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最後の激闘王 〜ロートル総合格闘家、ひと花を咲かす〜  作者: サウナが好きな人
第二章 時代の申し子

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ビッグマウスの努力家④

 その知らせは、五島エリック麗矢にとって待ち続けた合図だった。


 「決まったぞ。RIZIN、年末大会だ」


 マネージャーの低い声が、ジムの一角で告げられた瞬間、周囲の空気が一斉に変わる。年末。RIZIN。たとえ前座カードであろうと、その二つの言葉が持つ重みは別格だった。テレビ、観客、世間――すべてが集まる舞台。


 五島は一瞬だけ目を伏せ、それから口角をわずかに上げた。


「やっとか。遅すぎるくらいだな」


 取り巻きたちがざわめく。

「マジっすか」「年末RIZINって……」

 誰かが興奮を隠しきれずに声を上げる。


 対戦相手の名前が続けて告げられた。

「ウィレム・アレン。オランダ系。詳しい戦績はまだ少ないが、向こうじゃ“危ない素材”って言われてる」


 五島はその名を頭の中で反芻した。

 聞いたことがない。

 日本の格闘技界では、ほぼ無名。


「未知数ってやつか」

 彼は肩をすくめる。

「まあ、年末の客にはちょうどいいだろ。派手に倒して、俺の名前を覚えさせる」


 余裕。

 少なくとも、取り巻きの目にはそう映った。


「相手、かなりフィジカル強いらしいっすよ」

「海外のジムで揉まれてきたタイプだとか」


「で?」

 五島はプロテインシェイカーを軽く振り、飲み干す。

「俺が負ける理由になるか?」


 その一言で、会話は終わった。取り巻きたちは笑い、同意し、彼の自信を疑わない。疑うこと自体が許されない空気が、自然と形成されていた。


 だが、五島の内側では、別の鼓動が鳴っていた。


 RIZIN。

 年末。

 大舞台。


 リングに上がる自分の姿が、はっきりと浮かぶ。照明、歓声、カメラ。胸が高鳴ると同時に、胃の奥がわずかに締め付けられる感覚。


 未知の相手。

 情報の少なさは、不安の余白を生む。


 ウィレム・アレン――

 海外で戦ってきたという事実だけが、逆に不気味だった。日本の評価軸では測れない。型にはまらない可能性。何をしてくるか分からない怖さ。


 それでも、五島は表に出さない。


「前座? 問題ねえよ」

 彼は笑いながら言った。

「どうせ一試合で空気変える。メイン食うくらいのインパクト残せばいい」


 取り巻きの一人が、少し持ち上げるように言う。

「勝てば、一気に次が見えますよね。来年――」


「勝つ前提で話せ」

 五島は即座に遮った。

「俺は“可能性”でやってねえ。“結果”で来た」


 言葉は強く、鋭い。

 それは自分自身に向けた宣言でもあった。


 ジムの鏡に映る自分の姿を見る。

 鍛え上げられた体。

 自信に満ちた目。


 ――負けるわけがない。

 ――負けてはいけない。


 その二つの思考が、静かに重なり合う。


 夜、帰り際に一人になると、胸の奥の緊張が少しだけ顔を出す。年末大会という言葉が、過去の挫折の記憶を微かに揺らす。それでも、五島は立ち止まらない。


「未知だろうが何だろうが……踏み台だ」


 そう呟き、歩き出す。

 余裕の仮面を被ったまま、五島エリック麗矢は、念願の舞台へと向かっていった。


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