序章(2)
序章 −故国出発−(2)
そんな生活を送って早1年。
「うー・・・ん。あっ、おはよう、チキ、ウナ」
外に出て洗濯籠を地面に下ろし、伸びをしていると隣の家のドアが勢いよく開き、子供が2人出てきた。隣に住む、5歳くらいの双子の兄妹だ。
「あ、おはようテューサ」
「おはようテューサお姉ちゃん。ねぇ、今日もお洗濯終わったら編物教えて?」
「ウナ、お前は不器用だから無理だよーだ」
「ちゃんと出来るもんー! チキの馬鹿ー」
ウナがテューサの後ろに隠れて負けずに言った。
「そうよ。この前ウナが編んだマフラーはとても上手だったわ」
テューサは腰を屈めてチキの身長に合わし、丁寧に補った。
「・・・ちぇっ。2対1じゃ負けるよ。じゃな、テューサ!!」
少年は先程出てきたドアから家の中に入っていった。入れ替わりに、後ろからテューサを呼ぶ声が聞こえた。
「テューサちゃん! テューサちゃん!」
振り返ると、逆隣の家の住人が家からではない方向から走ってきた。すくっとテューサは立ち、ウナはまだテューサの腰にしがみついている。
「どうしたの? ベッカおばさん」
ベッカおばさんと呼ばれた中年の女性は息を切らせながら話し始めた。
「どうしたもこうしたもないわよ! 今すぐにお城へ行ってちょうだい!」
「どうして?」
目を見開き、テューサは聞いた。
「私が主人と仕事で遺跡発掘に関わっていることは知ってるわね?」
「えぇ」
「昨日の発掘で書物が1つ見つかったの。古字だったけど、オルマじっちゃんが読めたから、発掘報告と一緒に今朝、国王様の前で解読したの。はぁ・・・。そしたら・・・」
いっぺんに口を動かしてしまって苦しいベッカは、やっと一息入れた。
「それで? 何が書いてあったの?」
続きが気になるテューサはそんな様子のベッカに悪いと思いながらも聞いてしまった。
「テューサちゃんの持ってるそのペンダント。真ん中の真っ白な石が関係あるのよ!」
「何で?」
胸元に掛けられているペンダントの白い石に手を触れて言った。
「わからない。そこまで国王様は聞くと、すぐに『テューサをここに呼べ』とおっしゃったの。それで私が走ってきたのさ」
「よく・・・わからない」
「私もよ。とにかく、行っておいで。こうやって話しているうちにも、国王様はお待ちだろうから」
「うん。行ってくる」
石に手を掛けたまま、ベッカに頷く。テューサの後ろで話を聞いていたウナはおそるおそる会話に入ってきた。
「お姉ちゃん。戻ってくるよね? 編物教えてくれるよね?」
慌てた様子でウナは聞いた。チキにやったように、腰を屈め、テューサは諭すように言った。
「・・・大丈夫よ。あとで、ね」
頭を撫でながら言い終えると、着ていたエプロンを脱いだ。
「ベッカおばさん。ちょっとお洗濯頼んでいい?」
「ああ、いいよ。任せときな。家の中のことも心配しないで行っといで」
「ありがとう。行ってきます」
エプロンをベッカに預け、テューサは城の方角へ走り出した。