そうだ、あれにしよう!
レグルス王太子殿下から「平民でも粉末の薬が飲みやすくなる方法はないでしょうか」と言われ、さらに心の声でも《苦い粉末の薬は苦手だが、そもそもわたしは粉末の薬を飲むのが得意ではない。できればコルネ嬢が思いついてくれるといいのだが……》と懇願されてしまった私は。
宮廷医ボルチモア、厨房の料理人、そしてパティシエの協力を仰ぎ、粉末の薬をスムーズに服用する方法を考えることになった。今回、いろいろな人を巻き込むことにしたのは他でもない。もしこれぞという方法を考案したら、レグルス王太子殿下は喜び、国王陛下に本気で褒章を出すよう進言する気がしたからだ。
そこで表に立ち目立つのは、私以外がいい!
なぜなら。
私は第二王女殿下付きの侍女で、本来目立つ様な立場の人間ではない。もしそんな褒章を受けたら……妬まれる!
もちろん、基本的に使用人のみんなも、知り合いの貴族令嬢もいい人たちだ。それでも百人が百人、いい人ばかりではない。輝いている人を見ると、妬み、足を引っ張ろうと嫌がらせをするような人は、どうしてもいる。
そんな面倒ごとに巻き込まれたくないので、注目が分散されるよう、みんなでやろうと思った……というのもあるのですが。そもそもチョコレートを使い、試行錯誤している時から、集まって来た料理人や協力してくれたパティシエは、レグルス王太子殿下の良さを分かっている人たちだった。よって彼が望むことがあれば、「力になりたい!」と思うだろうし、またも厨房で何かやっていれば、それが仕事終わりの深夜だろうと、集まってくると思ったのだ。
現に今も。
一日の仕事が終わり、入浴をしたり、寛いだりする時間なのに。こうやってみんな、文句を言わずに厨房に集まってくれていたのだ。そして宮廷医ボルチモアはまず「コルネ嬢、すみません。殿下に『これは君が考えたのですか? この服用方法は表彰に値すると思います』と言われしまい、どうしても良心が疼いてしまい……。ついあなたのことを話してしまいました」と私に謝罪。これは仕方ないことなので快諾し、とにかく粉末の薬を飲みやすくする方法として、私はまず一つの方法を提案する。
「なるほど、ゼリーですか」とパティシエ。
「ゼリーなら子どもでも服用しやすくなりますね」と宮廷医ボルチモア。料理人の皆さんも「名案だ」「いいと思います」「早速、試してみましょう」となったのですが……。
ここでパティシエがすぐに指摘してくれる。
「ゼリーを使うのは名案であり、それはそれで貴族の幼い令嬢令息が粉薬を飲むのに役立つでしょう。もちろん、殿下に進言していいと思います。それにチョコレートに比べたら、材料費は押さえられます。それでもゼリーは砂糖と果汁を使いますよね。味なしのゼリーだと呑み込みづらいでしょうし、砂糖と果汁の二つは使うことになります。そもそもゼラチン自体も安物ではないですからね。ゼリーは王侯貴族が好むスイーツで、庶民が普段食べるものではありません」
(そう、そうなのよ!)
ゼリーは王侯貴族のデザートということは、私も分かった上で、あえて提起したのには理由がある。ゼリーのような食べ物で、ゼリーほど高価ではないもの。それを粉薬の服用に使えないかと思ったのだ。そしてそれをこの場にいる誰かが思いついてくれないか。その期待を込めて、ゼリーを出してみたのだ。
「ゼリーは砂糖を使うから高価過ぎる」
「果汁も使うから材料費がかかる」
「ゼリーと似たもので、何かないのか……」
料理人の皆さんが考え込み、宮廷医ボルチモアも、パティシエも、私も。皆で思案していると。
「あ! あれがある!」
「僕も思いついたぞ」
「自分も閃いた!」
料理人の皆さんが顔を見合わせ、そして一斉に声を揃える。
「煮こごりを使いましょう!」と。
煮こごりは貴族のディナーや晩餐会で、冷製オードブルや魚介のゼリー寄せの料理として登場するが、平民も楽しんでいるのだ。例えば小魚。本来捨てるはずの頭や骨、内臓を香草とともに煮る。これを濾して冷やしたものをそのまま食べたり、パンにのせて食べたりしていた。
「煮こごりでしたら確かに平民も楽しんでいるので、いいと思います! ただ、ゼリーより弾力があるので、柔らかめに仕上げた方がいいですよね?」
私の問い掛けに、料理人たちはすぐに応じてくれる。
「そうですね。ゼリーのような滑らかな仕上がりにして、冷やし時間も調整しましょう。具材はなしで、スプーンですくって、ごくりといけるものにすれば、ゼリーの代用になりますよ!」
「早速ですが、作ってみましょう」
「そうしましょう!」
あれよあれよという間に、平民でも家で作れる煮こごりのレシピが考案され、かつ粉薬と一緒に呑み込むのに丁度いい固さへと調整されていく。
こうして二日後。
平民でも自宅で作れる、粉薬を呑むためにおススメの煮こごり、そして貴族用のゼリーが完成した。
「私は第二王女のお世話があるので、皆さんでレグルス王太子殿下に届けてください!」
「え、でも」
「ボルチモア先生。レグルス王太子殿下は、善は急げの性格です。待たせるのはよくないですよ。それに私が第二王女殿下付きの侍女であることは、殿下もご存知のこと。私がいなくても大丈夫です。殿下の所へ行ってください!」
なんとか手柄は宮廷医ボルチモア、厨房の料理人、そしてパティシエがメインになるよう仕向け、私はさりげなくフェードアウト成功……と思っていたら……。
お読みいただき、ありがとうございます!
次話は『うん?』です! うん!?
ブックマーク登録して更新をお待ちくださいませ☆彡






















































