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初めての春④

「笑った! 今、絶対笑ってた!」


「え?」


「全然表情が変わんないんだもん!ちょっと怖かったけど、ふふ、あなた笑った顔すっごく可愛い!」


 表情、表情なんて何も気にしてなかった。笑っていたと言うけどいつ?困惑する私を置いてクレアは矢継ぎ早に言葉を紡ぎ続ける。


「確か、カミラだったよね。ミリーって呼んでもいい? 私のことはシシーって呼んで! みんなよくそうやって私を呼ぶの!」


 あまりにも先程と違う態度に言葉、果てには表情も満面の笑みだ。シシーというのは彼女の愛称だろうか。ミリーは私のことを指しているのか。


愛称は親しいもの同士で呼び会うもの、私は彼女のことをあまり知らないのに。


「ね! いいでしょ!」


「わ、わかった」


 彼女の圧に負けて頷いてしまった。クレアは満足気に頬を紅潮させている。心臓がいつもより早く拍動している。それに戸惑って誤魔化すように言った。


「……とにかく、授業。早く終わらせないと」


「え」


 それから一ヶ月程で授業は終わりに近づいていた。季節は春の訪れを感じとり、温かな陽光が射している。クレアは泣き言を言いながらも逃げ出すことはせずに課題をこなした。


未だにクレアの言動には慣れないままで、愛称のシシーと呼べたこともない。けれど、彼女の言う友達とやらに近しい関係は築けているのではと目の前のクレアを見て思う。


 今いるのは屋敷の中庭。ここは一応見れる程度には整えられているものの、中庭で散歩を楽しむものはいないのでいつも閑散としていた。


ここで遊んでいても誰も近寄っては来ないだろう。特に目立ったものもなければ面白いこともない中庭は、誰にも邪魔されないいい場所だ。


「できた! はいミリーにこれあげるね!」


 渡してきたのはたんぽぽの花冠。なかなかに上手な出来だった。


「ありがとう……、なかなか上手くできないな」


「もっとちゃんと結ぶんだよ! そうしたら上手くできる!」


 クレアが授業の合間に提案してくる遊びは私の知らないものばかりだった。この花冠もそう。遊びといえば本を読むかチェスなどのボードゲームばかりだと思っていたから、体を使った遊びは新鮮だ。


「私の町ではね、たんぽぽだけじゃなくて向日葵とか薔薇とか色んな花が咲いてるの。いつかミリーにも見せてあげる!」


「うん、楽しみ。いつか一緒に行こう」


「ふふ、うん。私はねー、向日葵が一番好きなの! 太陽みたいで綺麗だから!」


 楽しそうに笑うクレアを見ていると胸の奥がポカポカしてくる感覚をよく覚える。

クレアの話を聞いていたかったが、もう日が暮れてきていることに気づいた。

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