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テコ入れ

作者: 可零 蹴

 いつもの日曜、俺は陶芸教室に居た。


 手を土だらけにし、自分の中にあるものを形にする。集中力が増し始めた頃、携帯電話が鳴った。渋々立ち上がり、憎き着信相手の名前を確かめる。


 大久保〇〇


 中学時代からの友人だ。俺がこの時間帯は、手が離せないのを知っているはずなのだが……緊急なのか。

 少々焦りを覚えたが、中学から親交があるとはいえ泥だらけの手で携帯を握る気にもならず、しっかり手を洗い携帯の通話ボタンを押した。

「もしもし」

 受話器からは思った通りの聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あー俺や俺」

「俺じゃわからん」

 いつもと様子が違うな、いつもなら「今大丈夫か」など確認してくるのだが、

「おー久しぶりやな、加藤か」

 誰だよそれは、という自分に突っ込みを入れながら会話を続けた。

「おー加藤や加藤」

 オレオレ詐欺の真似事か、乗ってやるか。

「どないしたんや、急用か」

「実はな、妊婦さんハネてもうてん、だからどうしても金が・・・」

 大久保がすべて言い終わる前に、俺はこの茶番を終わらすために大久保の言葉を遮った。

「とどめさして、逃げてこい」

 大久保は一瞬言葉を失った。こんな人間味もない鬼畜そのもの言葉が返ってくるとは思っていなかったのだろう。我に帰った大久保は言いたい事をまとめるのが必死なのか、あたふたしながら辛うじて日本語を紡ぎだした。

「それは、あのそれは、どうかな、人間としてやさー、人間としてどうかな」

 それを聞いた俺は満足した。俺がこの時間、陶芸に勤しんでいる事を知りながら電話をかけ、もしかして後世に残る名作ができるやも知れない貴重の時間を潰し、つまらぬ茶番で俺の集中力を切らした罪はこのくらいで埋まるものではないが、今回はこれくらいで許しといてやるとするか。

「でなんかようか大久保、作業に戻りたいなけどな」

 少々息が荒いがショックから立ち直ったのか、いつものトーンで話始めた。

「ちょっと脱輪してもうて、手貸して欲しいねん。近くやし頼むわ」

「だから止めやして、逃げてこいって」

「なんでやねん、何に止めさすねや!テコ入れるだけでタイヤでるから、頼むわ」

「タイヤにテコ入れる前に、お前の人生テコ入れした方がええぞ」

「どうゆう意味やコラ!」



 脱輪場所は車で五分程の工事現場だった。

 さてお代は、焼き肉でもごちそうになろうかな。


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