第3話 望み
ヘルシャフト皇国所属 重巡洋艦アブキール
「投入されたCMのほとんどと、駆逐艦1、フリゲート1を失い。与えたのは損傷だけか」
「申し訳ありません。この責任は全て私に」
通信画面へと頭を垂れるジャック。
「責任の話など後だ。今は一刻も早くこの新型機をどうにかせねばならん」
ジャックの言葉を一蹴し、ヘルシャフト皇国皇帝のシュバルツはそう言った。
「直属を出せ。損傷を追わせた今ならば、圧倒的な戦力さえあればねじ伏せられるだろう?」
「はっ、ですが直属は本国の要。迂闊に動かすのは危険では?」
「問題ない。今はまだ統一連合にそれだけの戦力は存在しない」
確信に満ちた一言に、ジャックは言葉を失った。
シュバルツの読みはこれまで的確だった。確かに今の状況では統一連合側にもそこまでの余力はないはずだ。つまり、大きな戦力を動かせるのは戦局が膠着している今しかないのだ。
「増援は直ぐに送る。なんとしてでも連中を潰せ」
「畏まりました」
それで通信は終わりを迎えた。
統一連合宇宙軍所属 ネビリム
彼が目を覚ましたとき、そこは医務室のベッドの上だった。意識を失う瞬間のことを思い出して、クレインは自分が生きていることに驚きを覚えた。
「俺が生きてるって事はどうにかなったってことかな?」
側に現れた気配に向けてクレインはそう言ってみせる。
「ま、なんとかね」
「それはなによりだ」
「でも、問題が増えたわ。それも沢山」
ため息を零すアリサの目はまるで泣きはらしたように赤い。
「泣いた?」
わざとらしく尋ねてみせると、アリサはかっと目を見開いて手刀をクレインの腹へと落とした。
「すまんかった……」
呻きながら誤ると、今度は抱きつかれ慌てふためく。
「無事で、よかった」
「機体のおかげだ」
「当たり前よ、誰が造ったと思ってんの?」
離れたアリサは明るく笑っていた。
「それで、状況は?」
声が低く変わり、クレインはその話題を切り出した。
「機体はいま整備班が徹夜で修理中。リベリオン優先だけど、既にシュタールの作業も始まってる」
「シュタールの損傷具合はどうだったんだ?」
「コックピットを含む、胸部にやや深めの裂傷ってとこかな。運良く……というかあんたの悪運かはしらないけど、敵のプラズマソードが切った瞬間に消えてなかったら、あんたは今頃死んでたわ」
その言葉に、あの時の瞬間が、クレインの脳裏へと甦る。
「悪かったな機体壊して」
「気にすることないわ、戦場に出している以上こういうことは覚悟してたし」
でも、とアリサはにやりとしながらクレインへと詰め寄った。
「その責任で、家に帰ったら、罰として私にあそこのご飯を奢って貰うけどね♪」
ベッドから落ちそうになりながら、クレインが講義の声を上げる。
「ほら、動かない。あんたはそれでもまぁまぁ重症だったんだから」
アリサに押さえつけられ、クレインはそれに大人しく従った。
「敵の動きは……」
言いかけアリサに口を押さえられた。
「先のことは私たちで何とかするわ。あんたはまず身体を治しなさい」
告げてアリサは医務室を後にした。
「それで、次の作戦はどうする?」
シェパードの重い一言に、アリサは背筋を正して答える。
「次が最後でしょうね」
「だろうな」
既に彼等は多くの損害を出している。このまま引き下がってくれるはずがない。
「増援を呼んで、圧倒的な戦力差で潰しに来るでしょう」
ネビリムは孤立していた。最も近い統一連合の拠点まではまだ遠い。付近にあるのは民間に管理された中立のコロニーだけだ。ヴィーネもその一つだが、参入している企業の中に、たまたまアリサのVDT社があったに過ぎない。ロノウェーは統一連合のコロニーだが、偏狭地であるため戦略的観点から今まで見逃されていただけだ。敵の目も欺きやすいが逆を言えば、何かあったときに切り離される可能性もはらんでいる。
「今、シュタールの修理と平行して、リベリオンに武装の追加作業を行っています。これで少しはマシになるでしょう」
アリサの言葉に目を伏せるシェパード。
「ところで彼の容態は?」
「先ほど意識が回復しました」
「次の戦闘には?」
「無理でしょう。機体の方は何とかなりそうですが、人の身体はそう簡単に治りません」
状況は最悪に近かった。作戦を立てようにも、動かせる戦力はあまりに少ない。分散させれば各個撃破されるだろうし、集中しても圧殺される。おまけに暗礁宙域など地形的利点もこの辺りにはない。
暗澹たる思いに駆られながらも、彼等は一理の望みを探して考え続けていた。
「これが、リベリオンの追加武装か」
それを見たスウェンの反応は相変わらず薄い。だが、じっとそれを見つめる眼差しには強い何かが感じられる。
「そ、180mmの大型ビームランチャー。威力は保障するわ」
言ってアリサは書類を手渡した。
「マニュアルよ、一応読んでおいて」
「あの人は?」
スウェンの言うあの人が、クレインのことだと直ぐに分かった。
「問題ないわ。アイツは殺したって死にはしないから」
そっけなく答えるアリサ。それで納得したのか、スウェンはそれ以上なにも言わなかった。ほんの少しの間、沈黙が訪れる。
「次の戦闘はあんた一人。やれるの?」
「わからない」
アリサの問いにスウェンはそう答えた。
「ま、そりゃそうよね」
答えなど分かっていた。返ってきた答えはやはり予想通りだ。だけど、アリサは言って欲しかった。只一言、「大丈夫」だとか、「やれる」というような簡単な答えでもいい。肯定的な答えを期待して尋ねていた。
「でも、やらなければ死ぬんだろ?」
「そうね」
重い雰囲気が立ちこめ、互いに目線を反らす。
「お願い。私にはそうとしか言えないけど、頑張って」
静かに、アリサは願うようにスウェンにそう伝える。スウェンは静かに頷き、渡されたマニュアルに目を落としながら、機体の方へと歩いていった。
ヘルシャフト皇国所属 重巡洋艦アブキール
増援部隊の到着した第3艦隊の士気は高かった。ヘルシャフト皇国でも最強と名高い白狼隊が数回にわたり敗北を喫した相手。その相手を討ち取ればその功績は大きいものとなるだろう。それだけではない。これだけの戦力を用意して行われる戦いに、パイロットはもちろんのこと、艦のクルーや整備兵たちにも自然と湧き上がるものがあった。
「壮観ですね」
窓から覗く宇宙の景色。そこに並ぶ数々の艦船を見て、ノエルは純粋に色めいていた。
「そうだな」
対するレオンハルトの表情は暗い。それを見かねてノエルがこの場所へと誘ったのだが、彼はそんな気遣いにさえ気づいていない様子だ。「ほっといてくれ」だとか「一人にしてくれ」というようなオーラをこれでもかと発して訴えてはいるが、ノエルはそれを許そうとはしなかった。
「だめですよ」
「なにがだ?」
煩わしそうにレオンハルトが答える。
「隊長。あなたは自分が死んでも良いって、思っていますよね?」
「……」
「そんなのは絶対に駄目です。確かにここ数戦で私たちは多くの仲間を失いました。でも、それは隊長の所為とかじゃありません。立場上そうなるのは分かりますが、みんな戦場に居れば同じように死ぬ可能性があります。私たち兵士はそれを分かってここにいるんです。『誰かの所為で死んだ』なんてきっとみんな思わないはずです」
純粋な瞳が向けられる。レオンハルトにはそれが、痛いように思えた。
「生きて、生き続けてくださ。犠牲となった仲間の分まで。それが生き残ったものの責任だって私は思います」
ノエルは丁寧に頭を下げた。そして、
「隊長は死なせません。私が守ります。必ず……」
言い残して、その場を後にした。
一人残されたレオンハルトは、ぼんやりと宇宙の景色を眺めながら、ノエルの言葉を考えていた。
「これを自分に?」
「そうだ。本国……いや、皇帝陛下直々というほうが正しいな」
レオンハルトはジャックの執務室へと呼ばれていた。艦長であるジャックの部屋には自室のほかに、事務用と来客用を兼ねた、執務室がある。レオンハルトはその机の前に姿勢を正した状態で立っている。机の上には、一通の封筒と、ディスクが置かれており、封筒には皇帝陛下のサインが記されていた。
「直ちに機体を受領し、調整を行え。作戦開始時刻の変更は出来ない」
「……」
「さっさといかんか。お前の感情など作戦に持ち込むな。今は、命令に従え」
「了解」
レオンハルトは渋々といった様子で答えると、ジャックの部屋を後にした。
HCM-09P ベルフェゴール。皇帝直属の親衛隊『ラウンズ』にのみ搭乗が許可された最新鋭にして、ヘルシャフト皇国における最強の機体である。ナイトメアを洗練したようなデザインは、スマートな騎士を思わせる。
先ほど、ジャックに告げられた皇帝陛下からの、勅命。それは、レオンハルトへの『ラウンズ』権限のと、ベルフェゴールの授与というものだった。レオンハルトは白狼隊の隊長ということもあり、特例でその権限を与え、『ラウンズ』でありながらも白狼隊の隊長という立場も維持する。という、少々複雑なものであった。
「俺の機体……」
見上げる先にはベルフェゴールが悠然と佇んでいる。レオンハルト用に調整されているらしく、期待の色も彼のパーソナルカラーである白へと塗装され、肩には狼のマークが施されている。このような状況でなければ、きっと名誉に酔いしれていたか、静かに喜べたことだろう。だが、今のレオンハルトにはそのような気持ちが沸くことはなかった。
そのまま、レオンハルトは整備班に言われるままに、機体の調整を行うと、シミュレートも行わず自室へと戻っていった。
統一連合宇宙軍所属 ネビリム
「敵艦隊、捕捉。重巡洋艦4、駆逐艦6、空母1」
「リベリオン発進完了。防衛位置へ」
「敵機動部隊。本艦を包囲するように展開中。数64」
「全兵装FCS連動中」
ネビリムではこれから始まる戦いの準備が着々と進められていた。
「いい? あくまで敵は圧倒的な戦力差による圧殺を狙ってくる。包囲してこちらをじわじわと追い詰めてから本格的な攻勢に出る前に、一点突破を狙うしか、ネビリムに生きる術はないわ」
リベリオンのコックピットでスウェンはアリサからの説明を受けていた。
「あんたは兎に角後方から押し寄せる敵機を食い止めて頂戴。ネビリムは全火器を駆使して前進。この包囲からの脱出を試みるわ」
「了解」
スウェンは答え、レーダへと視線を移した。ネビリムから転送された敵の光点が多数表示されている画面を見ると、どうしても絶望的な気分になってしまう。敵の総数はおよそ60機。対するこちらは7機。そうなるのも、しょうがないというものだろう。
「こんなこと言うのもあれだけど、生きて……」
ふとかけられた言葉。どこか儚げな声に、スウェンは何かを感じたが、彼にはそれがなんなのかハッキリとは分からなかった。
「死ぬつもりなんてない」
「うん。頑張って、それじゃ」
ジャックの号令を皮切りに、ヘルシャフト皇国艦艇は一斉に砲火を放った。粒子ビームの光が漆黒の宇宙をまるで戦いの始まりを告げる花火のように彩り、無数の機影が動き出した。スラスターの光が揺らめき、星の川のように流れ込む。続けざまにミサイルが斉射され、その川を追い越して、リベリオン、ネビリムへと殺到した。
ネビリムの対空砲火が作動して、その雨を撃ち落し、虚空の闇を朱に彩った。多数の敵機が火線を放ち、一瞬にしてそこは地獄と化した。64対7。絶望的だが諦めるわけにもいかない。スウェンは殺到する火線の網を潜り抜けながら腰部に新しく装備されたランチャーを構えた。太い光の線が放たれ、散開した敵の足をもぎ取る。流石に敵もビーム兵器に馴れたのか、そうそう当たってはくれない。
被弾した機体を庇うように、他の機体が援護に入り、追撃を防ぐ。スウェンは敵機との距離を保ちながら、前進を続けるネビリムの背中を守ることに集中した。
やはり、敵は闇雲に突っ込んでは来ないようだ。長期戦に持ちこみ、徐々に包囲を縮め、殲滅するという作戦のようだ。たしかに、リベリオンとネビリムに総攻撃をかけたとして、仮に沈めても相応の対価……いや、へたをすればそれ以上の対価を払わなければならない可能性もある。既に敵は多数の犠牲を払っている。出来る限り、これ以上の損害は避けたいのだろう。戦況が拮抗しているだけに、戦力の消耗は、戦局に直に影響を与える。それだけに敵も慎重だ。
しかし、いつまでも守り続けていては数で劣るネビリムのほうは不利になる一方だ。いくらなんでも直衛機がフラジール6機では流石に不安すぎる。せめて、シュタールがいれば……とも思うが、いないのだからしょうがない。
いつ終わるとも知らない戦いのなか、スウェンは懸命に操縦桿を握り締め続けていた。
再び目が覚めたとき、艦は振動し、震えていた。確認するまでもなく戦闘中なのだろう。身を起こそうとして、左の腹部に激痛が走り、クレインは顔をゆがめた。最初に目を覚ましたときは感じなかったが、それは痛み止めの効果が残っていたのだろうと推測し、今度はゆっくりと身体を起こす。ぴりぴりと痛みが走るが動けないことはない。追加の痛み止めがないところを見ると、アリサが無茶を出来ないように、置かせなかったのだとなんとなく考える。たしかに、痛み止めが効いていれば、直ぐにでも外へ飛び出していたに違いないが、この程度では詰めが甘いとしか言いようがない。やるなら徹底的に、そう……筋弛緩剤くらい飲ませないと、クレインは諦めたりはしないのだ。
クレインは勝手に薬品の並ぶ棚を物色すると目当ての薬を見つけ、数錠ほど口へと放りこんだ。一応程度に覚えた薬品の知識がこのようなところで役に立つとは思っても見なかったが、とにかく今はこの艦を守らねばならない。クレインは腕に刺さった点滴の針を無理やり引き抜くと、急ぎ足で格納庫へと向かった。
パイロットスーツに着替えようと更衣室へと入ったところ、そこには思わぬ先客がいた。
「何やってんだ?」
声に驚いたのか方をびくっと震わせ振り返る。
「どうして……」
「それはこっちの台詞だ。何故お前がここにいるんだ、アリサ」
「それは……」
「しかも、その格好。なんでお前がパイロットスーツなんて着込んでる?」
強い口調だった。言い返す間も与えないような勢いでクレインはアリサへと詰め寄ると、耳元でこう言った。
「適正Cのお前じゃ役にも立たん、大人しく待ってろ」
「ふざ……この機体を作ったのは……」
「そうだな、だが、動かしてるのは俺たちだ」
言って、クレインはパイロットスーツに袖を通し、なれた手つきで手早く着替えを済ませ、機体へと向かっていく。
「待ってるから」
背中にかけられた言葉に反応もなく、クレインはその扉を閉じた。
「クレイン・ウィルローフ。シュタール発進する!」
カタパルトによって宇宙へと投げ出され、彼は思いっきり、ペダルを踏み込んだ。ずっしりと懸かるGの重み。クレインにはそれが、最後にかけられた言葉の重みのように思えてならなかった。
警報。同時に視界に割り込む敵機。躊躇も慈悲もなく、クレインはトリガーを引き、敵を撃ちぬいた。 作戦と状況はある程度ミラから聞いている。一部、出すぎた敵機もいるようではあるが、概ね距離を保ち包囲を維持しながら、機会を伺っているようだ。レーダーに目を走らせ、手薄なネビリムの前へと向かう。やはりフラジールには荷が重過ぎるようで、既に半数を割り込む2機しか残存していない。
舌打ちし、ライフルを連射しながら、クレインは戦闘へと割り込んだ。
友軍が突破された所為か、敵がやや前に出てきているようだ。突然現れた、シュタールに戸惑ったのか、距離を取ろうと動く。だが、その動きは迂闊すぎた。シュタールの放った光条が腕を吹き飛ばし、体制の崩れたところへもう1発が命中し、1機を屠る。クレインはすぐさま後退し、ネビリムの防衛に回る。その時、ネビリムに並走する形に位置している統一連合の駆逐艦が独断で加速を始めた。
「一体、なにやって……」
訝しげにその様子を視界の端で追いながら、クレインはネビリムから一定の距離を保ったまま、牽制射撃を続ける。
「限界だ! 我々はこの宙域より離脱させてもらう!」
その声は、駆逐艦艦長のものだった。この状況に耐えられなくなったのだろう。フラジール隊も残すところあと2機だ。自分が先に沈められるか、かといってネビリムが沈めば、単独でこの状況を突破出来るはずもない。敵の目標がネビリムである間に、自分だけ離脱するという発想も分からなくもないが、それはもう少し戦力差が少ないときならば可能だったかもしれない。
ネビリムとシュタールの援護を失った、駆逐艦は当然の如く、敵の猛攻に瞬く間に沈められる。
「ミラ! リベリオンも直衛に回せ!」
クレインが叫ぶように告げ、薄くなった対空砲火の隙間を突いてくる敵機へとライフルを放つ。同時に、ネビリムの対空ミサイルが放たれ、敵機は後退する。その代わりに、敵の対艦攻撃が放たれ、対空砲火を掻い潜った数発がネビリムを襲う。煙を吐きながらもネビリムは迎撃を続け、クレインもその防衛に奔走する。
「リベリオンはどうしている?」
「現在敵部隊と交戦中。苦戦しているようです」
クレインは直ぐに相手が白狼隊だと気づいた。恐らく対峙しているのは白い機体のパイロットだろう。厄介な相手なだけに、援護に向かいたい衝動にも駆られるが、そこはネビリムの防衛を優先し、クレインは一人、操縦桿を握りなおした。
「……ッ」
スウェンは奥歯をかみ締めながら、必死な機動で敵の攻勢を凌いでいた。ライフルと腰部のランチャーを放ち、後方から放たれる誘導弾を頭部のCIWSで撃墜する。目まぐるしく、動き回りながら、囲まれないように気を配る。極限の緊張で神経がどうにかなりそうだが、そんな暇さえ今はない。
正面から、白い機体が青白い刃を振りかざし、迫る。スウェンは空いていた左手で光刃を抜き放つと、その刃を受け止める。火花とスパークを散らしながら、2機は回転し、弾かれたように距離を取る。両機ともスラスターが唸りを上げ、再び切り結んでは距離を取った。
だが、スウェンに一瞬たりとも休む暇はない。
側面から別な敵機が、火線を放ち、先ほどまでリベリオンのいた場所を高速の弾丸が貫いていく。さらに警報。後方から散弾砲を持った敵機が迫り、銃口をリベリオンへと向ける。
銃口が瞬くと同時に、スウェンは機体をよじって、その射線をかわす。お返しにライフルを向け、発射。命中は期待してしていないが、距離を取ってくれればそれでいい。敵機は後方へと飛びのくように下がり、光弾を避けながら牽制の射撃を放つ。
「くっ……」
左から迫る青き刃。咄嗟に左手の光刃で弾くが、タイミングが悪すぎた。なんとか初撃こそ、防いだものの、その反動で機体の姿勢が崩れてしまっている。
「やられる」
そんな考えが脳裏を過ぎったとき、彼の身体は動いていた。
白い機体が2撃目を振り下ろす。その光景をはっきりと見ながらスウェンは、機体が弾かれた反動に逆らわず、足を蹴り出して後方宙返りを行った。瞬間的な機動であるため、姿勢制御は完全ではないものの、振り下ろされた刃は虚空を薙いでいる。
それは超人的は反射としか言い様のない動きだった。
「……!?」
まさかだと、レオンハルトは我が目を疑った。完全な闇討ちだった。反射的な動作で一撃目を防がれこそしたものの、それはある程度は予想出来ていた。そして、体勢を崩した瞬間を狙っての一撃が本命だった。たとえ見えても体が追いつかないと踏んでの一撃。運が良くても重大な損傷はさけられないような、そんな一撃。前回のように運良く、プラズマブレイドのエネルギーが切れるなどということはもうない。確実に目の前の敵機を葬る。その明確な殺意を持った一撃が、空を切っていた。その動き自体は雑で、あとの姿勢のことなど考えていないようなものだ。もし、次の一撃があればそれこそ終わり。そんな機動だ。
だが、レオンハルトは一瞬、気後れしていた。他の仲間も、半ば終わったと思っていただけに、対応が遅れている。その僅かな時間は相手に姿勢を整える時間となり、先ほどまでの優位性は既に失われてしまっている。
そして、レオンハルトの脳裏に過ぎる目の前のパイロットの驚くべき成長速度への恐怖。このままではいずれ自分さえ超えるのではないか? そんな予測が浮かび、彼は頭を振ってその考えを消し去る。
次、次の一撃で必ず。そんな思いを奮い起こし、レオンハルトは操縦桿を握りなおした。そんな時、レオンハルトはレーダーに映る異変に気がついた。
「隊長、これは……」
同じようにノエルも異変に気がついた様子で、怪訝そうな声をかけてくる。
敵艦の前方に展開していた部隊が次々に消えていく。共有しているレーダー情報では敵機はたったの2機のはずだ。しかし、その2機の動きが異常だ。
「隊長、こっちに!」
あらかた制圧を済ませたからだろうか、その異常な動きをする1機がこちらへと向かって来ていた。
「戦闘機だと?」
そのシルエットを一目見たとき、レオンハルトはそう思った。オレンジ色の外装を纏った大型の平べったいシルエット。その中央からは長い銃身が伸びている。
CMという兵器が発展した今、航空戦力の活躍の場はこと宇宙においては減少の一途をたどっている。そんな中、わざわざ戦闘機を投入する理由が思い当たらずレオンハルトは、疑念を抱いた。
「なんにせよ」
あれは敵であり、敵艦前方の友軍を殲滅したであろう機体であるのは間違いない。油断などしていて落とされでもしたら、それこそ言い訳もできない。思わぬ増援ではあったが、相手は1機なのだ。数的有利は変わらないといっても言い。包囲して殲滅。単純だがこの状況では理想ともいえる戦法で、レオンハルト以下の白狼隊は動き出す。
敵機の頭へとけん制の射撃を放ち、回避機動を制限しつつ、徐々に追い込んでいく。火線の網は徐々に縮められいままさに獲物は網にかかろうかとしていた。
「!?」
「さっすが、ヘルシャフト切ってのエース部隊。いい動きだねぇ」
放たれ続ける火線の網を掻い潜りながら、カールスは舌を巻いていた。とはいえ、その口調には微塵の焦りも緊張さえも含まれてはいない。まるですべてが分かっているかのように、彼は機体を漆黒の闇の中で躍らせる。
「限界だねぇ、思いのほか早い、早い」
操縦桿のスイッチを一定の順で押し、ディスプレイを叩く。
「撃ち貫く……ただ、それだけだ」
口調が静かなものへと変わり、彼の雰囲気が一変する。ぴん、と張り詰めたような冷たさと、無機な瞳が鋭さを増し、彼は口を引き締めた。
最後のキーを叩くと同時に、敵の火線が彼の機体を捕らえた。その瞬間、オレンジ色の外装が爆発したように吹き飛び、その中から1機のCMが躍り出た。ほとんど黒色に等しい深緑のそれは長い銃身が特徴的なライフルをすばやく構え、間髪入れずに発射する。ピンク色の閃光が筋となって、敵機の中央を貫き、闇の世界に炎の花を咲かせる。それだけでは終わらない。その動きに反応した1機の動きを見逃さず、彼はすぐさま第2射を放った。結果、二つ目の花が咲き敵はなおのこと動きが変わる。しかし、そんな敵の動きをすべて知ってでもいるかのように、彼は次々にライフルを放っては、敵機を撃破ないし、損傷を与えていく。
「隊長機はさすがの運動性だな、それ以外にも1機動きのいいのがいるが、それ以外は……」
まるで映画のワンシーンでも見ているかのような鮮やかな動きで、彼はその場に展開していた敵のほとんどを無力化していた。
「これで撤退するよな……」
圧倒的な彼の技量の前に白狼隊の隊長と思われる機体から撤退を知らせる信号弾が打ち上げられた。展開していた布陣をずたずたにされては一度後退して、態勢を整えるという選択肢は正しい。被撃墜数では敵のほうが大きいものの、戦力的にはまだまだ敵のほうが有利なのだ。ここで無理に被害を増やすようでは、指揮官としての能力を疑うところだったが、カールスの思惑通り、白狼隊の隊長は優秀だった。被弾した味方機をかばいつつ、緩やかにかつ速やかに後退していく敵機を見送りながら、カールスはざっと味方の状況を確認する。
「船のほうは損傷はあるが致命傷ではない、か。一緒だった駆逐艦は沈み、その艦載機も落ちている。リベリオン、シュタールは健在で損傷もほとんどない。特にシュタールのパイロットはなかなかの腕のようだし、案外何とかなるかもな」
リンクされた情報に目を通しながらカールスは簡単に今後の戦術を考えた。戦力差は確かに大きいが、お荷物(駆逐艦)がいなくなったことでネビリムは本来の高い速力を出せる上、自分たちも一隻を守るだけ負担は少ない。数的な不利は如何ともしがたいが、性能とパイロットの技量を加味すればまったく勝機がないわけではなさそうだ。
そんな予測を考えながら、カールスはネビリムへと針路を取りつつ、回線を開いた。
「はじめまして、という挨拶は少々、かたっくるしいかな。カールス・ブレイトン中佐だ」
「あっ、はい。CM管制を担当していますミラって言います。助けていただき感謝します中佐」
「階級は気にしないでいい。そういうのはどうも苦手でね、とりあえず着艦許可と、艦長への面会許可を頼む」
「了解です。VDT-02 トラークヴァイテの着艦を許可します。収容後、カールス、さんは艦長室へお願いします」
「了解」
告げて回線を閉じ、カールスはネビリムへと向かった。
第3話 完
だんだん、出来が悪くなっているような……とにかく先に進めるていこうかと思います。修正やら加筆はその後でゆっくりと……ね?引き続き感想お待ちしています!
引越しのためしばらく、更新が途絶えるかもです。




