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第2話 追うもの 追われるもの

PDF及び縦読み推奨です。


レオンハルト・トラクスタン

白狼ヴァイスヴォルフ隊を束ねる隊長。階級は少佐。卓越した操縦技術を持ち、部下からの信頼も厚い。ノエルのことを気にかけている。本作での敵側の主人公的なお人。


ノエル・スカーレット

白狼ヴァイスヴォルフ隊の副官的な存在。階級は中尉。過去にレオンハルトに戦場で命を救われたことをきっかけに白狼ヴァイスヴォルフ隊へと志願した。隊長であるレオンハルトには特別な想いを抱いている。本作での敵側のヒロイン的なお人。


シェパード・トラクスタン

ネビリムの艦長を務める。階級は大佐。一度、退役を決意したものアリサの強い呼びかけにより、艦長となることを承諾した。ネビリムでは数少ないベテランの筆頭核。

ヘルシャフト皇国所属 重巡洋艦アブキール


「つまりその新型に敗北したと?」

「遺憾ながら、その新型機は恐るべき性能を有しているようです」

 レオンハルトの報告を受け、第3機動艦隊司令官のジャック・シュナイダー大佐は直ちに本国へと報告した。

「追加戦力は追って送る。現存の戦力を全て使い、これを殲滅せよ」

「かしこまりました」

 通信が切れ、静寂が一瞬場を支配した。

「聞いていたな、レオンハルト」

「はい」

「ならば直ぐに部隊を再編しておけ」

 ジャックの命令にレオンハルトは戸惑いの色を滲ませた。

「全ての責任は私にある。お前は今出来ることをやれ」

 背中を向けたままジャックは強い口調で命じた。

「了解」

 覇気のない声で答え艦橋ブリッジを去っていくレオンハルト。

「私も覚悟を決めねばならんな」

 ジャックの呟きは艦橋ブリッジの喧騒の中に溶けて消えた。

 


 統一連合宇宙軍所属 ネビリム


「第2種戦闘配置を解除。ネビリム、慣性航行へ」

 コロニーロノウェーを無事に出航したネビリムは一路、コロニーヴィーネへと向かっていた。

「さて、ここからですな」

 ダリルが一息つきながら、シェパードへと歩み寄る。

「そうだな。敵もいよいよ本気になるだろう。次は特にな」

 今の平穏は嵐の前の静けさとでも言うべきだろうか。彼等の表情は固く、険しい。

「だが、希望はある」

 だが決して絶望したわけではない。このネビリムにはリベリオンとシュタールという強い力がある。

「戦争は若い者にばかり負担を強いる」

「だからこそ一刻も早く終わらせねばならん」

 その言葉は過去へと向けられたもののようであった。



 薄暗い部屋で一人机に向かい、一心不乱にキーボードを叩いているのは小さな背中だ。

「あんま、無理すんなよ」

 そんな、アリサの傍らにそっと差し入れの紅茶を置きながら、クレインは話しかけた。

「私は戦闘に出られないからね。こういうところで無理しないとさ」

 言ってアリサは紅茶に口をつける。熱かったのか、一瞬口をつけて、びくっと遠ざける。

「だいたい、そこまで急ぐものあったか?」

「あるわよ」

 息を吹きかけて、もう一度口をつける。

「リベリオンはまだ完全じゃない。少しでも性能を、というか火力を上げないとシュタールと大差ないわ」

 クレインはコーヒーカップを手にしたまま画面を覗き込んだ。

「腰部のランチャーか、確かにこいつなら火力は十分だな」

 画面に表示されていた目がちかちかしそうな数字の羅列に圧倒されるようにクレインは離れていく。

「それにACBRのバスターモードの調整もあるし、今日は徹夜かな」

「ま、倒れん程度にな~おまえの看病とか勘弁願いたいからな」

「あんたの世話になんかならないわよっ」

 空になったティーカップを投げつけられ、クレインは慌ててキャッチする。

「ナイスキャッチ。紅茶、おいしかった」

 素直な微笑みを向けるアリサに、気恥ずかしさを感じつつ。クレインはアリサの部屋を後にした。



 統一連合宇宙軍 月本部


「失礼します」

 告げて、男は扉を潜った。長身のすらりとしたスタイルがすべるように進み、机の前でぴたりと止まる。

「ようこそ、カールス中佐。どうだね宇宙は」

 にこやかな表情で口を開いたのは統一連合宇宙軍司令官のノーブル・アーロゲントだ。

「重要な任務だとお聞きしましたが」

「ああ。そうだね。とても重要だ」

 口調は楽しげであるが、その表情からは不気味な何かが感じられた。

「君にはこれからヴィーネへと向かってもらう。そこであの船に合流してくれ」

「例の新型艦ですか」

「そうだよ。君にはバーミリオンから新型が贈呈されるみたいだね」

「わかりました」

「それと、これを」

 言って、ノーブルは引き出しから一通の茶封筒を取り出した。

「コードR?」

 表紙には簡潔にそれだけが記されている。

「そう、ここからが本題なんだよ」

 カールスへと向けられた表情は壮絶な悪意に満ちていた。



 10月7日 0520 ヘルシャフト皇国所属 重巡洋艦アブキール


「まずは、状況から説明する」

 壇上に立つジャックの声がブリーフィングルームへと集まったパイロットたちへと向けられる。

「連合宇宙軍の新型機が確認されたことは知っての通りだ。そして、その新型機が恐るべき性能を有していることも既に伝わっているだろう」

 ジャックの後ろにあるモニターへやや荒い画像が、数枚映し出される。

「本国はこの事態を重く見ている。よって、失った戦力の補充を待たず作戦を決行することとなった」

 モニターの画面が切り替わり、現在の戦力が詳細に表示される。

「当初の予定通り、先ほどベリアル一個小隊を含む補給が行われ、我々は現在、24機の機体を保有している」

 画面のCMの部分が赤く強調され、拡大される。

「我々はこの戦力を以って、敵の新型機を鹵獲ないし破壊しなければならない。それには文字通り、諸君達の命を賭けてもらわねばならない」

 さらに画面が切り替わり、光を放つ敵機の画像が表示される。

「敵はビーム兵器の携行化に成功しており、射撃戦に置いて圧倒的なアドバンテージを持っている。また、それを収束、形状保持を行った近接戦闘用の剣を有しており、近接戦闘においても高い火力は健在であるため、迂闊な行動は即、死に直結すると考えろ」

 その場にいた誰もが、ジャックの言葉に圧倒されていた。

「これに対し、急場しのぎではあるが全機体に耐熱処理を施しているが、効果の程は実践して見なければわからない。くれぐれも被弾には注意せよ」

 また画面が切り替わり、作戦予想図が映し出された。

「様々な情報をもとに検討した結果。2機の新型を同時に撃破することは困難であると判断し、今作戦では確実に1機を撃破することを目的としている」

 画面が暗転。一拍置いて白い機体が映し出される。

「この機体は先日、レオンハルト少佐が交戦した機体だ。そして今作戦のターゲットでもある」

 ジャックは咳払いし、続ける。

「まず先鋒となる先駆けて第23偵察隊が先行し、敵機をおびき出す。そこへ、我々の全戦力を以って、敵機を分断。第23偵察隊と共に、一個小隊が灰色の新型機を引き付け、そのまま釘付けにする。

 その間、レオハルト少佐率いる本隊が、ターゲットであるこの機体へと集中攻撃し、一気に沈めるという流れだ。完了後は先鋒部隊と速やかに合流し、直ちに戦闘宙域を離脱せよ」

 ジャックの言葉を追いかけるように画面の作戦予想図が動いていく。

「この作戦は今後の戦局にも影響する重要な作戦となる。各員の一層の奮闘に期待する! 以上、解散!」

 全員が一斉に立ち上がり、敬礼する。

 ジャックの姿が完全にブリーフィングルームから消えるのを確認して、彼等は正した姿勢を解いた。


 司令官の去ったブリーフィングルームはまるで先生のいなくなった教室のようにざわめきたった。渡されたデータに目を走らせる者や、仲のいい同僚と話す者と様々だ。だが、どの兵士達も共通して敵の新型について眉唾物のように捉えている節があった。現実を知るレオンハルトはいたたまれずその場を立ち去ろうとした。

「隊長」

 かけられた声に、レオンハルトは振り向いた。立っていたのは金色のショートヘアの女性。

「ノエル、傷はもういいのか?」

「あんまし良くはないですけど、寝てばっかりもいられませんから」

 そう言って、笑うノエル。鮮やかな紅い瞳がまっすぐに向けられ、レオンハルトは目を伏せた。

「助けていただきありがとうございました」

 頭を下げるノエルを視界の端で捉えながら、レオンハルトは、

「気にするな」

 と、短く答える。

「やっぱり気にしてるんですね」

 そんなレオンハルトの心中を察してか、ノエルは一転して悲しそうな表情へと変わる。

「お前がそんな表情かおをする必要はない」

 一瞬、伸ばそうとした手を理性で押さえ込む。

「私が今ここに居られるのは隊長のおかげです。少なくとも隊長は私を救ってくれました。だから、あまり自分を責めないでください」

 温かい手がレオンハルトの手を包み込んだ。

「隊長は前だけを向いていてください。その背中は私が……いえ、私たちが守ります」

 まるで柔らかな光が差し込むように彼の心へと染み込んでいく。浮かび上がる失った仲間の顔。そのどれもが彼を責めてなどいないように思えた。それは、ただの甘えなのかもしれない。だが、荘思えた瞬間、まるで背中を押されたように、心が一歩を踏み出していた。

「勝ちましょう。絶対に」

「勝つさ。そうでなければ、あいつらに合わせる顔がない」

 きっぱりと踵を返して歩き出すレオンハルトの背中を3歩程遅れてノエルは追った。前を歩く背中に頼もしさを感じながら、同時に、危うさを感じ、密かな決意を固めていた。


 10月7日 ヘルシャフト皇国所属 重巡洋艦アブキール


 作戦開始は間近に迫っていた。事前の偵察によってあのコロニーに敵艦が既にいないことは確認されている。内部施設も放棄されていたとの報告も受けていた。

 ジャックは宙域図から彼等の針路を予想し網を張っていた。そして、その網に獲物は引っかかったのだ。

「全機、準備整っています」

 部下が報じ、ジャックは頷いて視線を上げた。

「いよいよだな」

 呟き、間髪いれずオペレータの声が上がる。

「敵艦と思しき反応を感知。数は1……いや2です!」

「2隻、間違いないか?」

 その問いに込められた意味を悟ってかオペレータは端末に目を走らせる。

「熱紋照合、1隻は連合宇宙軍の駆逐艦と思われます」

「全機に通達。作戦に変更はない」

 命じ、オペレータが「了解」の声をあげ、部隊へと伝達する。

「第23偵察隊より入電。『これより我々は作戦行動に入る』だそうです」

「返伝、『貴軍の健闘を祈る』だ」

「了解」

 ジャックは心中で「始まったか」と呟くと、時計へと目をやった。

 現在時刻は、0752――。作戦開始まであと8分だ。


「新型はどうです?」

 機体の調整を行っていたレオンハルトにノエルは声をかけていた。

「まだ分からん。新型といっても試作的なものなんだろう、これは」

「HCM-08 ナイトメア《knightmare》ですか。制式採用は見送られた機体だって、さっき整備士の方が言ってました」

「確かに基本スペックは高いが、癖がありそうだ。存外、お前のほうがこの機体には向いてるかもしれん」

「近接格闘戦闘用でしたっけ」

「らしいな。瞬発力と厚い装甲で切り込むらしい」

「でも重いんですよね?」

「確かに重量自体はベリアルよりも重いな」

「無理です」

 きっぱりとノエルが答える。

 HCM-08 ナイトメア《knightmare》は名前の示すとおり、外見は中世の騎士を思わせた。鋭角的な白い装甲と頭部の十字に刻まれた単眼が鎮座する様は、なかなかに迫力があった。だが、見た目に影響されてか性能のほうもかなり穿ったものになっているようで、量産配備されることはなかったのだが、実験的な試みも含めて、ちょうどこの白狼ヴァイスヴォルフ隊へと配備が決まっていたらしく、先の戦闘で機体が中破し、修復と補充が間に合わなかったレオンハルトに急遽あてがわれることになった。

 なお、機体の名前であるナイトメアは悪夢《nightmare》に騎士《knight》という意味を合わせた造語である。

「いよいよですね」

「そうだな」

 コックピットのキーボードを叩きながらレオンハルトが答える。その顔にはハッキリと覚悟が滲んでおり、彼の強い意思が感じられた。

『総員、戦闘配置。繰り返す、総員、戦闘配置。パイロットは搭乗し、待機せよ』

 艦内アナウンスが流れ、周りの空気が一気に引き締まる。

「勝ちましょう」

 先ほども言った言葉を繰り返し、ノエルは自分の機体へと足を向けた。

「ノエル」

「はい?」

 そんな背中にかけられた声。

「死ぬな」

「はい!」

 明るく答え、ノエルは走っていった。


「敵フリゲート接近! 数2」

「敵艦より熱源射出。CMです。その数6」

 慌てるようにオペレータが報じ、シェパードは首をかしげた。

「数が少ない。索敵を厳に、他に反応がないか徹底的に探せ」

「はい!」

 命じて、シェパードはクレインたちに発進を命じた。

「発進命令が出されました。よろしくお願いします」

 こわばった笑顔を見せるミラに、クレインは「余裕」と軽く返す。確かに彼は一度この状況を経験している。その場にはミラもいた。

「リベリオン、準備完了」

 静かな声が、インカムから聞こえ、ミラは作業を続けた。そうだ、今回はスウェンもいる。それに味方だって……。

「リベリオン、カタパルトデッキへ」

 スウェンの乗るリベリオンがカタパルトデッキへと運ばれ、追う様にクレインのシュタールも第2カタパルトデッキへと運ばれていく。

「リベリオン、スウェン・カールスレント。発進する」

「シュタール、出るぞ」

 2人が伝え、2機が漆黒の闇へと吐き出され、瞬く間に遠ざかっていく。

「どうか、無事で……」

 回線を切って発せられたその言葉を、祈りを聞いているものはいなかった――。


 迫り来るベリアルを撃ち抜いて、クレインは妙な違和感に囚われた。

「接近してこない?」

 戦闘開始からおよそ5分。敵は今なお距離を保つように戦闘を続けていた。

「目的は艦ではないのか」

 対艦攻撃を目的としているなら、是が非でもネビリムへと接近してくるはずだ。だが、この敵はまるでこちらを引き離すようにじっとしている。

「これは!」

 瞬間、その答えが理解できたような気がした。同時に、敵の策にはまったことに舌打ちする。

 放たれた弾丸を回避しつつ、クレインはライフルを撃ち返す。その射線を回避しながら、撃ち返して来る敵機に向けて、シュタールを加速させた。

 一方で、スウェンの駆るリベリオンへも激しい攻撃が行われていた。ライフルの下部に装着されたグレネードがリベリオンの付近で炸裂し、機体を、コックピットを揺らす。刹那、見たことのない白い機体が青白く光る剣を振り下ろしてくる。

「ッ――!」

 その一撃をとんぼ返りして避け、背中を見せた瞬間をライフルで狙う。だが、彼の僚機がそれを阻むように散弾砲で牽制し、照準が定まらない。スウェンは歯噛みしながら、機体を躍らせて次々に浴びせられる攻撃を慌しく避けながら、一瞬の隙をついては反撃を試みた。

 目まぐるしく移り変わるディスプレイ画面に、敵のベリアルが移りこむ。反射的にスウェンはライフルのトリガーを引き、閃光が放たれる。

 次の瞬間には、腹部を打ち抜かれ、助けを求めるように手を伸ばしながら炎に包まれる敵機が塵と消える。それをゆっくりと見送るまもなく、次の1機がリベリオンへと切りかかってくる。それを抜き放った左手の光刃でいなしながら、逆手のライフルを別な敵へと向けて撃ちかける。その光条をかわし、別な1機が牽制射撃をかけてくる。スウェンは完全に包囲されていた。次々に波状攻撃が浴びせられ、彼は目まぐるしく機体を機動させてどうにかそれを凌いでいる。

 一方のクレインはペダルを踏み込み、撃ち掛けられる弾雨を突き抜けながら、目の前の敵機に向けてライフルを連射する。

「ええい!」

 沸き起こる苛立ち、付かず離れず一定の距離を維持しながら敵は執拗な時間稼ぎを行っていた。

「狙いはあいつのほうかよ!」

 吐き捨てて、その苛立ちをぶつけるようにライフルのトリガーを引く。だが、回避を優先した敵機の機動に、むなしく虚を切り裂くばかりだ。

「ネビリム、そっちでリベリオンの救援はできないのかっ!」

 通信機に叫ぶが、返事は否定的なものだ。3隻の敵艦を押さえるのでネビリムも手一杯なのだ。


「トールハンマー、てーぇ!」

 ネビリムの舷側から大型の対艦ミサイルが発射され、敵艦へと向かっていく。対して、敵艦から放たれた光条が、ネビリムの頭上を霞め、迫り来るミサイルの尽くをCIWS《近接防御機関砲》が叩き落していく。

「主砲照準!」

 艦の2連装のビーム砲塔が旋回し、敵艦へと熱線を放った。

「砲撃来ます!」

「取り舵! トールハンマーを!」

 操舵手が舵を切り、ミサイルが吐き出される。ネビリムは3隻から放たれる攻撃を巧みにかわしながら戦線を支えていた。


戦闘開始から10分が経過していた。

「まだ落ちないのか?」

 ジャックは焦る内心を押さえこみ、冷静に戦局を見つめていた。

「ターゲットはいまだ健在です」

 手はず通りならば、もう撤退を行っているはずであった。無論、戦場で予定通りに行くほうが珍しいのは百も承知だが、それでもやはりもどかしさを感じてしまう。

「シェルブール被弾!」

 声に反応し、ジャックは反射的に左へと振り向いた。太い熱線が船体を貫き、吹き上げる炎と共に最後の足掻きか、ミサイルと主砲が放たれる。次の瞬間には吹き上げた炎が爆炎へと変わり、一瞬にしてそれは残骸と化していく。乗員が脱出できた様子はなく、数百名の命が一瞬にして消えたことを意味していた。

「第23偵察隊のフリゲートをこちらに回せ!」

 その現実に打ちひしがれる暇もなく、ジャックは次なる命令をすぐさま下していく。

 第23偵察隊に所属するフリゲートは灰色の機体を押さえ込むように命じていた。そして、旗艦アブキールを筆頭とした第3機動艦隊 第4分艦隊の3隻が新造艦を押さえ込むという作戦であった。だが、1隻が沈んだ今、その穴を埋めなければ、敵艦がターゲットである白い機体へと支援行動を行う隙が生まれる可能性があった。

「第23偵察隊、2機撃墜」

「第6分隊被弾」

 オペレーターの告げる情報はどれも友軍への被害を意味していた。これほどの状況に追い込まれても、敵は持ちこたえているのだ。その事実に驚嘆すると共に、恐ろしさもこみ上げてくる。ジャックはぎゅっと拳を握り締め、部下の勝利を信じ、次なる指示を出した。


「ボナパルト戦線へ入ります」

「ようやくか」

 張り詰めていたネビリムの艦橋ブリッジに入った知らせに、シェパードはため息を漏らした。

 コロニーヴィーネ所属の駆逐艦ボナパルトとその搭載機は当初、この戦闘への参加を拒んでいた。根見リムの艦長であるシェパードのほうが階級も上ではあるが、上級命令系統が別なのだ。彼等は彼等の上司の命令にしか従うことはない。シェパードが出せるのはあくまで要請であり、彼等は出来うる限りそれに答えるという自由意志があるのだ。

 しかし、戦況が芳しくないと踏んでか、彼等も覚悟を決めたらしい。ネビリムが討たれれば次は自分達なのだと判断してか彼等は動き出した。

「これより貴艦を支援する」

「感謝する。まずは友軍機の支援を」

 短い通信はそれで終わりを向かえ、ボナパルトに搭載されていた2機と、ボナパルトへと搭載できずネビリムへとやむなく搭載されていた4機のフラジールが発艦し、漆黒の世界へと飛び立っていく。まずはネビリムを抑える艦隊を狙うようだ。

 これは一種の賭けだった。

「これで状況が変わるといいが」

 シェパードの呟きは、一つの願いだった。開戦からこのフラジールと呼ばれる統一連合の主力機はベリアルに完膚なきまでに打ちのめされている。今こうして戦局を支えられるのは、研究によって編み出された戦術と、圧倒的な物量を使った消耗戦によるものだ。数の上での損害では連合のほうが、はるかに多い。

「リベリオン被弾!」

 ミラの悲鳴にも似た報告が艦橋ブリッジへと響いたのはその時だった――。


 リベリオンのコックピットで、スウェンは既視感に包まれていた。

 鳴り止まない警報アラート、目まぐるしく動き回る敵機とディスプレイに移る景色。それら全てが遠い場所での出来事でもあるかのように感じられる。身体は反射的に正しい行動を取ってはいるが、思考がそれに追いついていかない。

「ノエル!」

 聞こえるはずのない声が聞こえたような気がした。瞬間、ディスプレイの中心へと敵機が移りこみ、構えた獲物をこちらへと向けていた――。


「あのバカっ!」

 ディスプレイに走らせた視界の端に捉えた光景に、クレインは思わず叫んでいた。動きを見れば分かる。スウェンはこの10分を超える極度の精神的な緊張に耐えられなかったのだ。訓練を重ねてきているとはいえ、スウェンはついこの間、初陣を迎えたばかりなのだ。

「邪魔だっ!」

 払いのけるように光刃を振るい、スラスターを吹かした。幸いなことに、先ほど鬱陶しいフリゲートは離れている。それは好機だと思った。だが、クレインは目の前の出来事にとらわれすぎていた。いつもならばそんなミスはしなかったであろう。敵機の1機が死角へと回り込んでいたのだ。

 警報アラート

 振り返れば、戦術鉈を振り下ろす敵機が迫っていた。

「くそっ!」

 回避は間に合わない。迎撃も不可能だ。咄嗟に彼は左腕で頭を守っていた。それは単なる防御反応によるものだった。左腕の装甲に刃が食い込み、火花を散らす。接触の衝撃が機体を、コックピットを揺らし、機体の状況を示すディスプレイが赤く色づいた。

 クレインはその態勢のまま、右腕のライフルの銃口を敵機の腹へと押し付けた。そのままトリガーを引き、光がベリアルの腹部を撃ち貫いた。

 クレインは、振りほどくように、沈黙したベリアルを蹴り飛ばし、身を翻してリベリオンを目指した。

「不味い!」

 声をあげ操縦桿を握っていた手を思わず伸ばしていた。

 閃光。至近距離からリベリオンは撃たれた。ただ、その事実が視覚を通して、彼の脳へと送られる。

「モード変更、バスターモードを」

 言うが早いかクレインはディスプレイを叩き、ACBRのモードをバスターへと変えた。

 ライフルが中央から割れるように開き、伸びていた銃身が内部へと伸縮していく。だが、開いたライフルが閉じる様子はなく、まるで悪魔が口を開けたような状態となった。

「悪いなアリサ、今がそのときなんだ」

 狙いを定めながら、クレインは呟いた。

 ライフルの中央に膨大なエネルギーが内包されていく。チャージサイクルを限界まで落とし、ライフルが耐えられる限界まで溜め込んでいく。

 ディスプレイに映るチャージ率が100%になるのを待たず、彼は敵中へと切り込んだ。


 その瞬間、彼は勝利を確信した。

 友軍、ノエルの駆るベリアルは確実に敵機の胴体へと散弾砲を撃ち込んでいた。彼の知る限り、至近距離からの散弾砲を受けて無事で済むものはない。重装甲をもつベリアルでさえ深刻なダメージを追うことは必死だ。たとえ最新鋭機であろうとも、これならばと思っていた。

「敵の反応!? 上かっ!」

 彼は直感で危険を感じ、見上げた。

 煌く光刃、ノエルは咄嗟に散弾砲を盾代わりにして後退し、その刃から逃れていた。

 白い機体の前に立ちふさがるように灰色の機体が止まっている。レオンハルトは一人、歯噛みした。これはつまり、作戦が失敗したということだ。分断に失敗した今、このまま戦闘を継続することは得策ではない。それを察してか彼の周りには友軍機が集まり、立ちはだかる灰色の機体とにらみ合いを演じている。

「白い機体の損害は不明であるが、未だ我々が有利であることに変わりは無い、全機やれるな?」

 それは確認だった。もとよりこのまま引けるはずがない。今ここで撤退を命じたとしても従うものなどいないだろう。それほどに、皆、何かを失いすぎていた。

 その時、灰色の機体がライフルを構えた。光速の弾丸を警戒して、緊張が高まった。

「いや、違う……」

 レオンハルトは感じた。アレはヤバイ。戦闘中であるにも関わらず身体から熱が失われていくのが分かる。

「全機、離脱しろ!」

 彼が叫んだ瞬間、それは放たれた。


『MAXIMUM』

 ディスプレイにその文字が浮かび上がると同時に、クレインはトリガーを引いた。

 視界を覆う閃光が迸り、太陽が爆発でもしたかのように周囲一帯を照らし、虚空を貫いた。

 出来事は一瞬の事だった。だが、一瞬で全てが変わっていた。

 放たれた閃光によって、敵機の大半が消滅。あるいは被害を受けていたのだ。

「全く、とんでもないものを作ってくれたな……」

 驚愕し、息をつく。その瞬間、コックピットは暗闇へと包まれた。


 片腕のままレオンハルトは突撃した。

 HCM-08 ナイトメア《knightmare》には新しく開発された武装があった。

 GLC-210 ハクアハトと呼ばれるプラズマブレイドだ。ビームほど高出力でない分、携行条件も低くなっている。

 青白い光が発生し、刃を形成する。それは揺らめく青い炎のようにも見えた。先ほどの一撃を放った後、灰色の機体は動きをみせていなかった。レオンハルトにはそれが勝ち誇ったように思え、次の瞬間にはペダルを踏み込んでいた。

「貴様だけでもっ!」

 叫び、レオンハルトは青き刃を振り下ろす。ありったけの憎しみと怒りを込めて――。


 彼が目を開けたとき、真っ先に映ったのは灰色の機体だった。

「……!?」

 次の瞬間、シュタールは青い刃に引き裂かれた。

「くそっ!」

 毒づいて、スウェンは機体を駆動させた。手早く機体の状態をチェックし、改めて操縦桿を握り締める。胸部に損傷。だが、動かないわけではない。

 既にスウェンは状況を理解していた。先ほどの自分の状況も含めて、だ。

 スウェンは機体を起動させ、スラスターを吹かした。

 突然、動き出したのは思わぬ奇襲の効果を生んだ。ほんの一瞬だが敵の反応が遅れ、無防備な側面を晒していた。内蔵された剣柄を握り、刃を展開させながら振りぬいた。しかし、その刃は、割り込んできたもう一機によって妨げられた。灼熱の刃がその左脚部を切り落とす。

 脚部を切り落とされながらも、その敵は腰にあったハンドグレネードを投擲し、もう1機を掴むと、リベリオンから距離を取った。

 そのまま離脱を図る敵機を後から来たフラジールの部隊が追っていく。スウェンはとても追う気分にはなれなかった。機体の頭部を向けてシュタールを映し出す。胸部、コックピットの位置する場所に黒く焼け焦げたような損傷が見て取れる。今すぐこじ開けてパイロットであるクレインを救出することも出来るが、それ以上はスウェンには出来ない。スウェンはシュタールへと自機を近づけ、掴み緩やかな加速でネビリムへと向かった。


 戦闘は終わりを迎えていた。

 ボナパルトとその艦載機の働きによって、敵は後退を余儀なくされていた。

 シュタールの放った一撃によって敵の機動部隊の大半は撃墜ないし戦闘能力を失っている。このまま戦闘を継続することは不可能だった。

「リベリオン、シュタール帰投します」

「医療班は至急格納庫へ」

 素早く、着艦作業が行われ、損傷を受けたシュタールへと整備班と医療班が駆け寄っていく。

 艦橋ブリッジでは最悪の結果を覚悟してか、勝利したというのに歓喜の雰囲気など欠片もない。それでも、生き残れたという安堵感からか、ほっと胸を撫で下ろしているクルーは多い。

 この戦いでネビリムは時間的な猶予を得た。少なくとも敵が戦力を回復するまでは安息の時が訪れる。

「ボナパルトへ打電。援護に感謝する。それと、直ちにヴィーネへ向かう。と」

 シェパードが命じて、宙域図へと視線を移した。ヴィーネへの旅はようやく半分を過ぎたといったところだ。敵の補給状況にもよるだろうが、彼等がもう一度仕掛けてくる可能性もなくはない。哨戒している敵と会う可能性は、航路によってどうにかリスクを減らすことは出来るはずだ。

「艦長、よろしいですか?」

 眉間に皺を寄せていたシェパードに話しかけてきたのは深刻な顔をしたアリサだった――。


 


第2話更新終了です。

 読んで下さっているかた、ホントに感謝です!

 書いたばっかで、手がいたいよ。(笑)それはそうと読みにくかったりしたら遠慮なく言ってください。出来る限り対策を考えます。


 段々、自分でも混乱してきました。SFって管理大変だなぁっと思う今日この頃です。一応、いまさら設定資料なるものを作成し始めました。そんでもって3話ですが……ほんとどうしようかねぇwwww


 いまのところ白紙の白紙です。まっさらです。でも次回予告はやります。いま考えます。


 予告――

 戦闘を終えたネビリムと傷ついた戦士。目指すヴィーネはまだ遠い。勝利と敗北。白狼ヴァイスヴォルフ隊の動向は――。

 ティアーズレイン(Tears rain)第3話 望み

 これからも更新がんばります! 

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