第3部(7)
第3部 ―海を癒すウィーシャ―(7)
目を覚まし、上半身を起こしてこちらを見ている。
「起きたのか。」
「ええ。あ、お母さん?すいません、ご迷惑をお掛けして・・・。」
ベッドから下りて礼をしようとしたテューサを、シャネラが止めた。
「横になってろ。また倒れられたら困るんでね。」
シャネラはそう言いながらテューサをベッドの中へ押し戻した。
「ふふ。じゃあ、元気になれるように、ご飯作ってきてあげるわ。シャネラも食べるでしょ?」
「ああ。」
母親は台所へ向かった。
シャネラはベッドの隣に座った。
「テューサ。これだ。」
真っ青な石をテューサに見せた。
「へえ。」
「・・・?それだけ?どうやってウィーシャだって証明すんだよ?」
「知らない。私、あなたの使う呪文知らないもの。」
横になったまま会話するのは、正直楽だった。
「ちょ・・・。」
「そうだわ。シャネラ。今から私の言うことをそのままやって。」
「いいけど・・・。手本を見せろよ。」
テューサは起き上がった。今回に対して、シャネラは布団の中に押し戻すことはしなかっ
た。そして、テューサは両手で首に掛けてある石を包み、心を落ち着かせた。
「<サリテュード>!」
呪文を言い放つのと同時に辺りがぱっと白く光る。
目をぱちくりさせながら、シャネラはテューサを見ていた。
「すげえ・・・。」
テューサは直接的な感想を述べられて少し恥ずかしくなった。
「えっとね、私は呪文を知っているからすぐ出来たんだけど、シャネラはまず石を持って、心を落ち着かせ、石に耳を澄ましてみて。」
言われた通りに、シャネラは目を閉じ、石を握りしめた。何か声が聞こえてくる・・・。
この時、シャネラは目を閉じて集中していたから気づいていなかったが、隣で見ていた
テューサは、シャネラの手の中から微かな青い光を見た気がした。
『・・・ネラ・・・。シャネラ・・・。』
誰かが俺のことを呼んでいる。誰だ?お前は誰だ?
『目覚めなさい・・・。シャネラ・・・。』
・・・?何を言っている?
『僕はシャーマ・・・。聞こえたかい?』
ああ。聞こえた。でも、俺はなぜか口に出すことは出来なかった。
『有難う・・・。これから頑張ろうね・・・。』
頑張る?ああ、海を癒すことか。シャーマとかいう奴が話しつづけてるってことは、俺が思っていること、分かってんのかな?
『呪文・・・覚えてよ。<オールズ・シャナー>・・・。』
「<オールズ・シャナー>!」
声が出た。
「<オールズ・シャナー>!」
シャネラは無意識のうちに声を出していた。隣で見守っていたテューサは急にシャネラが叫んだのでびっくりした。
続けざま、シャネラの手の中の石が光った。その光が、辺りまでも青く輝かせていく。
「なんだ、これ・・・。」
シャネラは自分がしたことにも関わらず、素っ頓狂な声をあげていた。テューサはにっこり笑って、もう一度シャネラに抱きついた。
「ウィーシャ!あなたはウィーシャなのよ!」
「・・・ああ。そうらしいな。」
ぽんぽん、とシャネラは抱きついてきたテューサの背中を軽く叩く。まるで幼子をあやすかのように。
「さて、他の仲間を捜すんだろ。さっさと飯を食って、出発しようぜ。」
「うん!!」
シャーマの青い光は消えていた。
テューサは出発に先立ち、着替えをしていた。サリナ国から来ていた服は汚れてしまい、ぼろぼろだった。シャネラの母親は
「はい。これ着なさい。私が昔着ていた服だけど。」
と、優しく気を使ってくれた。
デニムのロングスカートに白いブラウス。上から薄桃色のカーディガンを羽織った。
「おーい。用意できたか?早くしろよ。」
シャネラはこれから起こることに好奇心を抱いていた。他国はどんな姿をしているのだろう。強い奴はいるかな、と。
着替え終わり、皮袋を持って、シャネラの前にテューサは姿を現した.。
「じゃ、行ってきます。」
「お世話になりました。」
「気をつけてね。世界の為だから・・・頑張ってきなさいね。」
旅立つ息子を一生懸命目に焼き付けて母親は言った。
「ああ。父さんにもよろしくな。」
「お父さんも、あなたがウィーシャだってこと、認識してくれているわ。本当よ。」
「有難う。行ってきます。」
2人の若者は旅立った。シャネラの母親はそれを見送った。悲しいことながら、父親は最後まで姿を見せなかった。
第3部も終了です。
やっと仲間が増えて、会話が出来、楽しく書かせてもらってます。
これからもよろしくお願いします。