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第十七章:少女と嗅覚の残響

 ノクターン・シティが沈黙を取り戻して七日が過ぎた。


 地下の旧下水道——かつて調香師たちの秘密研究所が広がっていたその空間は、今や無人の実験場となっていた。だがその闇の中、ただひとり、少女が動いていた。


 彼女の名は柚月ゆづき。香に支配された家庭で育ち、両親の崩壊を《解放ノ香》の発動とともに目撃した元被験者。左腕を失い、嗅覚強化センサーを内蔵したマスクを常時装着している。


 「感情……匂わないわ」


 柚月は《レテ》の残骸を拾い上げ、試験管に封じられた微香の液体を指先に垂らす。たった一滴で、彼女の中に“誰かの記憶”が溢れ出した。


 ——澪? 違う……これは、玲央?


 彼女は知っていた。記憶は香りと結びついている。そしてそれは、再び都市を支配し得る強力な鍵でもあった。


 同時刻。朝永清志は、地下道の封鎖区域で異常な香気反応が観測されているとの報告を受けていた。


 「再起動……誰かが、香りを再び使おうとしている」


 澪は不機嫌そうに眉をひそめた。「私たちが止めたはずよ。今さら誰が……」


 だがその答えはすでに、柚月の嗅覚中枢に流れ込んでいた。玲央の残した《第零番》——原初の香。誰の記憶にも属さない、“始まり”の香り。


 柚月は静かに立ち上がる。


 「嗅覚だけが真実を語るなら、私がこの都市の“真実”を暴く」


 彼女の周囲に拡がる香りは、誰にも感知されない。だが確かに、都市は再び“匂い始めていた”。

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