話を戻す
「話を戻してもいいでしょうか」
そう問われ、「話……?」と一瞬考え込み、ハッとする。
(私、レグルス王太子殿下に告白されたじゃない!)
つまり話を戻すということは、想いを告げられた私の気持ちはどうか。それを確認したいということなのでは!?
そう思いながら、チラリとレグルス王太子殿下を見ると、その紺碧色の瞳が期待で輝いている。
(それだけではないわ! その表情! まるで大好きですと、心からアピールするような顔をしているではないですか!)
「……っ!」
「?」
(美貌の顔で、その表情はズルいですよ、殿下!)
《子リスはさっきから落ち着かないな。わたし自身、どんな返事をされるのか。鼓動はずっと騒がしい。でも彼女がこの状態だと……。わたしがクールダウンしなければならないと思える》
そこで咳払いをしたレグルス王太子殿下は、表情を引き締めた。いつもの彼を思わせるそのキリッとした顔も実に素敵だった。
「コルネ嬢、わたしの気持ちは先程伝えた通りだ。君のことを好きであり、愛している」
直球で、しかもその高い顔面偏差値をこちら向けた状態で改めて告げられると……。
全身がカーッと熱くなる。
(落ち着くのよ、私!)
手でパタパタとあおぎながら、深呼吸し、ゆっくり口を開く。
「レグルス王太子殿下、お気持ち、ありがとうございます。……でもなぜ私を……?」
「なぜ……それを問われるとは思いませんでした」
「そ、そうでしょうか!? 殿下の婚約者候補になっている令嬢は、皆様家柄も良く、お上品で美人で性格も社交的。おしとやかでまさに将来淑女になりそうな方々ばかりです。対して私は……侯爵家なので家柄は悪くはないでしょう。でもその爵位は父親のもの。そして私は二人の姉に比べると、容姿は凡庸。性格は……行儀見習いをしているぐらいなので、深窓の令嬢とは程遠いと思います」
そう言ってチラッとレグルス王太子殿下を見ると、彼はとても不思議そうな表情を浮かべている。
(こんな愛らしい表情もするのね……!)
「容姿については気にしないと言ったらウソになります。ですがわたしは子リスのようなコルネ嬢がたまらなく愛らしく想い、大好きなのですが」
「はうっ」と言った私はソファから転げ落ちそうになってしまう。「どうされたのですか!?」とレグルス王太子殿下が驚きながらも私の二の腕を支えてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。それにコルネ嬢はまさにわたしの痒い所に手が届く提案を次から次へとしてくれます。それに何というか、わたしの気持ちに先回りできるというか……」
そこで私はハッとする。
「その先回りの件。次から次へと提案できるのには、理由があるんです!」
《理由? 気遣い上手ということではないのか?》
(本当のことを話したら……レグルス王太子殿下は私のことを……好きではなくなるかもしれないわ。だって前世の神力と知識を活用していろいろと動いていたのだから……)
何も言わないこともできた。でもそれは何だかずるをしているような気がする。なぜならレグルス王太子殿下は、私の気遣いや先回りできた動きに好感を持っていてくれるのだから……。
「殿下は転生を信じますか?」
この世界の主の教えでは、死後の復活と永遠の命がテーマであり、「転生」の概念はなかった。
「転生、ですか。それは確か東方の神の教えで聞いたことはありますが……でもなぜ突然、転生を話題に?」
「実は私、転生者なんです」
「えっ……」
さしものレグルス王太子殿下も、私の今の発言には驚いている。
「しかもこことは違う世界、未来から転生したのです。羽根ペンの金属のペン先は、転生前の世界に存在していました。そして算盤はこの世界に存在しているのか分からないのですが、私がいた世界には存在し、その使い方を前世で習っていたのです」
「なるほど。そうだったのですね」
レグルス王太子殿下は驚いた表情を一瞬したものの、割と普通の感じで私の話を受け入れている。
でもこの一言には震撼するだろう。
「前世の私は今と同じ凡庸な人間でした。ただ、家系が少し特殊だったのです」
そこからは実家が代々神社の神主を務めていたこと。神社と神主がなんであるのか。そして私の一族は代々神力という不思議な力を持っていたことを話した。
「なるほど。代重ねをすることで、その神力は薄れてきたのですね」
「はい。私の想像の域を出ないのですが、神力が薄れてしまったのは、文明が発展したからではないかと思っています。昔は今の世界のように、神の力に頼る必要がありました。でも転生前の世界では文明が発展し、神力がなくてもやっていける社会になっていた気がします」
「それは面白い推理ですね。前世においてコルネ嬢は神力に目覚めなかった。でも転生したこの世界では神力が発現した。確かにこの世界では主に祈り、病も治ると考えられています。よってここで力に目覚めたとしても……自然のことのように思えます。もちろん、命の危機に直面し、それが目覚めのきっかけになった。それもまた、まさにその通りに思えました」
そう語るレグルス王太子殿下は、私の話を疑うことなく信じてくれる。それどころか……。
「自分の人生に大きく関わることになる相手の心は……不思議と読むことができる――そうコルネ嬢の前世の父君は言われていたのですよね。そして君はわたしの心を読める。読めるというか、聞こえるのですよね? それは……運命ということではないでしょうか」
見事なポジティブシンキングをして、彼は頬をポッと染めた。
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