第18章 揺れる噂と、崩れ落ちる虚勢
週明けの月曜日。
美咲が会社に出社すると、
なぜかフロアがざわついていた。
(……何?朝から騒がしい。)
視線を感じる。
ヒソヒソ声が聞こえる。
「高梨さん、なんか……」
「噂、ほんとかな……?」
美咲は戸惑いながらデスクに向かった。
そこへ、同期の亜子が飛んできた。
「美咲!!やばいって!!聞いた!?」
「な、なにが?」
亜子が声を潜める。
「千春って人が、
“美咲が孝太さんを奪おうとしてる” って
会社に電話してきたらしいの!!」
美咲「はぁ!?」
胸が一気に熱くなる。
(……やっぱり千春さん、何かしてくると思った。)
亜子は眉をひそめた。
「しかも、
“妊娠して不安なのに、美咲が邪魔する” とか
わけわかんないこと言ってたって。」
美咲は深く息を吸い込み、
胸の中の恐怖よりも、怒りが勝っていくのを感じた。
(……このまま黙っていたらダメだ。)
そこへ。
「高梨さん。」
落ち着いた声で村瀬がやってきた。
「少し、会議室へ。」
美咲は立ち上がる。
(……村瀬さん、気づいてる。)
⸻
村瀬と向かい合うと、
美咲の感情が堰を切ったように溢れた。
「すみません……全部、私のせいで……」
村瀬はゆっくり首を振った。
「違います。
悪いのはあなたではない。」
「でも……」
村瀬の声は低く、強かった。
「あなたは、“人のために”背負いすぎる。
それがあなたの優しさで……同時に弱さでもある。」
美咲は息を飲んだ。
「僕が守ります。
今回のことは、会社としても正しく対処します。」
その言葉が胸に深く沈んだ。
(……ずるい……そんな風に言われたら……)
村瀬は続ける。
「まずは、あなたの“言い分”を聞かせてください。」
美咲は千春との対峙、
“あなたが全部悪い”と言われたこと、
妊娠の話、
そして孝太からの不可解な連絡。
すべて話し終えると——
村瀬は静かに立ち上がった。
「高梨さん。」
「……はい。」
「これは“巻き込まれた被害”です。
あなたが謝る立場ではありません。」
美咲の目に、涙が溢れそうになる。
(あ……私……
ずっと誰かに、
“そう言ってほしかった”んだ。)
⸻
会議室を出ると、
ロビーで社員対応をしていた総務の女性が話しかけた。
「高梨さん、さっきの女性……
かなり取り乱してて……“また来る”と言ってました。」
美咲は眉を寄せる。
(来る……?会社に……?)
だが、そのとき。
後ろから兄の声が飛んだ。
「美咲!!」
えっ——会社に!?
兄が勢いよく走り込んできた。
「お前、大丈夫か!!」
美咲「兄さん!?どうしてここに——」
「千春って女、
お前の会社に“今日行く”ってSNSで呟いてたぞ!!」
美咲「!!」
村瀬「……情報源は?」
兄「俺の“鼻”だ。
嗅いだら分かるんだよ、
“ヤバい女が動く前の匂い”ってやつがな!!」
美咲「鼻って……」
兄「とにかく!
来られたら困るし、俺が張っとく!!」
村瀬「高梨さんは私が守ります。
高梨さんは仕事を。」
兄と村瀬が並ぶ。
美咲(……なんか、すごく心強い。)
そして——。
美咲は決意した。
(もう……
千春さんの言いなりにはならない。)
(逃げない。)
自分を守るため、
大切な人たちを巻き込まないためにも——
はっきりと言うべき言葉がある。
美咲は静かに呟いた。
「今度は、私が終わらせる番だ。」
その目は、迷っていない。




