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雨と追憶

朝、目が覚めて雨が降っていると非常に体調がよろしくない。

気温のせいか、気圧のせいか、はたまたどんよりとした空模様でセロトニンの生成が遅れてしまうのか知らないが、やけにとろんとした時間が流れる。

普段聞いている音楽もほんの少しテンポが下がったように聞こえ、この絶妙な違和感と倦怠感を取り払おうと窓を開けると水たまりを踏みつける車のタイヤが拍手のような音を奏でている。

同時に冷たい風とともに、雨の匂いが鼻腔に届く。


この感覚が好きだ。


二十歳になって始めて酒を飲んだとき、段々と周りの声がアンバランスに共鳴していく中で、居酒屋で流れていた昔のヒットソングだけがやけにうるさかったときのような感覚。

まるで自分が見ている世界がすべて一眼レフで撮影した、主役以外が美しくぼやけて、今自分が見るべきもの、感じるべきものがくっきりと映し出されているような感覚。


学生の時分、この人生において初めて愛した異性に別れを告げられ、どうか行かないでくれと泣き晴らした赤い目で近所を歩いた時も、雨が降っていた。

やけに濃く感じる雨の匂いと湿度が自分を包んで、前に歩こうとしてもぬかるみを歩いているようだった。

こんな状態ではいつか誰かに不審者だと通報されてしまいそうだったので、近くの酒屋で一番安い発泡酒を買い、晴れの日であれば数組の家族が砂場遊びをしている公園の東屋でプルタブを引いた。

プシュッという音はそれまでの陰鬱とした雨音を一度まとめ上げるようで、そこからは更に音量を上げたかのようにたくさんの音を奏でていた。

東屋の屋根に溜まっては落ちる大きな水流は、小さな雨音の支柱となる低音を担い、たまに落ちてくる雨漏りは誰かが捨てていったアルミ缶を叩いてシンバルのように鳴っていた。

その時、私の目には雨に打たれるブランコがやけにくっきりと映っていて、少しだけ揺れるそれは心を落ち着かせた。

ただ同時に、今この瞬間私は人生の主役じゃない、と思わされた。

その日の雨の匂いは、泥の匂いも強く混ざっていた。


今思い返せば、こんなふうにあの瞬間を描写できるのは、あの時自分が確実に悲劇の主人公を気取っていたからで、それでもそんな自分をなんとか好きでいたということの証明のように思う。

そしてあの時、自分を自分で愛することの重要さに気づいたのだ。


そんなわけで雨の音は今の自分を愛する際に必ず流したいBGMであって、雨の音が聞こえると少しだけ自分を愛せる気がする。


雨はゆっくりとアスファルトを伝い、夏の砂埃や、せっかく色づいた秋の紅葉を洗い流して、どこかへ消えていく。


やがて冬になり、私の地元では雪が降る。







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