も~~~
「コルネ嬢、レグルス王太子殿下がお呼びです」
またもレグルス王太子殿下の従者が部屋に来て、私は彼の寝室へ向かうことになる。
(まさか今日も呼ばれるとは思わず、アプリコット色のワンピース姿なのだけど、いいのかしら!?)
前室に着くとスコット筆頭補佐官がいるので、ドレスを着ていないが、問題ないか確認すると……。
「今日はお休みであることは殿下も承知です。気にされませんよ。急に呼び出したのは殿下なのですし」
「そうですか……」
今度は何の用だろうと思いながら、スコット筆頭補佐官と共に寝室へ入った。
ベッドで上半身を起こしている、白の寝巻き姿のレグルス王太子殿下は、私がやって来たことに気づき、笑顔になる……なんてことはない。表情はないが、相変わらずの眼福の美貌で、アイスシルバーのサラサラの髪をサラリと揺らし、吸い込まれそうな紺碧色の瞳をこちらへと向ける。
「《コルネ嬢!》」
レグルス王太子殿下の心の声と、実際に口を開いて発せられた声が重なり、私は驚き焦りながら、「は、はいっ!」と返事をすることになる。
「薄いコイン状のチョコレートに、化膿止めの薬の粉末をサンドして服用する方法。コルネ嬢、君の考案だとボルチモア医師から聞きました!」
「!」
私はそこでベッドから少し離れた場所で控えている宮廷医ボルチモアを見る。彼はなんだか前世の「テヘ、ペロ」みたいな表情をしているのだけど……。
(も~~~! この件で私の名前は出さないでと言ったのに!)
私はあくまで第二王女殿下付きの侍女。それなのにレグルス王太子殿下と不必要に関わると、何を言われるか分からない。ゆえに今回の、苦い粉末の薬でもすんなり飲める秘策。これについては、宮廷医ボルチモアが考案したことにしようで、話はついていたはずなのだ。
(それなのにあっさり口を割るなんて……! ううん、宮廷医ボルチモアを責めてはダメね。彼は善性の強い人だから、嘘をつけなかっただけよ)
私がそんなことを思っている一方で、レグルス王太子殿下は……。
「この薄いチョコレートを舌に載せて服用すれば、化膿止めの薬の味を感じずに服用できます。こんな方法を思いつくなんて……。間違いなく母上も妹たちも喜ぶでしょう」
口ではそう言っているが、心の声の方では……。
《一番喜んでいるのはこのわたしだろう! 何せこの化膿止めの薬を飲む機会が最も多いのが、わたしなのだ! これを思いついたコルネ嬢は天才だと思う。まるで救世主。本当は祝いの宴を彼女のために開きたいぐらいだ》
相変わらずのポーカーフェイスで私に「ありがとう、君に感謝します」と言っているが、心の声では狂喜乱舞している。
この様子を見て「お役に立ててよかったです」と神妙な顔をするのが実に難しい!
(だってレグルス王太子殿下の心の声の方は「やった!」とか「万歳!」とか幼子のような言葉を連発しているのだから……)
「この素晴らしい発明に名誉ある褒章をコルネ嬢とボルチモア医師に贈るよう、父上に進言しようと思います」
(いや、レグルス王太子殿下、どんだけ化膿止めの薬が嫌だったんですか!? でもまあ……気持ちは分からなくはないわ)
私も膝を擦りむいていることもあり、今回の試作品で化膿止めの薬を試してみたのだ。その際、まずペロッと彼が飲んでいる化膿止めの薬を舐めてみたのだけど……確かにトラウマ級の苦さだった。
(良薬は口に苦しを王道で行く味だと思います!)
とはいえ、褒章を授かるほどのこととは思えない。宮廷医ボルチモアが授けられるならまだしも、私は……。
そこで思いつく。
「褒章は広く国のためになることをした人々に与えられる物です。ですが今回考えたついた方法は、チョコレートという高級品を使います。平民がこの方法を試すのは、まず無理です。そういう意味ですと、広く役立つ方法ではありません。あくまで王侯貴族のための、服用方法です」
「なるほどです。それは一理ありますね……」
レグルス王太子殿下、顔は無表情なのに、紺碧色の瞳は星空のようにキラキラと輝いていた。そしてその瞳で私をじっと見て尋ねる。
「平民でも化膿止めの薬を飲む機会があると思います。平民でも粉末の薬が飲みやすくなる方法はないでしょうか」
彼は口でそう尋ね、心の声ではこう言っている。
《チョコレートを使うのはあの化膿止めのような苦い薬の時だろう。通常の粉末の薬を飲むのに、チョコレートを使っては少々贅沢だ。それに貴族だって平民と変わらない生活水準の者だっている。もう少し手頃のものであれば、広く普及するはず。平民だって試すことができる。何より、苦い粉末の薬は苦手だが、そもそもわたしは粉末の薬を飲むのが得意ではない。できればコルネ嬢が思いついてくれるといいのだが……》
(なるほど。……レグルス王太子殿下は人徳者ね)
王太子という身分なのに、彼は贅沢を良しとは考えていない。それに平民のことまでちゃんと考えている。
そんなレグルス王太子殿下から「できればコルネ嬢が思いついてくれるといいのだが……」と思われてしまうと……。
「分かりました、レグルス王太子殿下。ボルチモア医師の協力を仰ぎ、そして厨房の料理人の皆さんにも協力してもらい、考案してみます」
そう応じることになった。
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