第1部(6)
第1部 ―初めての出会いとその別れ―(6)
リビングのソファーで座って待っているとすぐにカントはやってきた。杖をついて、
笑顔だった。
「やあ、いらっしゃい。わしがカントだ」
立ち上がってカントを迎えたテューサは深々と頭を下げた。
「テューサといいます。あの、実は・・・」
テューサは名を名乗ってから、今までの出来事を話した。カントは頷いたり、驚きの表情
を見せるだけで、テューサが話している間は、一切口を挟まなかった。
「・・・というわけなんです。私はこの先どこへ、何を目安に旅を続ければよいのでしょうか」
「ふむ。わしにも、旅の行き先などは分からん。だが、わしの知っている限りでは、お主の他に、石を持つ者は4人いる。その4人は、いずれもお主と同じくらいの年頃じゃ。残念ながら、この村にはおらん。いれば、わしが知っているはずだからな。そして、世界の歴史博士たちの一番有益な理論だと、5人はそれぞれの国に1人ずついるらしい」
「え? でも、この世界に国は3つしかありませんよ?」
テューサは疑問に思ったことをすぐさま尋ねてみた。
「確かに、3つしかない。しかし、これまた博士たちの不確かな理論じゃが、あと2つ幻の国があるというのじゃ」
「幻の、国?」
「その通り。お主も聞いたことがあるじゃろう。『城の農民姫』というお伽話じゃ」
「え、ええ。聞いたことがあります」
「僕も知ってるー!」
娘の運んできた紅茶を飲みながらカントは話を続けた。
「その話に、ライソカスという国が出てくる」
「はい。そのライソカス国の王女が家出をして農民の子を偽る、というお話ですよね」
「そうじゃ。博士たちは、そのライソカス国がこの世界のどこかに存在するというのだ」
「そんな・・・」
「もう1つ、名前は・・・忘れてしまったが、幻の国と呼ばれている国がある。まあ、それらの国の話は、これから行く町々で情報を探るといい。・・・世界地図は持っているかね?」
テューサは頷き、持ってきた皮袋から筒状に丸めた世界地図を取り出して紐解いた。それ
をカントが机の上に広げる。
「お主の仲間には、ウィーシャという海を癒す者が居る」
カントは地図の上で指を滑らせながら、目的地に指を止め、場所を指した。
「・・・ここじゃ。ここ、シャシル国の国民はこよなく海を愛すという。海に一番近い街まで行けば、ウィーシャが居る確率も高い」
リュードたちの家へ帰ってきたテューサは、部屋に戻り、ベッドにうつ伏せになって借りた歴史書を読んでいた。1ページ1ページ、読み忘れが無いように大切に読んでいった。
本が物語っていることは、大体がカントから聞いたことと被っていた。しかし、唯一歴史書に書かれていないことがあった。―ライソカス国などの、幻の国のこと。
全部読んでみたが、カントから聞いた情報以外に、『平和』の石についての情報は載って
いなかった。
「とにかく、シャシル国へ行ってみましょうか」
テューサはベッドから下りて、村長に本を返しに行った。