表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

プロローグ

 ——その脚は、美しすぎた。


 香屋匠真は、皮革の義足に指を這わせながら、ゆっくりと鼻を近づけた。

 人工的なポリマーの奥に、ほんの僅かに皮膚から滲み出た汗と膿の混ざる香りがあった。香料で隠そうとした痕跡がある。けれど、それすらも彼にとっては“前戯”だった。


 「……この脚、どこで外した?」

 彼が囁くように聞くと、女は無言で自分のスカートの裾をまくり上げた。

 そこには、すでに存在しない大腿部が、静かに眠っていた。


 「左脚は、私が望んで失ったもの。右は、あなたの匂いにあげてもいい」


 女の言葉に、匠真の脳内に熱が走る。


 ——脆い身体。

 ——欠けた肉体。

 ——“不完全”の中にある、完全なエロティシズム。


 彼が最後に心から愛した女も、義手をつけていた。だがその愛は、事故で砕けた。

 それ以来、匠真は香りと肉体の「残欠」にしか、欲望を見いだせなくなっていた。


 今、目の前にいる女——白鳥冴子は、“その理想の終着点”だった。


 だが、彼は知らない。

 この女がもたらすものが、ただの快楽ではなく、十年前の未解決失踪事件、さらには連続猟奇死体遺棄事件の“発端”であることを——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ