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小学校にマンションが建った日

想像力というのは残念ながら一度に多方向には向けることが難しいようで、何かをたてれば何かがたたない、なんてことはどんな世界でもよくあることだ。


小学生の時、横書きのノートを手にした友人が、それを初めて訪れたデパートのフロアガイドに見立てたことから、私たちの理想のデパートづくりなるものが始まった。


婦人服やブランドショップなんてものは小学生の興味の範疇には全く顔を覗かせず、そこに書かれていたのは可愛らしいことに「ピザ屋さん」とか「ゲームセンター」とか、あまり行く機会がないけれどなるべく行きたくて、でも行くとしてもまだ親としか行けないくらいのちょっとした非日常ばかりだった。


誰かが、じゃあ僕はこの階に住もうかな、なんて言い出したものだから、最初は6階建てくらいだったデパートはどんどん上にも下にも増築されていき、定規も使わないから拙く太い線が方々に伸びることとなった。


デパートづくりというものをわたしのクラスに産み落とした友人は一躍人気者となり、休み時間があればその友人の周りにクラスメートが集まって、入居希望を口々に伝えていた。

高層階か低層階かという概念は小学生には特になかったが、仲の良い男子同士が上下に入居した際、下の階の男子が現実では増築不可能なくらいに横にそのフロアを引き伸ばして、俺のほうが広いから良いもん、なんて強がっていた。


しかしノートの広さにも限界があり、もちろんクラス全員の入居希望は叶わず、デパート(というかもはやマンション)はあっと言う間に満室となってしまった。

そこで生まれたのは、そこに住めた者、住めなかった者の格差である。

そのデパートのフロアガイドに名を連ねるクラスメートたちは入居者だけでコミュニティを形成し、デパートづくりが終わった後は入居者のみで椅子を丸く並べてフルーツバスケットをしたり、トランプを持ち出して大富豪を始めた。

クラスの半分ほどがそうしてコミュニティを作ってしまい、元々あった仲良しクループなんかも一時的に分断され、入居できなかったものは鬼ごっこをやるにもかくれんぼをするにも微妙に人数が足りなくなり、教室の真ん中でワイワイと騒ぐ声を聞きながら少々の疎外感にうんざりしていた。


すると入居できなかったうちのひとりが、それなら私が新しくマンションを建てる、と言い出し、もはやデパートでもなくなったそれは、先着順でそのクラス内での居場所を確約されるという不吉で残酷な儀式に変わっていった。

2軒目のマンションが出来上がると、そこら中にマンションオーナーが生まれ、私のクラスには5棟ほどのマンションが建設された。

交友関係の広いクラスメートはその全てに入居するセレブとなったし、その逆にそこにも属さずに一人静かに暮らすことを好む者もいた。

私はたしか4棟目くらいが出来上がった時、これ以上行くと「仲間外れ」になってしまうのでは無いかと、怖がって小さな部屋を与えてもらった。

だけど私が住んでいることに誰が気づいているわけでもなく、オーナーはなんとなく私の存在を知っているくらいのものだったし、そのマンションでは入居者限定のパーティーなんか開催されなかった。


1棟目のマンションを建てた友人は当初満足気にこの一大ムーブメントを眺め、「僕が作り出したんだ」としたり顔であったが、ふとその輪に入りきれていないクラスメートの居心地の悪そうな顔をみて、うろたえたような仕草をしたのを私は見逃さなかった。

あなたがこの格差が生まれてしまう可能性にまで想像力を働かせられなかったのは、きっと誰のせいでもないよ、とその時私は言えなかった。


デパートづくりは結局一週間足らずでみんな飽きてしまい、休み時間の使い道は結局鬼ごっこやかくれんぼに戻っていった。ほんの少しだけ参加者の顔ぶれが変わったが、私は鬼ごっこには参加できた。


ただなんとなく、あの時一番盛り上がっていたフルーツバスケットの輪に入れなかった余韻を抱えながら、今も生きている感じがしている。

あのクラスの中で、それを全く意に介していなかったのは何人いたか。

私もそのくらい、良くも悪くも自分以外に興味を持たず、楽に生きられたらどれだけいいかと何度も思う。


私は今、4階建てのアパートの4階に住んでいる。

他に誰が住んでいるかなんてお互いに知り合うことなく、また大富豪も行われない、理想とはかけ離れた生活のための箱の中で、なんとか生き延びている。

あの時記念すべき1棟目のデパートに入居できたクラスメートは、どこでどんな暮らしをしているだろう。


彼らの顔も名前も思い出せないことが、私にとって唯一の救いである。

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