冬の探し物③
視界全体に映り込んできた食堂内部には、用意された十一席の椅子。
食堂と言うからにはもっと席があってもいいはずだが、なぜ十一席の椅子しかないのか。答えは明確だ。
まず、最初に食堂に入って正面に見える椅子は言わずもがな、当主である父上——コーディ・クレリデイラ——の席。
その左右に五つずつある椅子が本館の子供たちの椅子だ。そう、クレリデイラの名を名乗ることを許されるのは優秀な上位十名のみなのだ。
コーディ・クレリデイラには正式な妻が三人、そして愛人というよりは捕虜と呼ぶべき女性が十二人いる。
彼女達以外にも、姿を消した者は数知れず。そんな彼女たちの子供は皆殆どが腹違いの兄妹で、その総人数は四十七人。
その中から選ばれた十名のみが本館に住み、クレリデイラの名を与えられ、人としてこの邸で生きていくことを許されている。
衛兵によって開け放たれた食堂の扉の外から、中の様子が見えている。まだ全員は揃っていないらしい、席に幾つか空席が見られた。誰が揃っているのかと既に席に着いている者を見る。
まず目に入ってきたのは昼に悪ふざけで殺気を当ててきた双子。
姉、カリーナは第四位。妹、セレーナは第三位。
どこであっても自由気ままで傲慢な彼女たちは、出された食事に手をつけていない代わりに己のメイドに持ってこさせた甘味を手にし、ワイングラスに注がれたホワイトワインを嗜んでいた。そういえば彼女達は二十二歳で四年前に成人したのだったか。
その様子に眉を顰めているのは、双子の姉のカリーナの横に腰を下ろしている第六位のクレオ。
法律的に酒は飲めるはずだが、得意では無いのだろう。二人の持つワインの匂いに苛立って無意識に揺らしている足はヒールの音を響かせている。
「ああ、綺麗な髪に可憐な容姿だ。素敵お方、どうか僕に君と一夜を過ごす権利をくれないかい?」
声のする方を見れば男も女も関係なく、屋敷の使用人を誰彼構わず口説いている十男のシエランがいた。
堅苦しい服が気に入らないのか、服を着崩している。見ての通り遊び人と公言している服装だ。そんな巫山戯た男に見えるが、その実力は確かなもので、今まで一度も別館行きになったことはない。
手前の椅子に目を向ければ其処には誰も座っていない。四つの空席だけが残っている。だが、第八位と第九位の椅子に着くべき人物達はすぐに見つかった。
「ああもう! いい加減にしろって!」
「それはそっちだろ。勝負は俺の勝ちなんだから、潔く負けを認めろよ」
第九位の十七男、カラム。第八位の十六男、クランレス。いつ見かけても喧嘩をしているから、何処にいるかは声を辿れば直ぐに見つかるのだ。
今も、並んで廊下を歩いてきているくせにカラムの喧嘩腰は変わらず、クランレスの煽りの言葉も留まる様子はない。私よりも来るのが遅かったのは、喧嘩の内容を聞くに、先程まで剣の訓練をしていたからだろう。
「カミラ、あの二人が気になるのはわかるけど、そこに立ってないでこちらにいらっしゃいな」
「……はい、クリスティーナ姉さん」
カミラが食堂の前で立っていたのが気になったらしい。長女のクリスティーナが優しく声をかけてきた。それを聞いて、カミラはカラムとクランレスの方を向いて止めていた足を再び食堂へと向けた。
カミラが向かったのは兄、シエランの隣。つまり第七位が座るべき場所だ。
数分後。カラムとクランレスの喧嘩が止まらなかったり、クレオを揶揄う双子をクリスティーナが止めたりと時間はかかったものの、なんとかその場にいた全員が席に着いた。
埋まっていない席は当主の席と第一位の席。そして末席である第十位の席だ。
「誰か、コーリーがどこにいるか知らないかしら? またどこかで眠ってしまっているのかもしれないわ、春や夏なら良いでしょうけど、今は冬だもの。風邪をひいてしまうわ」
いつまで経っても現れない末っ子に痺れを切らしたクリスティーナが兄妹に声をかけた。
「さあ? 僕は知らないや」
「ふん、どうでもいいだろ」
「俺も知らない、訓練場にいたから」
シエランに、カラム、クランレスが答える。
「あらら、でもあたしたちには関係ないもの」
「うふふ、気にしてなかったから知らないの」
彼女たちは興味がないようだ。今も目線は目の前の甘味に向いている。
「自分のことは自分でできるようになるべきだろう、あの子も十位の座に就いているのだから」
「……知らない」
この場にいる兄妹の誰もが末っ子の居場所に興味がなく、ここにいなくても構わないといった様子に長女のクリスティーナは眉を下げた。仕方なく、いつまで経っても来ないコーリーを探しに行かせようと、使用人を呼びつけた時食堂の扉が開かれた。
床に着く程の長いローブを翻しながら現れたのは二人の男。
その姿を目にした使用人たちはが姿勢を正し、まるで自分の命を狙う猛獣の前に放り出されたかのように震えている。空気を張り詰めたのは使用人たちだけではなかった。
「お帰りなさいませ、お父様。我々一同、お父様のご帰還を心待ちにしておりました」
「御託はいい。晩餐会を始めるぞ、年に一度お前たちの入れ替わりを審議する重要な晩餐会なのだからな」
ふっ、と薄ら笑みを浮かべ、なんの迷いもなく最も豪奢な椅子に腰掛ける男はコーディ・クレリデイラ。この伯爵家の主人にして、この国の実質的な支配者だ。
「カーティス、お前もさっさと席に着け」
「はい、父さん」
そう答えるもう一人の男に皆が目を鋭くする。特にクリスティーナ姉さんはそれが顕著だ。もはや隠す気もない。
カーティス、クレリデイラの兄弟で最も優秀な次男、第一位。第二位のクリスティーナ姉さんにとっては、自分よりもあとから生まれた弟が自分の上に立っているのが腹立たしいのだろう、温厚な人格を演じていても本質は隠せない。
異様な雰囲気をものともせずに椅子に座るカーティスを見てから父上は口を開いた。
「さあ、晩餐会を始めるぞ。お前たちの一年間の成果を見せてみろ」
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