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あなたが不幸であればいい

もしあと3年してもこのままお互いに独り身だったら、きっと二人で結婚しましょうね。


最終電車もとうに走り出してしまった深夜の新宿、喫煙可能であることを大きな声で宣伝しているやけに明るい居酒屋の店内で、騒がしく飛び交う酔っぱらいの声にまぎれて、そんなことを言われた。


お互い30歳になっても独身だったら結婚しよう、なんて言っては大抵そのどちらかが幸せになって、そういえばそんな約束をしたことがあったか、なんてことを約束の日を数年過ぎてから思い出すのがこの世のことわりだけど、まさか30歳を過ぎてからこの手の約束を持ちかけられるとは思っていなかった。


この年になってしまうと、こんなファンタジーめいた口約束も、ほとんど呪いのようなものである。


だって、3年後に条件が揃えば結婚してくれるなら、今この瞬間だって私のことを結婚しても良い異性だと思ってくれていないとおかしいじゃないか、なんて、ハタチそこらでは思いもしなかったような言いがかりが心のなかに浮かんでしまう。


ふと、5年ほど前に突然かかってきた電話を思い出した。

「今付き合っている人が居て、このまま行けばきっと何も問題なく結婚することになると思うけど、引き止めてくれるなら今すぐにワタシと結婚しよう。今すぐに結婚ができないなら、ワタシたちはこのまま一生、一番の友だちのままでいよう。」

平日の22時頃、会社の飲み会で少し酔っ払った私の頭では情報処理が追いつかず、結婚するんだね、と一言返して無言のまま時間が過ぎていった。

「やっぱりこうなると思っていたけど、ワタシが勝手に少し怖くなってこんな事言っちゃった。あなたのせいみたいにしてごめんね、でも今、決心がついたよ。」

そう言って、私の覚悟と瞬発力があったら人生の伴侶になっていたかもしれないその友人は電話を切り、おやすみ、と一言メッセージを寄越した。

お幸せにと心から思ったが、私にはそれを文字にして送りつける勇気もなく、ただおやすみと一言送り返した。そのメッセージには数年の間、既読はつかなかった。

私が30歳になった頃、その友人から久々に連絡が来て、二人で乾杯する機会があった。聞くと、結婚生活に不満はないけれど人生の経験として離婚してみたって構わない、と、これまた独自の世界観で生きているようだった。


もしもあの時、だったら今すぐ私と結婚しようと言ったとして、数年後に離婚してみても良い対象になっていたかもと考えたら、なんとなく自分が無言だったことを褒めてあげたくなった。

相手が私だったら、そんなことすら思わせないくらいの生活を送れていたかも、とも思ったが、これは見なかったことにして心の隅っこに蹴り飛ばした。


3年後の結婚約束を持ちかけてきた友人の話に戻るが、きっと1年もしないうちに誰か理想的な人と出会って、実は結婚しようと思ってるんです、なんて急に話し出すんだろう。

その時には今すぐワタシを引き止めてなんてチャンスは訪れないだろうことも、なんとなくわかっていて、私は十分大人になったんだなと感じる。


こんなことを思う時点で、私はこの呪いのようなプロポーズを本気にして婚姻届にサインしてしまいたいんだろうけど、それをする覚悟も瞬発力も、大人になった今でもまだ持ち合わせていない。


私にできることは、君に幸せが訪れるその日まで、あなたがなるべく幸せになりませんようにと呪うくらいしかなくて、ふつふつと沸き立つ感情に蓋をしては笑顔であなたの幸せを祈るようなふりをし続けている。


もしもこの呪いが成就してしまったら、二人で不幸になりましょう、と、改めてプロポーズしてやりたいのだ。


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