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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
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手の記憶

 まるで走馬灯のように、ダイアンとの思い出を振り返っていた。


 幼なじみであり、迷える僕にいつも適切なアドバイスをくれたダイアン。いつも一緒が当たり前で、もはや家族も同然のダイアンに、実は縁談話が出ていた。


(僕に話さなかったのは仕方ない。すぐに立ち消えになったのだから。それよりも……)


 ダイアンは結婚したら、鍛冶職人の仕事をどうするつもりなのか。まさか鍛冶職人を止め、ここから(宮殿の敷地)から出て行くのか……?


「……ダイアンはもしも結婚したら、工房はどうするんだ? 親父さんの跡を継ぐのは、ダイアンしかいないのでは? まさか鍛冶職人を止め、工房を出て、嫁ぎ先へ行くのか……?」

「それは……相手次第だろうねぇ。結婚するって、そういうことだろう?」

「! でもダイアンは子どもの頃から見習いとして頑張ってきたじゃないか! 今では宮殿のあちこちに、ダイアンが作った装飾品が飾られている。勿体ないよ、やめるなんて!」


 僕の言葉にダイアンは薬草リキュール入りのシャンパンを飲み干して答える。


「まあ、理解がある旦那だったら、子育てがひと段落した時。鍛冶職人として働くことを認めてくれるかもしれないね」

「そんなにブランクがあって、大丈夫なのか!?」

「大丈夫なわけがないさ。鍛冶の作業ってのはさ、手に記憶されるんだよ。ハンマーを振り下ろすタイミング、強さ、リズム。そう言ったものを手で覚える。動作の流れも、工具の扱いも、熱の変化なんかも、日々の繰り返しで会得しているんだ。できれば子育ての最中も、数分でいいから作業の基本を行えれば……。でもさ、乳母をつけられるぐらい、お給金がいい旦那と結婚しない限り、それも無理な話」


 ダイアンは棚から白ワインをとり、コルクをナイフで器用に開けながら、こんなことを言う。


「私がコルネ伯爵みたいな発明家で、器量よしだったら、金持ちの旦那様と結婚できたかもしれない。でも見ての通り。鍛冶の腕はちょっとしたもんだよ。でも女としてはねぇ……平々凡々。しかもこんな赤毛ときたら」「僕はそうは思わない」


 ダイアンの言葉をさえぎり、思わず口を開いていた。


「僕はダイアンのその赤毛は素敵だと思う。それに鍛冶に打ち込むダイアンは輝いて見えるし、とても魅力的だと思うな」

「はは! ミハイル、あんた優しいね。幼なじみのよしみでそこまで言ってくれるなら……私のことを嫁に貰っておくれよ」

「分かった、ダイアン。そうしよう。僕の給金であれば、乳母を雇うこともできる。それにこのまま鍛冶工房の近くに住むこともできるんだ。子育てしながらでも毎日数時間は工房へ通えるだろう」


 僕が即答すると、ダイアンは何とも言えない表情で僕を見る。


「ミハイル。そんな夢物語を私に聞かせて……。罪深いよ。ミハイルの結婚相手は、由緒正しい宮廷医ボルチモアの跡継ぎを産む必要がある。私みたいな赤毛の鍛冶職人はお呼びじゃないさ」

「そんなことはない。ダイアンみたいな才能豊かな子供に恵まれたら、大万歳だ」

「ああ、ミハイル。あんた酔っているんだね。そんなことを言い出して……。もうつまみもなくなる。これを飲んだら帰りな。明日だって仕事だろう」


 ダイアンはそう言うと、手早く薬草リキュール入りの白ワインを作り、僕の前にグラスを置く。「ありがとう」と応じ、一口飲み、深呼吸すると――。


「なんだい、ミハイル!? 急に立ち上がって! 厠にでも行くのかい!?」

「ダイアン」

「どうしたのさ……?」


 椅子から立ち上がり、ダイアンのそばまで行くと、僕は片膝をつき、跪いた。


「さっき、ダイアンに縁談話があったと聞いて、落ち着かない気持ちになった。ダイアンが工房(ここ)を出て行くことを想像したら……。これまでの僕の人生、躓くことが何度かあった。スランプになった僕にアドバイスをしてくれたのは……ダイアンだっだんだよ。当たり前のように、僕に寄り添い、支えてくれる……。ダイアンがいなかったら、今の僕はいないと思う」

「な……急にどうしたんだい、ミハイル!? あんたお酒はもう飲まない方がいいよ、そんな戯言を言い出すのだから!」

「これは戯言なんかじゃない。真剣な僕の気持ちなんだ。ダイアン、真面目に聞いて欲しい」

「ミハイル……」


 驚くダイアンの手を取る。


 その手はコルネ伯爵のような、白魚のような手――というわけにはいかない。鍛冶職人らしい、鍛打(たんだ)による傷もあるたくましい手をしている。

 だがそれこそがダイアンなのだ。


 この手には鍛冶の作業が記憶されている。


「ちょっとミハイル、はなしてよ。こんなごつい手を見ても」


 そこで僕はその甲にキスをする。


「……!」


 ダイアンの驚く様子が伝わってくる。


「ダイアンはさっき、鍛冶の作業は手に記憶されると言っていた。この手はまさに黄金につながる手だと思う。傷の一つ一つさえ、職人の神髄に思えるよ。僕はこの手がとても愛おしい」

「ミハイル……あんた、気持ち悪いよ!」

「すまない。でも僕はダイアン、君のことが好きなんだ。好きなのだと気付くことになった。どうか僕と結婚して欲しい」

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