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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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ストロベリーの果実水

 デビュタントが行われているホールから近い場所に用意された休憩室。本来は賓客が利用するもの。


 レースがとれそう、装飾品が外れた、ビリッと破けた。


 繊細な作りのドレスはトラブルが起きやすい。そんなトラブル時、落ち着いて対処できるように。はたまた踊り疲れて、静かに横になりたい時。大勢と一緒ではなく、ゆったり寛げるためにも用意されたのが、賓客向けの休憩室だった。


「どうぞ、お座りください。メイドに飲み物を頼みますが、何か希望はありますか?」

「あ、ではストロベリーの果実……あ、いえ、こ、紅茶で結構ですわ!」


 ソファに座りながら、わたくしは一瞬、自分が公爵令嬢に戻った気分になっていた。


 美しいドレスを着て、煌びやかな宝飾品を身に着け、賓客向けの豪華な調度品が置かれた休憩室にいるのだ。しかも腰掛けたソファの座り心地は、かつて暮らしていた公爵邸の応接室のソファを思い出すもの。そして新緑のこの季節、わたくしは毎年ストロベリーの果実水を楽しんでいた。


(果実水は大変高価なもの。沢山のフルーツを使う、貴族の飲み物よ。そんな飲み物を図々しくも飲みたいと言うなんて! わたくしったら、立場をわきまえずに、何をしているのかしら!)


 慌てるわたくしを見て、スコット筆頭補佐官はくすくすと笑っている。


「テレンス嬢、遠慮しなくてもいいですよ。今日、あなたはデビュタントに参加することを、国王陛下に認められたのです。そして賓客が利用する休憩室に案内されたのですよ。ストロベリーの果実水。頼みましょう」

「スコット筆頭補佐官……」


 彼は慣れた様子でベルを鳴らし、やってきたメイドにストロベリーの果実水を二つ頼んだ。


「テレンス嬢は元公爵令嬢だったのに。その名残りが全然ないですね。実に謙虚です」

「それは……ですが修道院で半年も暮らすと、公爵令嬢だったことはすっかり忘れますわ」

「……それでも端々に見える気品は健在ですよね。ダンスもブランクを感じさせませんでした。それにそのドレスがピッタリなぐらいになり、良かったです」


 これには「あっ……」と思うのと同時に。

 もしかしたら、と考える。


 スコット筆頭補佐官はレグルス王太子殿下の右腕として、ありとあらゆることに精通している。情報通であり、知り合いも多い。


(ドレスが似合う体型に戻れたのは、パトロンのおかげよ。本人は匿名にしているけれど、やはりわたくしとしては御礼を伝えたいし、なぜサポートいただけるのか。その理由は気になりますわ。できれば今のわたくしでできる恩返しがあれば、やりたいと思うのよ。その一歩は、パトロンが誰であるか知ること)


 そしてスコット筆頭補佐官であれば、パトロンが誰であるか。分かるかもしれない――そう思ってしまったのだ。


「スコット筆頭補佐官。わたくしがドレスに相応しい体型に戻れたのには理由があるのです」

「! そうなのですね……」


 なぜかスコット筆頭補佐官は、ソファに座りながらも落ち着かない様子になる。


「実は」


 まさに切り出そうとしたタイミングで扉がノックされ、メイドがストロベリーの果実水を運んでくれた。


 そうなると一旦、この果実水について話し、まずは一口いただくことになる。


(甘い香り、そして口の中に広がる甘酸っぱさ。氷室の氷も入っており、ダンスで火照った体にぴったりの冷たさだわ……)


 公爵邸のテラス、ガゼボ、自分の部屋で、ストロベリーの果実水を飲んでいた日が脳裏に浮かぶ。


(こんな未来が待っているなど知らず、あの頃のわたくしは本当に世間知らずなお嬢様だったわね)


 何だか郷愁にも似た想いが胸にグッと迫るが、それを呑み込み、スコット筆頭補佐官に「先程の続きですが」と切り出す。するとスコット筆頭補佐官は不思議と観念したような顔つきになる。


「……というわけで、わたくし宛てで食べ物が屋根裏部屋に届くようになったのです。匿名なので本人が名乗りたくないというのはよく分かりますわ。ですがやはり気になるのです。最初はコルネ伯爵かと思いましたが、毎日顔を合わせていますし、さすがにこんな遠回しなことはしないでしょう。そうなるとどなたなのか、まったく見当がつきません。スコット筆頭補佐官は、そういう善意ができそうな方で、わたくしを知る方、ご存知ないですか……?」


 わたくしの言葉を聞いたスコット筆頭補佐官は、とても困り切った顔で尋ねる。


「もしや毎夜届く食べ物は、ご迷惑でしたか?」

「迷惑? まさか! どれもこれも大変美味しく、同室のルベール嬢もモンクレルテ嬢も大喜びでしたわ。わたくしもそのおかげでこの通りですから」

「そうでしたか。それは良かったです」


 スコット筆頭補佐官は心底安堵の表情となり、それを見たわたくしは「えっ……」と思いながら、口を開くことになる。


「もしかしてわたくしに毎夜素敵な食べ物を届けるようにしてくれたパトロン、それは……スコット筆頭補佐官なのですか?」


お読みいただき、ありがとうございます!

あの時の布石の答えが今、明らかに――!

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