第3部(6)
第3部 ―海を癒すウィーシャ―(6)
「母さん?俺、旅に出るかもしれない。」
「ええ、そ、そうね。世界が、危ないのよね。」
「よく知ってるね。親父はどこ?」
「え?あ、ああ。書斎よ。今のことを報告してきなさい。」
「そのつもりだよ。ちょっと、その子見ててあげて。」
「ええ。任せなさい。」
シャネラは父のいる書斎へ向かった。
「父さん、入るよ。」
書斎のドアをノックして、返事も聞かず入るシャネラ。いきなり喝が飛んだ。
「シャネラ!!またお前漁をすっぽかしたな!いい加減にやる気を出さないか!」
父親はだん!と机を叩く。
「俺は漁には出ない。覚えるつもりもない。それよりも大切な話があるんだ。」
「漁よりも大切な話?ウチはなあ、俺が漁を引退した後、お前が出てくれなきゃ、食ってけないんだぞ!?」
「分かってる。それよりも大切な話。」
大人は面子を大事にしたがる。おおよそ、自分の父親も近所の人に「お宅の息子さんは
まだ漁に出ないのかね」とでも言われているに違いない。そう、シャネラは分かっていた。
「俺、ウィーシャかもしれない。」
黙り込んだ父親が、ぴくっと動いた。
「何?」
「俺、海を癒すウィーシャかもしれない。」
シャネラはもう一度繰り返した。
「馬鹿なことを言うな。ウィーシャは海を癒すんだぞ?お前なんかにそんな大役が務まるか!」
「俺、漁は嫌いだけど、海は好きだ。」
父親に負けずにシャネラは言い返す。
「今、俺の部屋で、仲間が眠ってる。そいつが起きて、俺の能力が覚醒したら旅に出る。」
「・・・。」
父親は黙ってしまった。
「じゃ。」
シャネラは書斎から出て行った。父親はそれを止めずに、下を見て、ずっと俯いていた。
「お父さんには言ってきたの?」
シャネラは自分の部屋に戻り、タンスの中を引っ繰り返して石を探した。
「まあね。・・・それにしても、こいつ、起きないの?」
「よっぽど疲れているのね。」
母親と話をしているうちに、シャネラは石を見つけた。海と同じ色のディープブルー。テ
ューサの首に掛かっている真っ白な石に対し、真っ青な物質だった。
「あった、あった。」
「見せて?・・・綺麗ね。あなた、いつの間にこんな物を持っていたの?」
息子の手の中の青い石を覗き込みながら母親は問うた。
「昔、海岸で昼寝しようと思って、寝転んだら急に空から俺の顔の横に落ちてきたんだ。」
「・・・そうなんだ。」
感想を言ったのは母親でなく、テューサだった。目を覚まし、上半身を起こしてこちらを
見ている。