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ポイ活母さんの涙と笑顔

作者: Tom Eny

ポイ活母さんの涙と笑顔


佐藤恵、32歳。夫と5歳の息子、健太と3人暮らし。夫の給料だけでは少し心許なく、恵は今日もスマホを片手にポイ活に励んでいた。


最初はゲーム感覚で楽しかった。コツコツ貯まるポイント、たまに当たる懸賞品。ささやかながらも家計を助けることができ、充実感もあった。しかし、次第にその熱はエスカレートしていく。少しでも多くのポイントを、少しでも高価な懸賞品を求め、恵は時間と労力を惜しまなくなった。


夫は、なぜ恵がそこまでするのか理解できなかった。「そこまでしなくても、俺の給料でなんとかなるさ」と軽く言ったが、恵は耳を貸さなかった。夫にしてみれば、妻の表情から笑顔が消え、スマホばかり見ている姿は、自分の稼ぎが悪いからではないかと、ひそかに心を痛めていた。健太も、母親に「ママ、絵本読んで」とせがんでも、「後でね」とスマホから目を離さない姿に、寂しさを感じていた。


恵の生活はすべて**「けちけち」と「お得」**で成り立っていた。閉店間際のスーパーで値引き品を狙い、風呂の残り湯は洗濯に使い、電気代を浮かすために日中は暖房をつけず厚着で過ごす。


ある日、いつものように自転車でスーパーからの帰り道、ガタン、と嫌な音と共にタイヤがぺちゃんこになった。修理代は、数日かけて節約した数百円を遥かに上回った。


さらに数ヶ月後、限界が来た。連日の無理な節約生活で、恵はついに体調を崩して高熱を出してしまう。食欲もなくなり、ますます栄養が偏る悪循環。病院で告げられたのは、栄養失調気味だということだった。医療費は、これまで必死に貯めてきたポイントをあっという間に吹き飛ばした。


そんな折、長年使っていた古い冷蔵庫が、ついに悲鳴を上げて動かなくなった。安物買いのツケが回ってきたのだ。痛い出費に、恵は「もう、どうしてこうなるの…」と強く打ちひしがれた。


ポイ活に時間を費やすあまり、健太との絵本を読む時間も減り、夫との会話も事務連絡のようなものばかりになっていた。


寝込んだ恵の傍らで、夫は心配そうに寄り添い、慣れない手つきで看病してくれた。健太も、ママの頭を小さな手で撫でてくれる。「ママ、大丈夫?」その優しい声が、恵の乾いた心にじんわりと染み渡る。


病床で、恵は初めて気づいた。自分が必死に追いかけていたポイントやわずかな節約よりも、ずっと大切なものがそばにあったのだと。夫の温かい眼差し、健太の小さな手の感触。お金では決して買えない、かけがえのない宝物。


体調が回復した後、恵は無理なポイ活をやめた。夫も恵の気持ちを理解し、家計管理に積極的に協力するようになった。食卓には、栄養バランスを考えた手料理が並び、家族団らんの時間が増えた。


ある週末、家族みんなで買い出しに出かけた。手をつなぎ、笑い合いながら歩く道は、かつて恵が一人自転車で急いでいた道とは全く違って見えた。


「ママ、僕ね、ママとこうしてるのが一番楽しい」


健太の無邪気な言葉に、恵は目頭が熱くなる。かつてのポイント狂だった恵の姿は、もうそこにはない。無理のない節約と、家族との温かい時間。ささやかだけれど、かけがえのない幸せが、今の恵の傍らにはあった。あの時、体を壊したからこそ気づけた、本当に大切なもの。ポイ活で得たわずかなポイントよりも、家族の笑顔が、何よりも価値のある宝物だと、恵は心から思ったのだ。

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