腕から流れ落ちる。
「ちっ。」
シャネラは傷口をおさえた。血は止まらない。
「シャネラ、逃げて・・・!」
血を見たテューサは顔を真っ青にして、叫んだ。テューサを捕まえている盗賊は首を絞めず、テューサを見ながらくっくと笑っていた。
「黙ってろ・・・。」
シャネラは苦しそうな声で一言言った。テューサは自分に何か出来ないか、考えた。
「運がいいガキだな。今度は、心臓だ。」
首領の一言で、またもや盗賊たちがシャネラを襲う。シャネラは次々にかわしていったがキリがない。膝、腕、頬・・・かわす度に斬られていた。ついにシャネラの体は真っ赤に染まる。テューサはシャネラを見て、叫んだ。そして石に祈った。
「シャネラ!シャネラ!・・・テュク、助けて!」
『<プネマ・テルヌーラ>!』
「<プネマ・テルヌーラ>!」
テューサは唱えた。ウィテュードの呪文を。ぱっと辺りが薄桃色に輝き、元に戻る。シャネラはそれを肩で息しながら見ていた。
盗賊の男たちは短剣を落とし、その場に倒れこんだ。当然、テューサは自由になる。そして、シャネラに駆け寄った。
「シャネラ!大丈夫?」
「あ、ああ・・・。一体、何やったんだ?」
辺りを見回しながら、疑問に思ったことを口に出す。
「えっと・・・多分、魂が優しくなる呪文。」
「へえ・・・。」
「とにかく、少し移動しましょ。ここは危ないわ。」