後日談 旅立ちと 口づけ
シドニーへ旅立つ前夜。
村瀬は仕事の帰り、美咲の町屋へ寄った。
庭から吹く春の風が、
敷居の木の香りと混ざり合っている。
「明日、行くんですね。」
美咲がそう言うと、
村瀬は少しだけ笑った。
「ええ。……行きます。
でも戻る場所があると、強くなれます。」
沈黙。
風の音だけが、二人の間を通り抜けた。
村瀬はそっと、美咲の指先に触れた。
「高梨さん。」
「……はい。」
「あなたのことを思わなかった日はありません。
これからも、ずっと。」
美咲の胸があたたかく、ゆっくり満たされていく。
(この人の言葉は……まっすぐで、嘘がない。)
村瀬は美咲の髪にかかる一本の桜の花びらを
そっと指で取った。
そして——
かすかに迷うように、けれど確信を帯びた目で言った。
「……触れてもいいですか。」
美咲は小さく頷いた。
次の瞬間。
村瀬の手がやさしく美咲の頬に添えられ、
距離がゆっくりと縮まった。
ほんの一瞬、呼吸が交わり——
唇が触れた。
強すぎず、
短すぎず、
確かな温度を残すキスだった。
離れたあと、
村瀬は照れくさそうに目を伏せた。
「……戻ってきたら、
続き、お願いしてもいいですか。」
美咲はふわりと笑った。
「はい。
その時まで、ちゃんと待ってます。」
庭で揺れる風鈴が、
ちりん……と静かに鳴った。
その音は、
二人の未来を祝福するように響いていた。
京都、おひとり様日和を読んで頂きありがとうございました。
最後に少しだけ2人の甘いキスで締めくくります。
沢山の方に読んで頂きありがとうございます。
また新しい物語でお会いしましょう。




