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最後の激闘王 〜ロートル総合格闘家、ひと花を咲かす〜  作者: サウナが好きな人
第二章 時代の申し子

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8/11

ビッグマウスの努力家①

 五島エリック麗矢の名が呼ばれると、会場の空気は一段階、いや二段階は温度を上げた。

 

 まるで彼自身がスポットライトのスイッチを握っているかのように、視線も歓声も自然と一点に収束していく。全国高校ボクシング選手権六冠――それだけでも異常な肩書きだが、彼はそこで止まらなかった。

 パンクラス・ネオブラッドトーナメント優勝、RIZIN甲子園優勝。アマチュアとプロの境界線を軽々と踏み越え、次世代の象徴として語られる存在になっていた。


 長身で均整の取れた体躯、褐色がかった肌に通った鼻梁。

 アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフで、そのルックスは格闘技雑誌の編集者たちにとって喉から手が出るほど魅力的だった。

 実際、彼はすでに何度も表紙を飾っている。無造作に組んだ腕、鋭くカメラを射抜く青みがかった瞳。挑発と自信が同居するその表情は、『華のあるファイター』という言葉を体現していた。


 だが、彼の魅力は見た目だけではない。リングに上がった瞬間、五島エリック麗矢は別の生き物になる。

 高校時代に叩き上げたボクシングの正確無比なジャブ、間合いを支配するフットワーク、そこに総合格闘家として磨き上げたテイクダウンディフェンスと打撃の融合。

 相手が何をしたいのかを先に読み、その芽を摘むように試合を組み立てる冷酷さがあった。観客は彼の勝利を期待しながら、同時に恐れてもいた。


 あまりにも一方的な試合になることを。



 試合後のマイクが彼に向けられると、期待は別の意味で裏切られない。


「正直、相手が弱すぎた。次はもっとマシなやつを連れてこいよ」


 そんな言葉を、彼は悪びれることなく吐き捨てる。ビッグマウス。傲慢。横暴。批判の言葉はいくらでも並ぶが、本人は気にも留めない。むしろ炎上すればするほど、自分の価値が上がると信じている節すらあった。


 控室やジムでは、彼の周りにはいつも数人の取り巻きがいる。学生時代からの仲間、スポンサー関係者、あるいは彼の強さと名声に引き寄せられただけの人間たち。

 誰かが彼の機嫌を損ねないように先回りして水を用意し、誰かがSNSの反応を逐一報告する。

 五島はそれを当然のように受け取り、時には気まぐれに指示を出す。


「そのインタビュー、俺が主役だってちゃんと書かせろよ」


 彼の言葉に逆らう者はいない。逆らう理由も、勇気もなかった。


 しかし、孤独がないわけではない。夜、トレーニングを終えたあと、誰もいないジムでサンドバッグを打つ背中は、どこか張り詰めていた。

 誰よりも称賛され、誰よりも叩かれる。その中心に立ち続けるには、止まることは許されない。

 六冠も、二つの大きなトーナメント制覇も、彼にとっては過去でしかない。


「まだだ」

 誰に聞かせるでもなく呟く声は低く、硬い。


 五島エリック麗矢は、自分が特別であることを疑わない。世界は自分を中心に回るべきだと、本気で思っている。

 その傲慢さが彼を嫌わせ、同時にスターにしていた。栄光と反感を同時に背負いながら、彼は今日も前に進む。次の舞台、次の獲物を求めて。

 その姿を、人々は目を離せずに見つめ続けるしかなかった。


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