第2部(4)
第2部 ―遭遇―(4)
『テューサ・・・。テューサ・・・。』
・・・またあの声が聞こえる。すぐに私は夢の中だと悟った。
「テュク?ああ、またあなたに会えたのね!」
私は姿の見えないテュクの声が聞こえただけでも嬉しかった。今、仲間はテュクだけなのだから。
『テューサ・・・。あの少年を捜しなさい・・・。』
「え?」
『あなたを危機から救った、あの少年を捜しなさい・・・』
テュクは私が聞き返したことによって、もう一度、同じ事を繰り返し言った。私は現実のことを思い出した。
「・・・そうだわ!あの人!私を助けてくれたあの人!助けてくれたお礼を言わなくちゃ。」
『違う・・・。あの少年はウィーシャ・・・。魔石の強い力を感じた・・・。』
テュクの放った言葉に私はびっくりした。
「・・・え?あの人、ウィーシャなの?」
『確信は出来ない・・・。だから、彼を捜して・・・。』
「捜す?あの人、もう近くにいないの?」
『捜して・・・。我は少し疲れた・・・。テューサ・・・。頑張って・・・。』
気づくと、テューサは心地の良いベッドの上に寝かされていた。まだぼやける目で、辺りを見渡してみる。・・・知らない場所だ。すると、ばたん、とドアが開かれ、中年の太った女がコップに1杯の水を持って入ってきた。
「あら、気づいたのかい。ほら、水。1杯しかないからね。おかわりが欲しいなら自分で井戸から汲んできな。」
だん、と中に入っている水が零れそうなほど、大きな音を立てて乱暴にコップを置いた。テューサは音にびくっとしながらも、微かな冷たさを感じた。・・・水の?ううん、違う。この女から。中年の女は水を置くと出て行ってしまった。・・・これまた乱暴にドアを閉めて。
テューサはせっかくなので水を飲み干し、布団の中から出た。立ったときにくらくらと目眩がした。軽い貧血のようだ。弱った体に鞭を打ち、テュクに言われた通り、あの少年を捜しに出かけた。多分、彼はテューサをここまで運んでくれたのだろう。礼も言わねばならない。そして、ウィーシャであるか、問わねばならない。
テューサが寝ていた部屋は2階で、階段で1階へ下りた。ここは宿屋らしい。
「あら、出掛けるのかい。悪いけどお金を払ってちょうだい。あんたを連れてきた男は金を持ってなかったんだよ。」
先ほどの中年の女はこの宿の女将らしく、フロントの脇にある椅子に腰掛けていた。テュ
ーサは指定された金額を払い、女将に聞いてみた。
「・・・あの、彼はどこに行くとか、言ってませんでしたか?」
女将は無愛想に答えた。
「さあね。あたしゃ知らないよ。」
「じゃあ、ここはどこですか?」
テューサは地図を広げて返答を待った。女将はいかにも面倒くさそうに答えた。
「・・・ここだよ。シャシル国でサリナ国に一番近い街。」
指で示した。
「有難う。」
テューサは礼を言い、宿から出た。
宿から出た瞬間、テューサは寒気に襲われた。気温が寒いとかじゃない。恐い。恐怖。
しばらくの間、一般の市民には感じない悪寒を、宿屋の前に突っ立って感じていた。テュ
ーサの前を通りがかる人、一人一人に、テューサは寒気を感じた。(何?なんか・・・恐い。)
別に、何も変わった様子はない、普通の街。商店街では魚類を売る男たちが大声を張り上
げて売り捌いている。